海外アーティストに関わる業務を行う中で、
「そこはアバウトなんだ。」
とか
「そこ気にしないの?」
と思う事がしばしばありました。
その際たる物に、「アーティスト名表記」と「ライブ写真」の取り扱いについての違いがあります。
アーティスト名にしても写真にしても、世間の目に触れるものをコントロール・管理する理由としては、ブランディングの視点によるところが大きいです。
今回は海外と日本の「アーティスト名表記」と「ライブ写真」の取り扱いの違いや、その違いが生まれる理由について考えていきたいと思います。
アーティスト名表記の違い
もしかしたら、一般のお客さんは特に気にしてはいない部分なのかもしれませんが、アーティスト名を表記する際には、雑誌にしてもWEB記事にしてもイベントフライヤーにしても、大文字小文字まで間違いの無いように注意を払って記載しています。
全大文字の表記もあれば頭文字のみ大文字もありますし、近年では通常の英語表記では書かないような大文字小文字の使い分けを公式のアーティスト名にしている場合も少なくありません。
この大文字小文字などを間違えて露出をすれば、アーティストサイドから修正依頼が入ります。
私の場合、もともと音楽関係の仕事のスタートがレコード店だったのですが、(今は分りませんが当時は)多くのレコード店はコンピュータでの商品情報管理の都合上、アーティスト名表記は問答無用で全大文字が基本でした。
なもので、そのあとにライブ周りの仕事にシフトした時は、あまり意識せずにアーティスト名を全大文字で表記してしまったりして、何度か修正依頼をもらう事でこのマナーに気が付きました。(気がつくの遅いっすね。汗)
ただこれが海外アーティストとなると、綴り間違いはもちろん指摘されますが、大文字小文字で指摘をされる事はほとんど無くなります。
むしろ、「全部大文字?頭のみ大文字ですか?」と尋ねても「どちらでもOK!」というケースがほとんどです。
例えば、レディオヘッドほどのビッグアーティストであっても、"RADIOHEAD"でも"Radiohead"でもどちらでも指摘はされません。
この違いの理由はおそらく単純な事で、日本人にとって英語はネイティブな言語では無い事に起因すると想像されます。
ネイティブから見て、表記として不自然な箇所があれば修正はかけると思いますが、頭大文字でも全大文字でもどちらも不自然な表記ではありません。
対して、ネイティブでは無い日本人にとっては意味は理解しているとはいえ、どこかアルファベットを記号のように捉えている部分があり、記号として大文字小文字の細かな指定をブランディングに組み込んでいるように思います。
私個人的な感想としては、海外のロック系アーティストが特に好きな事もあり、
「この細かいことを気にしないラフな感じ、かっこいい。」
と思ってしまいました。
ちなみにこれはテキスト表記の場合になるので、ロゴ使用については日本も海外も厳格な指定はあったりします。
ライブ写真取り扱いの違い
ライブ写真については、一般のお客さんもピンときやすいと思います。
日本のアーティストのコンサートや国内アーティスト主体のフェスに行くと、”写真撮影禁止”という注意書きがあったり、逆にOKの場合はわざわざOKである事を強調してアナウンスしているのを見たことがある人も多いでしょう。
私の場合、初めて行った音楽フェスは1999年のフジロックなのですが、演奏中のステージもバンバン撮影OKでしたし、若い頃は特に海外アーティストばかりを好んで聴いていたので、どのフェスに行っても写真撮影を禁止される事はありませんでした。
みなさんご存知の通り、現在海外アーティストのライブは写真OKの場合がほとんどです。
ちなみに、望遠レンズなどのついたプロ仕様のカメラはNGになるケースも多いですが、これは高クオリティな写真をおさめられすぎると、それを商品として販売する人が出てしまうためです。(今となってはスマホが高画質なのであまり意味をなさない理屈ですが)
しかし、邦楽フェスの隆盛がおそらく契機となると思うのですが、国内アーティストのライブとなると撮影不可なだけではなく、カメラをステージに向けようものならそれを見た一般のお客さんから注意をされてしまうくらいに、ステージ撮影不可というのは基本マナーとして浸透しています。
何年か前に、アミューズ主催のつま恋でのフェスに行った事があったのですが、フジロックやサマソニの感覚で「おーこれが会場かー。」とステージまで何百メートル離れた場所からスマホをかざしたら、「写真はダメなんですー!」と知らない女子に激オコで注意されてしまい、トラウマすぎてこのフェスでは一枚も写真を撮りませんでした。涙
お客さんの目線でもこのような違いがありますが、裏側も同様に大きな違いがあります。
単独でもイベントでもフェスでも、ライブ写真を露出する際にはアーティスト側に必ず確認を取ります。
使用の確認を取るところまでは同じなのですが、そこからがかなり異なります。
大半の日本のアーティストの場合は、使用OK、使用NGの確認を写真ごとに取ります。
もちろん、全ての写真となると数百枚となってくるので全ての写真はチェックしませんが、ある程度主催側が絞り込んだ中からOKとNGの写真の回答をいただいた後に、晴れて皆さんに露出できるわけです。(フェスなどですぐにアップされるアーティストとなかなかアップされないアーティストがいる理由になります。)
これが海外アーティストとなると、このチェックを求められるケースがかなり少なくなります。
「そちらで良いと思った写真を使ってくれればOK」
という事が非常に多いのです。
男性アーティストであればまあ分かりますが、結構ルックスも売りになっていそうな女性アーティストであっても写真ノーチェックな事も多く、逆に「ほんとに大丈夫すか、、?」と心配になるくらいです。
