TINY MUSIC LIFE

音楽を仕事にする方法やビジネス論、考察や小ネタなどをお届けする音楽情報ワンパーソンメディア。by TINY RECORDS八木橋一寛

音楽ライブ配信はリアルの代替として作るべきか別物として作るべきか

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日の記事に引き続き、今日もライブ配信にまるわるお話を。

 

「音楽ライブ配信が同業界の窮地を救うコンテンツになり得るのか?」

といった内容の議論や意見交換がこの数ヶ月至る所で行われてきたと思います。

 

観客を入れた公演が行えないという甚大な収益ロスにより、半ば強制的にそうせざるを得なくなった事もあって、その議論や意見の内容は主に"収益化実現の可否"が中心となっていました。

 

私がいくつかの配信を観て強く感じたのは、音楽ライブ配信を収益化に繋げる為には、

「ライブ配信はリアルの代替なのか、それとも別物なのか。」

という点だけは取り組み前にクリアにしておくべき大前提であるという事。

 

結論を先に書いてしまうと、多くの場合、別物に振り切る方が良策のように考えています。

 

そんな結論に至った理由について書き進めていきたいと思います。

 

 

遅れを取ってしまった日本における音楽ライブ配信

観客を入れたリアルなライブが行えない現状において、ライブ配信はその代替方法として活性化を見せています。

 

そもそもコロナ禍以前からライブ配信自体は存在してましたし、海外のビッグフェスでは日本に比べてかなり早いタイミングからリアルタイムでのライブ配信も行っていました。

アメリカ最大規模の音楽フェス「コーチェラ」では2016年の時点で既にVRの導入にまで着手しています。

 

しかし、日本におけるライブ配信はこれに比べ大きな遅れを取っていました。

 

その理由は複数挙げる事ができますが、特に大きな理由としてはアーティストの所属事務所、レーベルという障壁でしょう。

 

過去記事での海外と日本でのアーティスト名に対する取り扱いの違いでも触れましたが、日本はアーティストのビジュアル露出に対して非常にナーバスな面があります。

 

加えて、多くのビッグアーティストが音源ストリーミングへの提供に二の足を踏んだように、ライブ配信においても「オンライン上でライブを観せてしまったら、チケットが売れなくなるのではないか?」といった思考がそれを助長した側面もあったでしょう。

 

そんな中で起きたリアルなライブの強制終了によるオンライン配信への移行。

強制終了だった為に、ライブ配信実施の理由付けに"やらざるを得ない"という側面が加わってしまいました。

 

その為、「ライブ配信というものがリアルなライブの代替なのか、それとも別物なのか?」という掘り下げや意味付けが不十分な状態で走り出してしまい、厳しめな感想を述べると「なんだか煮え切らない。」と楽しみきれない事も幾度かありました。

 

最優先すべき視聴者の満足度

そもそもの話を言うと、私の持論としては、これまでライブチケット売上を主な収益先にしていた業種においても、必ずしもライブ配信にキャッシュポイントを作るべきだとは考えていません。

ライブ配信は認知や人気獲得の窓口と割り切り、キャッシュポイントは別で設計し得ると思っているからです。

 

とはいえ、これはアーティスト目線なのかイベンター目線なのか会場目線かによっても可能性は異なりますし、扱っているジャンルやターゲット層でも成功確度は変わってしまうでしょう。

 

なのでここでは、音楽ライブ配信そのものから直接収益化を考えた場合という事で話を進めます。

 

音楽ライブそのものに価格を付けそれを販売すると考えた場合、観客を入れた場合でも配信オンリーであっても"集客商売"であることに変わりはありません。

視聴者から直接料金を受け取る収益設計になるので、そのライブ配信から収益を受け取るアーティストやイベンター、会場の誰にとっても視聴者がお客様になります。

 

となれば当然、継続的にライブ配信から収益化を図るのであれば、視聴者の満足度を高める他に手段はありません。

いくらファンでも満足度の低い商品に長期的には大切なお金を使うことはできないはずなので。。。 

 

