コロナ禍の影響を大きく受ける音楽関連職種として、ライブ会場やコンサートプロモーター、音響や照明、設営や警備など、ライブに直接関わる業種が直近の心配のタネでした。
しかし、観客を入れたライブの再開や社会全体の経済不安が長引く程に、心配の範囲は広がります。
過去の記事で、「音楽業界はどうあっても音楽アーティストが主役なので、アーティストさえ生き残っていれば再建は可能。」という主旨の記述をしました。
この状況が長引いた場合、その要であるアーティストの存続への影響も懸念されてきます。
あくまでも私自身のタイムライン上での話にはなりますが、この1,2ヶ月の間で解散や脱退、活動休止という報を4つ5つは目にしました。
数的にはコロナ禍は関係なく、起こりうる範疇ではありますが、時期が時期なだけに気にはなります。
演奏意義・意欲の喪失
例えば、以前以下の記事内では”ライブ配信が主流になることによる演奏意義の喪失”への懸念について触れました。
既にアーティスト独自のマーケットが出来上がっている場合、"生業"として音楽活動を継続するモチベーションになりますが、そこに至っていないアーティストにとっては"演奏意義や意欲"は観客の反応によるところが大きいです。
例えば、ブログやnote、YouTubeなどをやられている方なら分かりやすいかと思います。
それが収入になっているというレベルに達していれば、"それを見てくれている人"が実感できなくても、収入口としてモチベーションは保てるはずです。
しかし、収益化に至る前の段階では、見てくれている人を実感できないとモチベーションのキープは非常に難しいと思います。
収益にはなっていなくとも、「いつも見ています。」と声やコメントをもらえたりするだけでかなり強いモチベーションになるでしょう。
アクセス数や再生数などで見ている人が実感できるだけでも違うはずです。
音楽アーティストも同じで、楽曲制作や演奏練習などの日々の活動には正に魂が込められています。
そこにかける時間や労力で言えば、相応の金銭的報酬がなければやってられない程です。
ですが、音楽活動のみで生活ができるほどの収入を得ているアーティストはほんの一握りです。
多くのアーティストは別の仕事で生計を立てながら音楽活動を続けていたり、現在では大手音楽レーベルや事務所に所属していたとしても、十分な収入や給料をもらえるケースはかなり少なくなっています。
それでも活動を継続できるのは、表現したい・伝えたい事や、強い目標があるからと言えますが、だからこそその表現を享受してくれる相手がいなくなったり見えなくなる事は大きな不安や不満に繋がります。
活発化するライブ配信ですが、上述の記事内でも書いた通り、十分な収益を作れるのは既に大きなファン層を構築済みのアーティストが中心になると思っています。
現在そこかしこで行われてるライブ配信の大半は、それ単体では収益化に至ってはいないでしょう。
収益化に至っていないという事と≒になりますが、閲覧者数も多くは無いという事です。
コロナ以前の観客をいれたライブであれば、仮に10人20人であっても、目の前のお客さんに向けてライブ演奏が行え、ライブ後には直接物販などでお客さんから感想の声を聞くこともできました。
この事は観客数を問わず、多くのアーティストにとって最大のモチベーションであったはずです。
ライブ配信となるとそうはいきません。
チャットやSNS上などで一定の感想などを目にする事はできますが、閲覧者の中でそういったコメントを残してくれる人の割合は非常に少ないです。
その上、誰もいないフロアに向かって演奏を行なう不完全燃焼さも加わり、ことライブ活動による満足感は減少傾向である事は明らかです。
活動の実感を得る新たな場を探して
リアルの場に比べて、ライブ配信で得られる活動の満足度は減少傾向ではあると思いますが、そもそも現時点までの多くのライブ配信は収益化目的ではなく、その満足度のキープの為に行われているケースが多いと推察されます。
その実践の感想として、小西康陽さんの「自分自身が全く盛り上がっていなくて戸惑った。」という発言が気になり、記事として書きました。
