TINY MUSIC LIFE

音楽を仕事にする方法やビジネス論、考察や小ネタなどをお届けする音楽情報ワンパーソンメディア。by TINY RECORDS八木橋一寛

「ボブ・ディランが全楽曲の権利をユニバーサルへ売却」から予想される音楽出版事業の激化

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ブ・ディラン(BOB DYLAN)が自身の全楽曲をユニバーサル・ミュージックに売却したというニュースが12月7日に報じられました。

 

これは、これまで自身の楽曲の権利のほとんどはボブ・ディラン自らが保有していた中での売却となります。

 

今後アーティストによる楽曲の権利売却の流れは更に加速しそうだと見立てていまして、今日はこのニュースを軸にそんなお話を。

 

 

ボブ・ディラン全楽曲売却ニュース内容

60年以上のキャリア、600曲を超えるボブ・ディランの楽曲の権利のほとんどは、これまでボブ・ディラン自身が保有していました。

 

この権利をユニバーサル・ミュージック・グループ(UMG)に売却したというのが今回のニュースとなります。

 

大統領自由勲章、アカデミー賞、ノーベル文学賞など数々の輝かしい受賞歴を誇り、多くのアーティストに影響を与え続けるボブ・ディランの楽曲の権利が本人の手からレコード会社(出版会社)の手に渡るという出来事は、音楽業界にとってもアーティストにとっても大きなトピックだと言えるでしょう。

 

気になる売却額については推定で3億ドル(約315億円)と米ニューヨーク・タイムズ紙では報じています。

 

予想されるビッグアーティストの音楽出版事業の激化

 

度々このブログでも触れている通り、近年の音楽ビジネスの売上高は、それまでのCDなどのパッケージ売上に代わり、コンサートビジネスが主要なキャッシュポイントへと移り変わっていました。

 

しかし、新型コロナのパンデミックにより、ライブコンサート市場の売上高は2020年6月30日現在の速報値で前年比の3割弱にまで落ち込み1241億円となっています。

 

音楽配信サブスクリプションの台頭によりパッケージビジネスが縮小する一方で、コンサートビジネスの拡大により辛うじてバランスが保たれていた音楽業界でしたが、頼みのコンサート売上が落ち込んだ事でその今後が危ぶまれ懸念されていました。

 

そこで、次なる大きなキャッシュポイントとして注力されると予想されるのが、レーベルや音楽出版事業、つまり権利ビジネスです。

 

Spotifyに代表される音源配信サブスクリプションの急速な伸びに加え、コロナ禍によりライブ配信などの音源プラス映像コンテンツの更なる需要拡大も見込まれています。

 

しばしばこのブログでも、

「レコード会社(出版事業)が音楽業界内の業種で最も潰れにくい。」

といった主旨の言葉を書いていますが、理由はビジネスの主役であるミュージシャンの権利を握っている点になります。

 

コンサート市場は確かに大きな収益を上げ伸び続けてはいましたが、会場に人を集めるというオフラインのビジネスモデルの為、どうしても開催数やキャパシティに上限が存在します。

 

しかし、楽曲の権利を握る事で、更に拡大するであろう音源や映像の配信ビジネスから収益を作り続ける事が可能となります。

こういった配信ビジネスは、一つの音源や映像から上限なく収益化が見込める点に高い可能性と魅力があります。

 

2000年以降、かつてのような老若男女全てにリーチするヒットソングやアーティストが生まれにくくなっている中、それ以前の時代に既に大きな"面"を取った楽曲やアーティストは非常に高い収益可能性を持っています。

 

新人アーティストであれば宣伝や育成に時間と費用が掛かりますが、既に多くの人々に知られ愛された楽曲であればそれが必要ありません。

 

分かりやすく例えを出すのであれば、ザ・ビートルズやクイーンの楽曲の権利を持っていたとすればどうでしょう?

取り立てて新たなプロモーションをせずとも、新たな楽曲が生まれることがもう無くとも、何十年と多くの人々が様々な形でその楽曲を消費しています。

 

テレビや店舗などで楽曲が使用されたりカラオケやライブで歌われる事からも、著作権管理団体経由で権利保有者に売上が入ります。

もちろん、音源配信サブスクリプションで聴かれたり、動画配信サイトで使用された場合も同様です。

企業タイアップ等で使用料を直接徴収する事も可能です。

 

面を取ったビッグアーティストやビッグヒット曲であるほどに、極端に言えば「放っておいても誰かが消費する。」ようなビジネスモデルとさえ言えるでしょう。

 

例えるのなら、不動産ビジネスに近いかもしれません。

良い物件(楽曲の権利)さえ保有することができれば、永続的に収益を発生させることが可能です。

更に、楽曲となれば消耗する事も利用上限もなく使い続ける事もできるという強みさえあります。

 

大きく音楽業界全体で言えば、多くの利益を多くの会社で振り分けて存続できた時代が終わり、"楽曲の権利"という音楽ビジネスの根幹を握らないと立ちいかない状態とも見ることができる為、かなり最終局面的な状況になるのかもしれません。

 

事実、コロナショックでコンサートビジネスが落ち込む一方で、音楽出版事業の利益は近年上昇中と言われています。

加えて、ボブ・ディランのこの一報の前週には、フリートウッド・マックの女性ボーカリスト、スティービー・ニックスが1億ドルで全楽曲の80%を売却したというニュースも報じられました。

 

最後に(まとめ)

音楽に限らず、所有からアクセスの時代に入ると言われ、となった場合の収益化方法は定額課金サービス(サブスクリプション)が主となると多くのメディアや書籍で叫ばれてもいます。

 

仮にその通りそうなった場合、消耗をしない一つの商品(楽曲)で、上限も際限もなく提供可能な楽曲の権利所有は唯一にして最大の可能性を感じます。

 

但し、ビッグアーティストの権利の購入となれば、大きな資金力を持つ会社しかこの競争には参加ができないので、インディペンデントなレーベル・アーティストなどのスモールビジネスとの二極化は一層くっきりとするのかもしれませんね。

 

ではまた明日◎  

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