リアルとは別物としての配信ならではの特色を

視聴者の満足度を考えた時に、オンライン配信という方法をリアルの代替とするのか、別物として提案するのかの違いは大きいと感じています。

 

以前にも書きましたが、スポーツであれば細かなプレーを大きく観ることができる配信のメリットもありますし、音楽でも例えばアイドルなどのルックスも商品になっているのであれば配信の強みはあります。

 

しかし、そうではない音楽ライブの場合、細かなステージ上の絵が観れる事に大きな付加価値はないでしょう。

 

特に、近年音楽業界を支えてきたコンサートビジネスは、紛うことなきゴリゴリのコト消費です。

邦ロック好きやロキノン系と呼ばれるような若年層をクラスタ化する事で大きく発展してきた国内のライブ市場は、ライブ会場の現地で同じクラスタとの出会いや再会、熱気の共有が消費行動の大きな原理になっていたと思います。

 

小規模会場でも、私の場合はどのライブを観に行くでもなくお酒を飲んだりスタッフさんと会話をする為にライブハウスに足を運ぶ事が多く、これもある種のクラスタ化による集客と言えるかもしれません。

 

また、当然ながら音楽ライブを配信に代替する最大の難しさは音の出力環境にあります。

いかに自宅の音響環境に投資をしたとしても、ライブハウスの現場で鳴る音に勝ることはありません。

 

これらは配信では代替や再現が不可能だと私は思っています。(数年、数十年先のテクノロジーの進歩があればまた別ですが。)

 

単に音楽ライブを映像配信したような物になると、最初の数回は「観れて嬉しい。」と思えますが、回を重ねる毎に上述したようなリアルでの喜びからの"ロス"が浮かび上がってしまいます。

 

これまでのリアルのライブの場についていたファンや顧客を、そのままライブ配信にスライドしてもらおうとするのであれば尚更、視聴者の満足度を高めるにはリアルとは別物として振り切ったコンテンツ作りに特化すべきだというのが、この話における私の結論という事になります。

 

最後に

補足的に付け加えると、クオリティを優先できる資金や人的リソースがあるのであれば、リアルタイムのライブ配信である必要性は無いようにも思っています。

演奏中に書き込まれたチャットを読み上げる事も返事をする事もできないので、音楽ライブの場合リアルタイムであるメリットが薄いように思うからです。(曲間に書き込みにレスポンスするケースもいくつかありましたが。)

 

視聴者の満足度をリアルタイムの交流に作れないのであれば、配信する映像やサウンドのクオリティやアイデアにそれを求めるしかありません。

 

何より避けるべきなのは、視聴者の満足度を満たさないサービス提供だと思うからです。

 

クオリティ増については予算も掛かる事なので、小規模組織には現実的ではありませんが、可能な会社も多くあるはずです。

率直に言うと資金力のあるビッグアーティストほど、リアルのライブをそのまま配信に置き換えているケースを散見したので、面白みを感じる事が出来ずに最後まで観たいと思えませんでした。

 

過去に書いたサザンオールスターズのような特例もありますが、例えば国内の音楽フェスの配信視聴者数を見ていると、無料配信であってもリアル開催時の来場者数と大差の無い視聴者数だったりもしています。

 

今回の話については、「絶対に単なる代替で収益化は無理なのでやめた方が良い。」という事ではなく、単純に私自身が視聴者としてライブ配信を観た際に、「リアルを代替しようとしているだけで面白く無い」と感じるケースも多かったので、ユーザーとしての感想が軸になっています。

とはいえ、どちらに振るのかはぼんやりさせず、提供者側は意識的に配信すべきとは思いますが。

 

ただこれって、リアルなライブを幾度となく体験してそれを知ってしまった私のような人はそう思うだけで、それこそ音楽ライブ配信ネイティブみたいな世代が出てきたり、会場に行ってまではライブを観なかった層には代替としての提供でも十分満足度は与えられるのでしょうね。

 

ではまた◎ 

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