次第に観客を入れたライブも再開の兆しを見せていますが、キャパシティ制限下のライブ会場内で、かつてと同等の満足度や熱狂を生み出す事は容易では無いと思えますし、ライブ配信による演者・観客双方の満足度の補填も今度進んでいくと思います。
いずれにせよライブ演奏で表現活動を伝えるには、リアルな場の共有、もしくはオンライン上の二択にはなる為、
- スカスカのキャパ制限下の会場内だからこそできる満足度向上の設計
- オンライン上だからこそできる満足度の設計
を各アーティストの目標や意識に応じて構築していくタームに入っているでしょう。
ライブの場でなくとも、認知度を増すことで活動の満足感を強く保てるアーティストであれば、オンライン上での露出作りの強化に注力すべきでしょうし、ファンとのコミュニケーション不足が満足度の低下に繋がるようであれば、双方向のオンラインコミュニティの構築や、人数制限をした上での限定ライブやファンミーティングに注力しても良いかもしれません。
私個人として最も愚策と感じるのは、コロナショックにより大きく環境が変化した中でも、変わらず同じ方法により収益や満足度を作ろうとしてしまう事です。(これはアーティストに限らずですが。)
会場でキャパ制限が出てしまうのはどうしようも無い事ですし、オンラインでリアルなライブをそのままパッケージする事はどう頑張っても不可能です。
例えば、5分の1しか会場に観客を入れることができないのに、単にそのまま5分の1の人数を入れて同じようにライブイベントを行なっても会場・観客・演奏者という全ての満足度がただ減少するだけに思えてしまいます。
ライブ配信も、ただただ演奏模様を流しても、リアルなライブ会場で得られる満足度が単にいくらか減少するだけです。
当たり前に行なってきたライブエンタメが完全停止した不安や不満の中で、「配信でもライブエンタメが継続できるだけでも一歩前進。」というのがこれまでのムードでしたが、そろそろそれだけではしんどくなってしまいます。
ここからはその中で収益や満足度を高める事を最優先すべきですし、言わずもがなそこに向かっていくでしょう。
最後に(我々にできる事は)
コロナ禍における、アーティストの解散、脱退、活動休止の理由になり得る物としては、他にもいくつか挙げられますが、今回も書き始めた時の想定よりも長くなってしまったので、一旦今回はここで締めます。。。
一般の職種の人にもあるように、コロナショックにより、多くの人に未来への不安が生まれました。
中でも、不要不急の最たるものとされてしまったライブエンタメや音楽が受けた不安はおそらく他業種の方の想像を絶するものです。
ヒットアーティストであっても、それを目指すアーティストにとっても、我々裏方にとっても「このまま音楽活動をしていて生きていけるのか?」と誰もが考えさせられた出来事です。
そこで、音楽活動からの離脱という結論に達する人が出てしまうのは不思議ではありません。
このブログでも何度か書いていますが、私が音楽に関わる仕事をしている中で強く意識している事として、「世の中の多くの人にとって、音楽はさほど必要では無い事を自覚する。」というものがあります。
今度別途書こうと思っている事柄ですが、"音楽コンサートに1年に1回以上行く人は5人に1人"という調査結果があります。
言い換えれば、1年に1度すら音楽コンサートに行かない人が8割という事です。
政府が当たり前のように音楽を不要不急と断定しているのは、彼らの多くがこの8割の人だからでしょうし、星野源さんの動画を首相があのように使用した事に多くのアーティストや音楽ファンは反発した理由はここにあります。
いち音楽ファンとして、解散や脱退、活動休止をして欲しく無いアーティストがいるのであれば、無理してライブに行ったりライブ配信などに課金して応援しろとは言いません。
SNSなどで「このアーティストが好き」とか「配信良かった」と発信するだけでも、おそらく皆さんが思っている何倍もアーティストのモチベーションになるはずなので、ガンガンそんな投稿をしてみてください。
ではまた◎
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