TINY MUSIC LIFE

音楽を仕事にする方法やビジネス論、考察や小ネタなどをお届けする音楽情報ワンパーソンメディア。by TINY RECORDS八木橋一寛

6万人の視聴者数を集めたサカナクションのオンラインライブ『SAKANAQUARIUM 光』に見る収益化の可能性

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し前の出来事のお話になりますが、NewsPicksで今日こんな記事が公開されました。

8月に行われたSakanaction(サカナクション)のライブ配信に関して、同バンド所属事務所となるヒップランドミュージックの代表に取材した記事となります。

 

ビジネスパーソン向けのメディア内での取材という事で、音楽ビジネスの新しいモデルや収益ポイントとしての"ライブ配信"についてを主とした内容で、その記事を受けた所感や考察を自分なりに咀嚼してみたいと思います。

 

 

2億4千万円のチケット収益と1億〜2億円の開催費用

同記事によると、2020年6月30日現在の速報値で、ライブコンサート市場は1241億円となり、昨年比の3割弱にまで落ち込んでいるとの事。

 

近年は生命線として音楽業界を支えていたライブコンサートビジネスがコロナにより停止した中、音楽アーティストの表現方法としても、業界の収益口としても期待されているのがライブ配信です。

 

過去このブログ記事でも、サザンオールスターズのライブ配信で18万枚のチケットセールスを記録した事や、ライブ配信における考え方や位置付けについて触れてきました。

8月15日、16日の2日に渡り開催された、サカナクションによるオンラインストリーミングライブ『SAKANAQUARIUM 光』は、チケット料金4500円(早割4000円)で視聴が可能となり、メディアやメンバーの口からも6万枚をセールスしたことが発表されています。

 

チケット料金4000円×6万枚=2億4千万円

を売り上げたという結果になります。(早割購入比率不明の為、4000円の方で計算しています。)

 

3600円のチケットを16万枚セールスしたサザンオールスターズには及ばないまでも、まだまだ黎明期にある有料ライブ配信で6万枚をセールスしたのは単純に凄いです。

 

今回は収益化についてに焦点を絞る為、その配信内容についての言及は行いませんので、となると気になるのは開催経費です。

 

ネット上を見ると、山口一郎さんによる「1億円を超えた」という発言や、テレビの特集内では「2億円近い」という言葉もあったなどと言われています。

 

TOKYO FMのレギュラー番組内では、

「これで赤字じゃないですよね? 黒字ですよね?」

と訪ねた山口氏に対し、

「おう。今日のライブは黒字だ。だが、ツアーが中止・キャンセルになった分を含めるとまだ赤字だな!」

と所属事務所社長に返されたというエピソードが語られていたそうです。

 

2億4千万円のチケット売上には、販売プレイガイドへの手数料も掛かりますし、これらの発言から以下のように察することもできます。

 

「1億円を超えた」という発言は、配信設備や会場使用料、現場スタッフ人件費などの純粋な製作コストについての発言で、「2億円近い」というのは、販売手数料や事務所側の収益分(アーティスト本人へのギャラやマネジメント社員への給与など)を加味した事務所目線での費用算出のように思えます。

場合によっては初のライブ配信ということもあり、想定していたバジェット以外に進行する中で発生した思わぬ費用もあったのかもしれませんしね。

 

そう考えると、1億円とも2億円近いとも言われる理由についてはすっきり合点がいきます。

 

ライブ配信でのチケット収益化に際する課題点

複数公演の難しいオンラインライブ

ライブ配信1公演でおよそ6億5千万円のチケット売上を立てたサザンオールスターズにしろ、今回のサカナクションにしろ、公演単体で見ると黒字ではありますが、現状は

「リアルな公演が中止、または新規で組めない代替」

と位置付けられている面が強いです。

 

先のサザンオールスターズも16万枚のチケットをセールスはしましたが、1公演のみでした。

リアルにツアーを組んだ場合は、組んだ本数だけチケットの販売機会が生まれますが、ライブ配信の場合は世界中の人が同一公演を観ることができる為、複数回の販売機会を作る難しさがあります。

