TINY MUSIC LIFE

音楽を仕事にする方法やビジネス論、考察や小ネタなどをお届けする音楽情報ワンパーソンメディア。by TINY RECORDS八木橋一寛

「演奏時間」というサービス提供時間の告知がない音楽コンサートの特殊性について

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体験消費(コト消費)の所要時間

音楽コンサートと他のコト消費の違い

の中で販売されている商品やサービスには、その内容についての保証や詳細が書かれていると思います。

 

食べ物であれば成分であったり、洋服であれば素材であったり、サービスであればその条件や期間であったり。

 

ライブコンサートの場合、チケット購入時には、どのアーティストがいつどこで演奏をするのかについては書かれていますが、何分間そのコンサートが行われるのかについては多くの場合、触れられていません。(クラシックコンサートの場合は時間もしくは演奏曲目が表記されている事が多いですが)

 

これってちょっと特殊な気がしたのですよね。

 

他の体験消費(コト消費)の場合を考えてみると、映画は上映時間はかなり強調して告知されていますし、スポーツは時間制ではない種目であっても”決着が付くまで”という目安は分かります。

 

テーマパークなどは時間制のところもありますし、入場後の”アトラクション利用”に価格を付けているので、アトラクション個々の所要時間の提示はされています。(されていなくても聞けば教えてくれるかと思います)

 

音楽コンサートとなると、スポーツのようにどうなったら終わりというルールもありませんし、チケット代という消費に対してのサービス提供時間の告知有無は完全に提供側に委ねられています。

 

極端に言えば、1万円のチケット代で15分でライブを終了しても、逆に4時間ライブをしても良いは良いのです。(クレーム有無は置いておけばですが。)

 

この事について、

「そう言えば変わってるよなぁ。」

とふと思ったもので、今回考察してみようと思ったわけなのです。

 

違いがある理由

では何故音楽コンサートだけ(探せば他にもいくつかあるかもしれないですが)、演奏時間という消費に対するサービス提供時間の提示を問われないのかについて考えてみます。

 

場の共有の価値

まず思いつくのは、”会える”、"生で見れる"事がサービスに含まれている事。

 

ライブ演奏を楽しみたいのはもちろんのこと、実際に生で好きなアーティストを目にできる事は、それだけでもお金を支払うだけの価値を感じることができると思います。

 

近いニュアンスとして、"場の共有"というのもあるでしょう。

「憧れのアーティストと同じ空間を共有できる。」

「同じ気持ちのファンと一体感を得られる。」

という体験には、演奏時間はあまり関係がありません。

 

この事に一定の満足感を得ることができれば、支払った金額と演奏時間を紐づけて消費をする事は無くなりそうです。

 

セットリストの存在

そもそも演奏時間をチケット購入時点では把握せずに購入を決めなければならない理由として、セットリストの存在があるかと思います。

 

公演によりけりではありますが、平均的にチケット発売はコンサート本番日の3〜4ヶ月くらい前から行われます。

 

「アルバム再現ライブ」のような場合であれば、ある程度事前にセットリストも見込みが立ちますが、多くの場合3ヶ月前にセットリストを決めるような事はありません。

 

表現者、芸術家であるミュージシャンには感覚的なセンス、いわゆる”気分”もあるでしょうし、セットリストもライブパフォーマンスという表現活動の重要要素として考え抜いて決定します。

 

最善を尽くす為には極力、本番当日に近いタイミングでセットリストを確定させたいのです。

 

この事は多くの消費者側も察しているからこそ、

「お金払うんだから買うかどうか考える為に、先にセットリスト見せてよ。」

とは誰も言ったりする事がないのかと思います。

 

貴重になっていく消費者の時間

時間が不満になるケース

ライブ会場を借りる際にはレンタル時間がありますので、終演時間が極端に遅いような事はありませんが、「90分くらいは演るのかなぁ。」と思って行ったら60分で終わってしまったみたいな事は、経験のある人も少なくないと思います。

 

思っていたよりも短かった場合、演奏時間そのものだけで言えば、何割かの来場者は不満は感じると思います。(逆に思ったより長すぎても、帰宅の交通機関の関係で全部観れなかったという不満を有む事もなくはないと思います。)

 

”この思っていたよりも短かった”がどこまで短いとクレームやファンの離脱に繋がるのかは人それぞれなのでなんとも言えませんが、あらかじめ演奏時間が分からないだけに、演奏時間はネガティブ感情を生んでしまう可能性を秘めています。

 

消費者側は、

「ドームのワンマンなら120分は演るだろう。」

とか

「この規模ならワンマンでも90分くらいかな。」

とか

「対バンもいるから45分ずつかな。」

のように、消費者は経験則で演奏時間の見立てをしていますし、提供側もその見立てを大きく裏切らない範囲で演奏時間を設定していると言えます。

 

これにより、サービス提供時間が知らされず、期待に対しての演奏時間の長短があっても、許容し楽しめていると考えられそうです。

 

加えていうと、事前に演奏時間を提示してしまうと、仮にその時間に前後が出てしまった際に、その事がクレームを生んでしまうリスクを避けている事も大きな理由としてあると思います。

 

大きなフェスやイベントのタイムテーブルを良く見ていただくと、それぞれのアーティストの開始時間は書いてあるけど終わる時間は書いていない事が多いのもその為だったりします。

 

有限である時間の奪い合い

コロナ禍に入り、しばしば耳にする”時間の奪い合い”についての言説。

確かに、家にいながらにしてできる仕事も、楽しむ娯楽も増えた実感はあります。

 

1日は24時間と等しく上限がある中で、選択肢の増える多くの娯楽から音楽ライブに時間を割いてもらう際、「いつ終わるのか事前にはっきり分からない」という事が商業的なデメリットを生む可能性はゼロではないのかもしれません。

 

ライブ大好きな音楽ファンにとっては、ほとんど影響のない事だと思いますが、規模を増すほどにライトユーザーの占める割合は増えていきます。

 

「自分から積極的にチケットを取って行こうとは思わないけど、普段音源は耳にして知っているし、誘われたからたまには行ってみようかな。」

例えば、このような積極的ではない来場動機の消費者というのは、規模にある程度比例して増えてくると思います。

 

限られた1日の時間の中でスケジュールを立てる際、終わる時間が分からない事で次の予定を立てにくくなるのは、来場のちょっとした障壁にはなるのかもしれません。

 

ライブが最優先ではない人にとっては、友人との食事や家族サービスなどと時間を奪い合う事にはなるでしょう。

 

「20時にライブが終わるのが事前に分かっていれば、ライブも食事も両方行けた可能性があったのに、ライブが21時までの可能性があったから食事を優先した。」

こんな具合にです。

 

個人的にはメディアで有識者の方々がまくし立てるほど、”時間”がビジネスや消費の奪い合いの大きな軸にはならない気はしていますが(一般の人はそこまで時間に追われていないと思いますし、特に音楽業界に関しては。)、一応可能性や検討材料として触れてみました。

 

まとめ

今回は、

「そう言えば変わってるよなぁ。」

と思った思考を整理するような内容なので、結論めいた物がある話ではありません。

 

今回このようにちょっと立ち止まって考えてみて、私も主催者だったりイベンターとして提供側に立つ場合が多いので演奏時間を事前告知しにくい理由はよく分かるのですが、来場者目線で考えると、改めて検討してみても良いかもしれないなとは思いました。

 

時間の押し巻きはすぐに大クレームになってしまうのでなかなか難しいのですけどね。。。

 

ではまた◎

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