TINY MUSIC LIFE

音楽を仕事にする方法やビジネス論、考察や小ネタなどをお届けする音楽情報ワンパーソンメディア。by TINY RECORDS八木橋一寛

「年内ライブイベント再開不可」というシナリオ想定におけるキャッシュポイントスライドのすすめ

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京では7月23日〜7月26日の4連休、都知事による外出自粛の呼びかけを行う意向との報道がされています。

 

タイミングを置いておけば、多くの人にとって想定の範疇であったと思います。

さらに言えば、まだ何度も外出や営業自粛の要請は出るでしょう。

 

私は音楽関連の仕事を続けてきているので、ここで書くことはその目線での話となります。

 

前提として、2020年内は観客を会場キャパシティの上限まで入れたコンサート開催は難しいと考えています。

その前提で考えているので、キャッシュポイントを年内に設定した業務継続にはいささかの無謀さを感じています。

 

そう感じる理由や、

「ではどうすれば良いのか?」

という事について今回は考えてみようと思います。

 

 

2020年内のコンサートビジネスの見立て

年内のキャッシュポイント設計の難しさ

ことコンサート業界に関しては、ライブハウスなどすでに多くの閉店や廃業が出ており、自粛を行いたくともできない店舗や会社の数も経過と共に増加する事が予想されます。

 

自粛を行わなければ多くの非難も浴びるでしょうし、会場やイベントなどは制限内での営業では満足な収益は取れないでしょう。

 

私自身、これまでのライブ現場関連を主体とした仕事から、原稿仕事のウエイトを増やした事や、先日書いたオンラインショップを始めようとする理由にもなりますが、少なくとも年内に観客を入れたコンサート関連業務でコロナ以前の売上を取り戻すのは無理だと判断しています。

 

しかし、それは音楽業界の仕事を辞めるという事を意味してはいません。

音楽業界の仕事を続ける為に、そう判断して動いています。

 

その理由に移ります。

 

これまで同様のコンサートビジネス(キャパ上限までチケットを販売する)を行う為には、新型コロナ終息が必須条件ですし、どのようなウイルスか分からなかった当初は「終息(せめて収束)まで耐え忍ぼう。」という舵きりを多くの企業や個人がしたはずです。

 

次第に「ワクチン開発と普及までは最短でも1年半〜2年はかかる」、「国の補償はこの程度が期待できる(この程度しか期待できない)」、「世論はこんな風に動く」という事が見えてきた現在、”耐え忍ぼう”を実践するには内部留保や貯蓄といった体力勝負になってしまいます。

 

感染拡大防止だけを考えれば、全ての企業や個人が外出を控え、外出が必要な業種は完全に業務を停止するのがベストですが、そんな事が可能な企業や個人、期間は限られています。

 

体力が無ければ、自粛要請があっても営業をするしかなくなりますし、幾ばくかのランニングコストはかかりますが、業態のピボットを取り入れてコロナ以前とは違う収益モデルの構築に着手する事になります。(私の場合は後者になりますね。)

 

前者の場合、営業を行えば収益は発生はしますが、キャパ制限や外出控え・批判がある以上、コロナ以前と同様の物にはなり得ません。

 

コンサートビジネスの場合、ライブ配信から収益化する動きも高まっていますが、以前サザンオールスターズのライブ配信記事でも触れた通り、パイを取り切った一部のアーティストでしか実践は難しいと思っています。

 

音楽業界での仕事を継続する事を考えた時に、そもそも自分自身や企業が存続していない事には始まらないわけですから、

「自分(または企業)が死なない事」

が大前提だと考えています。

もちろんこれは経済的な意味になります。

 

業態のピボットでコロナ終息まで延命ができたり成功可能性があるのであれば、無理に大幅に削られた収益の中で継続した業態を貫き通すことは無いと感じています。(ライブビジネスをしたいという理想や思想は重々理解していますがそれでも)

 

クラスター感染源にでも認定されてしまえば、それこそその業態での収益化は難しさを増してしまうでしょうし、資金的体力に応じた"死なない"舵きりが問われているはずです。

 

コンサート業界に限って言えば、一番恐ろしいのは、

「さあ、遂に終息したので、存分に再開してください!」

と言われた時に、会場やイベンターも、音響や照明会社も、舞台の設営や警備会社も無くなってしまっていて、開催ができなくなる事だと思っているので、その為の死なない選択という話になります。

 

赤字リスクの回避

このような状況下においても、年内日程で開催発表をしたフェスやコンサート、ライブハウス営業は多く見られます。

 