 

先ほどの

「今日のライブは黒字だ。だが、ツアーが中止・キャンセルになった分を含めるとまだ赤字だな!」

というのは、単体で考えれば確かに黒字ですが、リアル開催として複数公演のツアーが行えた場合の収益と比べてしまうと赤字だと事務所は捉えざるを得ないという訳です。

 

チケット単価の違い

私の知る限り、ライブ配信のチケット料金はリアルなライブに対して低い料金設定をしています。

例えば今回のサカナクションのチケット料金は4000円、サザンは3600円

当初予定していたサカナクションの今回のツアーは8800円、サザンの昨年のツアーは9500円でした。

 

いずれもオンラインになると半額以下のチケット料金となっています。

これまでライブコンサートでの収益化はチケット販売を主としていた為、リアルなツアーと同等のチケット売上をライブ配信に求めると、単純計算では【×公演本数×2(チケット代が半額だとする場合)】分の売上を1回のライブ配信で立てる必要に迫られます。

 

チケット単価がリアルに劣るのは仕方がない事なので、私個人の考えとしてはここの単価化を狙うのは現実的ではないと思っています。

アーティストやレーベル単位になるとは思いますが、ファンクラブなど会員・登録制の定額サービスを設けて、ライブ配信視聴をフックとしたチケット売上以外の収益口に誘導するのが現実的のように考えています。

 

また、「THE FIRST TAKE」のようにオンラインで良質な音楽コンテンツを提供するチャンネルなども今後さらに増えることが予想されるので、ライブパフォーマンスをすることが収益になる選択肢はまだまだ増えると思っています。

 

とはいえ、開催費用には大差がないリアル公演とオンライン公演ですが、チケット単価は半額以下に下がってしまう点は、今の今を考えるとネックとはなってしまいますよね。。。

 

複数人視聴が可能なライブ配信

リアルな音楽コンサートに行く場合、「一緒に行こう!」と複数枚のチケットを代表者が同時購入するケースが多くあります。

体感的にもそんなイメージはありますし、多くの公演は"4枚まで"のような購入上限が設けられていることからもその傾向は明らかです。

(購入上限については転売対策ですが、それでも上限付きで複数枚が買えるのは来場者の多くには同行者がいる前提だという意味で)

 

転じてオンラインだとどうでしょう。

1枚のチケットを買えば複数人でそのライブ配信を視聴する事が可能になります。

 

これまでは配偶者とライブに行っていたという人は、自宅で一緒の端末で視聴をするでしょうから1枚チケットを買えば事足りてしまいますし、仲の良い音楽仲間がいれば割り勘してチケットを購入して集まって一緒に視聴をすればこれもまた事足りてしまいます。

 

そんなスタイルの視聴者がどの程度存在するのかはそういった調査やデータもないのでなんとも言えませんが、一定数の販売ロスのタネにはなっているかもしれません。

 

最後に(まとめ)

収益化のみで言えば、今回取り上げた 『SAKANAQUARIUM 光』の結果が大きな成果を残したとは捉えがたいですが、まだまだ黎明期で今は有料のライブ配信に触れる母数を増やすタームだと思うので、そういった意味で3Dサウンドなども取り入れた新たな試みをサカナクション規模のアーティストが実施した意義は大きいと思っています。

 

今はまだ、"組んであったリアル公演の代替や補填"として急遽シフトチェンジをしてライブ配信での開催を行うという位置付けですが、新たな表現方法やリアルとはセパレートしたビジネスモデルとしてのライブ配信が始まるのはこれからなので、"今潰れさえしなければ"音楽ライブコンサート業界は一層の盛り上がりを見せる可能性もあり得るはずです。

 

せっかくのオンラインライブなので、「従来型の公演プロモーションではなく、SNS上でのバズと紐付けたプロモーションなどが出来ると、視聴者数を跳ね上げる事も出来るのだろうけどなぁ。」などとおぼろげに思ったりもしましたが、それはまた次の機会に。

 

ではまた明日◎ 

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