もちろん全ての海外アーティストがノーチェックなわけではありませんが、アーティスト規模の大小や男女の区別はなく、超ビッグアーティストでもノーチェックだったりしますし、デビュー間もなくてもチェックをする場合もあります。
ここでも私個人的な感想としては、海外のロック系アーティストが好きな事もあり、
「この細かいことを気にしないラフな感じ、かっこいい。」
と思ってしまいました。
ちなみにこれはライブ写真の場合になるので、公式なアーティスト写真の使用については日本も海外も厳格な指定はあったりします。
スマホ・SNS時代のブランディング
表記ルールやロゴによるブランディング
アーティスト名の表記ルールの違いについては、すでに書いた通りでまあ間違い無いようには思いますが、海外アーティストのラフさは結果的に時代にもフィットした合理的なものように捉える事もできそうです。
かつてはアーティスト名が一般に向けて露出するのは、企業メディアや印刷物だけでした。
しかし、個人がSNSを活用し始めた事で、誰もがアーティスト名を入力して投稿を行うようになった現在、大文字小文字の違いを逐一個人に向けて修正依頼を出すことなどできません。
そして、個人の発信力が高まるほどに、表記への細かなこだわりはそのブランディング的意義を弱めます。
有名なファッションYouTuberの人が言っていたのですが、
「バレンシアガやバーバリーなど、近年多くのアパレルブランドがロゴをシンプルなフォントに変更をしている理由は、スマホのディスプレイで表示をしてもロゴが潰れて見えないようにしたり、インスタなどで個人がアップした際にブランド名の視認性を高めるため。また、テキスト入力をした際にも正式なロゴとのフォントイメージが近くなるため。」
というような理由を唱えておりました。
音楽アーティストにおいても、SNS上で個人に取り上げられやすい対象ではあるので、アパレル同様に個人が発信する事を意識したブランディングが問われるように感じます。
そう考えると更に、細かな表示ルールにこだわったブランディングは、時代的には意味をなしにくい傾向にあるのかもしれませんね。
ライブ写真によるブランディング
SNS全盛の現代において、SNS上での露出は大きなプロモーションになっています。
最も顕著なのが海外の巨大EDMフェスかと思います。
ド派手なLEDや特殊効果を使った演出、場内の象徴的なオブジェの数々は、いわゆるインスタ映え抜群です。
写真の撮影も投稿も自由な訳ですから、多くの来場者が発信をする事で、口コミ的に人が人を呼びあっという間にビッグビジネスに成長を遂げました。
これは個人が発信している事が重要で、主催側が同じ写真を投稿しても同様の拡散性は見込みにくく、写真や動画という絵と共に、「楽しい」という感情を消費者側の来場者が発信してこそリアリティを帯びてきます。
転じて写真撮影NGの場合はどうでしょう。
来場者は「楽しかった」などのポジティブな投稿はしてくれますが、そこに楽しかったシーンは絵として投稿されていません。
写真があったとしても、止むを得ずその公演の看板やパネルをアップするくらいです。
既にそのアーティストやイベントが楽しい事を知っている人なら共感できますが、そうでない人にとっては絵があるのと無いのとでは印象に大きな違いがあります。
写真チェックにしても、チェックなしであればすぐに写真を露出することができ、タイムリーな熱気のあるうちに写真を届けることができますが、チェックがあることでタイムラグが生じてしまいます。
バズり損ねてしまうとでも言いましょうか。
とはいえオフィシャルな写真については、アーティスト側とあまりにも感覚のズレた写真をチョイスされてしまうリスクもあるので仕方が無いようには思っていますが。
写真制限の本質は、納得のできる露出を徹底することによるアーティスト・ブランディングです。
(これだけネット上に写真が出回る時代に、販売目的の抑制という理由はもはやナンセンスですしね。)
来場者の写真撮影については、よほど制限をすることで確信できる効果がある場合やファンを完全に上限まで取り切っているような状況を除けば、OKにする方がメリットは大きいと個人的には考えています。(ビジネス視点だけで言えば。)
ファンであれば、写りの良い写真を選んでアップしてくれるでしょうし、シンプルに音楽ライブって、日頃の抑圧からの解放とか非現実性を求めているところも多いと思うので、”制限”って多いほどつまらないですしね。
少し余談になりますが、以前テキサスのSXSWに行った際にちょっと感心したことがあります。
注意事項も掲出はされているのですが、「楽しもう!」的なポジティブな言葉の掲出もたくさんあり、
「そういえば日本のフェスって、これはダメという注意事項ばかりで、こういうポジティブな掲出物って見たことないよなぁ。」
と感銘を受け、すぐに自分達のイベントでパクリました。
まとめ
今回はごく個人的な、
「あまり細かな事にこだわるよりも、豪胆に構えてくれる方がミュージシャンってカッコ良くない?」
という極めて論理的ではない感情がきっかけになっています。
裏方目線として、「チェックしないとかカッコいいな。」と感じた事なので、もしかしたらあまり共感や賛同はしてもらえない気もしていますが、結果的にもそのほうがアーティストにとっても有益な面も多いのでは?という事で着地させていただきました。
共感や賛同は無くとも、日本と海外アーティストでそんな違いもあるという事だけでも楽しんでもらえていたら幸いです。
ではまた◎
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