ライブ配信にも有料チケット販売を行ったり、投げ銭やクラウドファンディングなど、集金ポイントを別に設けた形も増えています。

 

但し、これらがコロナ以前と同等の収益になるのかと言えば、一握りにはなってしまうでしょう。

 

音楽業界というのはちょっと変わっていて、ビジネスではありますが、純粋なビジネスとしてだけでは無く、カルチャーであるという強い自覚を持っています。

 

例えば、ベンチャーやスタートアップがもはやブーム化している現在においてさえ、音楽がその起業の対象になっているのはほとんど見たことが無いと思います。

ターゲットがマスになるほどに閉鎖的な側面もある業種なので、参入障壁が高いこともあるとは思いますが、そもそも新規でビジネスになるマーケットと判断されていない事もあるはずです。

 

簡単に言えば、

「好きだからやっている」

という想いが他業種に比べて強いのです。(もちろん私も。)

 

それ自体は最高に素晴らしいですし、この業界の最大の魅力でさえあると思うので、私個人としてもその気持ちが無い人とはお付き合いをしていません。

ただ、時にその事で盲目になり、仕事としては良くない結果を生むこともあると思っています。

 

現状、十分な収益が見込めない中でも開催や営業を行うコンサートイベントの中には、ビジネスとしての勝算よりも、情熱や思想、メッセージが優っている場合が多いように感じています。

開催自体に反対ではありませんし、私自身も年内にライブ関係の仕事をする可能性は十分あります。

 

しかし、ビジネスや業務として行う場合、資金的な体力が無い中で、金銭リスクを負って開催を強行するのは得策では無いようにも思っています。

 

7月に入り、更に年内の日程での開催発表を多く見るようになっている中で、

「中止になった場合、大丈夫なのかな。。。?」

と見る都度気になってしまいます。

 

プレイガイドへの返金手数料や、会場のキャンセル料、プロモーション費用等々、この状況なので、関係各社も中止時には状況を考慮した対応はしてはくれると思いますが、極端に言えば開催当日に中止にせざるを得ないケースもあり得ます。

 

開催直前になる程に、場内装飾や弁当などの食事、各人件費など予算が動いてしまうので、赤字リスクからは逃れられません。(イベント準備に充てた従業員の人件費もタダではありませんし。)

 

そこも踏まえて開催を決行するのであれば問題ありませんが、

「音楽カルチャーはコロナに負けない!」

的な気持ち先行の開催となると、立ち止まって深呼吸をしてみても良いかもしれません。

 

2021年以降への種まき期間に

ここが今回の主題です。

 

ここまで書いてきた事をざっくりまとめるのなら、

「死んだら終いや。無茶はよせ。」

みたいな話でした。苦笑

 

但し、何もしない方が良いとか、単に別の仕事に切り替えた方が良いという事ではありません。

 

少なくとも2020年内にフルキャパでのコンサートイベント開催は難しいという見立ての中、終息は必ずするという前提で考えるのなら、終息後のブーストに注力すべきと考えています。

 

私がここで書くまでもなく、そのような動きをしているイベンターや会場は多くみられます。

わかりやすい例で言えば、SUPERSONIC開催ステイトメントへの記事を以前書きましたが、まさにこのスパソニからはそのマインドを感じます。

 

コロナショック以降、観客を入れた1万人規模のビッグフェスは世界中のどこでもまだ開催されていません。

 

キャパ制限をはじめとしたコロナ対策を行った上での開催となる為、チケット販売上限まで売ってもおそらく大きな収益にはならない事が想像されますが、それでもファーストペンギン役を意識的に買って出ています。

(開催まで2ヶ月を切った7月21日に第4弾ラインナップ発表を行なっていますので、現時点でも開催の意思を見せています。)

 

小規模なライブハウスの営業が再開しても、なかなか再開の機運にはなりにくいですが、スパソニ(サマソニ)規模のフェスの影響度は国内のコンサート業界全体や世間の意識に関わってくるはずです。

 

4大フェスと呼ばれる国内大型フェスが軒並み中止・延期となった中で、現状の開催ステイトメントは”勇敢なる希望の星”として写っています。

 

オンラインでのサマソニアーカイブフェスもその一端を担っているでしょう。

 

これらの動き意思表示により、

「もし中止になったとしても、来年は絶対に行きたい!」

と感じている人は多いはずです。

 

当然中止リスクも高いので資金的にかかる負担は大きいですが、仮に中止になったとしても、サマソニ(スパソニ)のブランドイメージ戦略としてはすでに成功していると言えるでしょう。

 

もちろん、これは主目的ではなく、ステイトメントにもあるように、「コンサート関連企業やスタッフへの雇用確保」や「再開の兆し作り」が最大の目的という事は状況を考えても間違い無いので、ブランディングについては最優先してはいないでしょう。

 

かつてないライブエンタメの停止期間が生まれている今、そのファンにとっては再開時にはとてつも無いカタルシスが生まれるはずですし、それに従事する者にとっての一番の期待はそのカタルシスによる事業のブーストです。

 

しかし、一度コロナのようなウイルスによる大きな影響を目の当たりにしてしまったファンが、そっくりそのまま戻ってきてくれるのかというと私は確信が持てていません。

 

「また同じような事が起こった時の為に、散財せずに貯金しよう。」

「案外、出かけずとも自宅や近所でも楽しめる事が分かった。」

これまでのファンがそんな風に思っても不思議ではありません。

 

短絡的な希望を言えば、

「これだけ自粛をして我慢したのだから、再開したら一気にコンサート需要が増えるはずだ。」

とも考えられますし、

慎重に考えるのなら、

「需要の減らない努力や、減ってしまっても取りこぼしを減らす策を練ろう。」

とも考えます。

 

コンサートビジネスが2020年内に大きなキャシュポイントを設計する事は大半の企業や店舗にとっては難しいのは間違いないので、無理に年内にキャッシュポイントを作ろうとして赤字や批判のリスクを増やすよりは、2021年以降のコロナ終息後の為の種まき期間として割り切るのも一つの手では無いかという訳です。

 

あくまでもスパソニは一例なので、意思表示をブランディングとする以外にも、方法はいくつもあると思います。

 

新たな集金ポイント設計の検討でも、新しい演出や装飾の準備でも、店舗ならレイアウトの見直しやピカピカに掃除をするだけでも無駄にはならないはずです。

終息しても必須になるであろう、配信環境や電子マネー/オンラン決済、SNS運用の拡充といったこれまで営業が走ってしまっていると手が回らなかったサービスに時間の割ける機会でもあります。

 

どの程度まで年内の収益を捨てられるかはそれぞれの体力次第にはなりますが、ことコンサートビジネスに関しては「無理なものは無理」という箇所が存在するのは確かなので、その見極めだけは意識したい(して欲しい)と思っています。

 

まとめ

今回も長々と書いてしまいましたが、私自身にお付き合いのある会社や、仲の良いライブ会場、好きな同業者が沢山いるので、シンプルに廃業して欲しく無いという気持ちが非常に強いことによるポジショントークである事は否めません。

(全く音楽に関心が無い人にとっては、そもそも「必要ないから大人しくずっと自粛してろ。」という話でしょうから。。) 

 

心境的には途中で書いた、

「死んだら終いや。無茶はよせ。」

 に集約されているかもしれません。

 

更に、私は現在41歳なのですが、例えば自分が20代の頃にコロナショックが起きたとしたらと想像すると、おそらく

「音楽は必要なんや!コロナなんかに負けへんで!」

と、ビジネス視点抜きでガンガンイベントをやろうとしたのではないかと思います。(もちろん制限の範囲内、それもギリギリのラインで)

 

個人の趣味の範囲のイベントであれば、自己責任で済むところもありますし、結果に問わず影響力も少ないので制限内で行う分にはどうという事はありませんが(というか余裕のある組織や個人はどんどんやってくれる方が会場やアーティストとしては有難いと思います。)、職業として見た場合、死なない(廃業しない失業しない)事を優先すべきだと思ってしまいます。

 

客観的に「自分の努力ではどうにもならない部分」を見極めて、冷静に「その中でどうすれば良いか」と考えるべきではないかという事。

 

その結果、私としては「2020年内に観客を入れたコンサートビジネスでキャッシュポイントを作る事は不可能。」という答えに辿り着き、実際に年内に自分からその形で仕事を作ろうとはしていません。

 

コンサート業界の中でも業種も分かれますし、規模の大小もあるので、それぞれの検討結果があると思いますが、音楽が好きな人が集まっている業界だからこそ起こり得る、

「音楽の為ならこのままコロナ禍と心中しても結構。」

と神風特攻隊のようなマインドにだけはならないで欲しいという気持ちを込めて、今回は締めたいと思います。

 

ではまた◎ 

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