「ストリーミングに牽引され、音楽業界の売上は2030年までに倍増する」
という最新の音楽売上リポートをゴールドマンサックスが先日発表しました。
これまでここで書いてきた見立てともリンクする興味深いリポートでしたので、今日はこのリポート内容を見返しつつ、その内容を解釈していければと思います。
ゴールドマンサックスによる音楽業界の売上予測内容
まず、今回取り上げるニュースの元記事はこちらのForbes JAPANになりますので、お時間のある方はこちらもご覧ください。
ここで記事全文をコピペしても意味がないので、簡単に要点のみを抜粋してみます。
- 音楽業界の売上は2030年までにおよそ2倍に増加する。
- 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)流行に伴うロックダウンにより、音楽ストリーミングへの移行が加速している。
- ストリーミング売上は、R&Bやヒップホップの人気アーティストが大部分を占めている。
- ストリーミング市場が力を増すのに伴い、料金も上昇する可能性がある。
- 2030年までに、スマートフォンユーザーの推定21%がストリーミングサブスクリプションに料金を支払うようになる。
- ストリーミングの成長の牽引役となっているのは、最大のユーザー層である黒人のリスナーである。
- 音楽業界の回復を後押ししている主要層はミレニアル世代で、82%が2019年に音楽ストリーミングサービスを利用。
- 音楽レーベルはストリーミングから大きな利益を得ており、今後もその状況は続くだろう。
もっとシンプルにこれを一文にまとめるならば、
「新型コロナのパンデミックを大きなきっかけに、黒人のリスナーやミレニアル世代を中心に音楽ストリーミング市場は更に加速しており、その売上は2030年までに2倍になるだろう。」
こんなところでしょうか。
ストリーミング・カテゴリの売上の大部分を占めるとされるR&B、ヒップホップの人気アーティストの例としては、ドレイク、ケンドリック・ラマー、ザ・ウィークエンド、ミーゴス、カーディ・Bの名前が挙げられています。
そして、このストリーミング成長を牽引するのは、黒人のリスナーだと書かれているのも興味深いです。
リスナーの年代の話を見ると、ミレニアル世代を含む米国の16~34歳の層では、82%が2019年に音楽ストリーミングサービスを利用。
この層は音楽への支出額が大きく、年間163ドルまでは出費をいとわないと同社は過去に指摘しているとも書かれています。
更に、黒人コミュニティに限って見ると、ミレニアル世代をはるかにしのぐ年間173ドルほどを音楽購入に使っているとも指摘しています。
そして、記事の結びとしては、音楽レーベルはストリーミングから大きな利益を得ており今後もその状況は続くと予想。
好例として、ユニバーサルミュージックグループの2020年上半期の売上は32億ドルに達し、その主な原動力もやはりストリーミング売上の増加であるとしています。
世界の音楽業界のパンデミックによる大きな落ち込みは短期間で終わりそうだとし、2020年の音楽売上は25%減少する見込みだと書かれています。
この減少の原因は音源ビジネスではなく、ライブイベントが広範囲にわたって中止された為としています。
リポートを受けての所感
リポートの内容自体は概ね想定内と言いますか、現在伸びているコンテンツやビジネスモデルがそのまま伸び続けると考えれば、当然の予測かと思います。
そんな中にもいくつか目を引く記述もあったので、見ていきましょう。
ストリーミング市場が力を増すのに伴い、料金も上昇する可能性があるという。例えば、ある標準的な音楽ストリーミングのサブスクリプションサービスの料金は、ここ10年のあいだ9.99ドルで変わっていないが、その数字が変わる可能性がある。
この料金上昇については、以下の過去記事の 【より強い収益源になるには?】の項目で言及しました。
上記記事でも
「現在はまだ、乱立状態による低価格での顧客の奪い合い状態なので、3〜5社程度まで絞り込まれた際に、月額料金も現在の金額より引き上げが起こるはず」
と書きましたが、
「ここ10年のあいだ9.99ドルで変わっていない」
という情報を見ると、日本でも淘汰が起こる前に何らかの付加価値を付けて差別化し、料金を引き上げるという事も十分に考えられそうです。
もう一つ可能性として考えられるのは、AmazonやNetflixのような音楽をキャッシュポイントにしなくても良い会社が、自社の他サービスへの集客目的で音源サブスクを低価格でばら撒くような事が起これば、音楽専業のプラットフォームがシェアを奪われてしまう事もあるかもしれません。
CDなどパッケージ販売の場合は、再販制度によって他業種が集客目的で販売価格を下げることを防いでいましたが、サブスクの月額にはそのような価格競争を抑制する制度はありませんからね。
(一昔前には、家電量販店が集客の為に、再販制度があるのにも関わらず、再販制度適用期間内のCDを値下げ販売していて問題にもなっていましたね。)
次にリポートには、こんな一文もありました。
「ロックダウン中に生まれた習慣、例えばソーシャルメディアへの依存や、オールディーズの再発見などが、オンラインへの移行を加速し、全世界の音楽売上を新たな高みに押し上げようとしている」
なるほど日本でも、「若年層の間で、過去のアイドルや歌謡曲が動画系SNSで流行している」というようなニュース記事を見た気がします。
加えてこんな記述もありました。
リポートによれば、オンデマンドやストリーミングを含む音楽全体の売上は、2018年上半期に前年比で18.4%増加。
2030年までに最も売上を伸ばすのは録音楽曲で、800億ドルに達する
これに先に抜粋した
「音楽レーベルはストリーミングから大きな利益を得ており、今後もその状況は続くだろう。」
という予測を加えて見てみると、いかに楽曲のストリーミングが音楽業界全体の中で重要なウエイトを占めるかが伺い知れます。
この辺りの音源ビジネスの重要度については、一昨日の以下の記事でも触れたばかりでしたね。
上記記事では、
「既に大きな"面"を取った楽曲やアーティストは非常に高い収益可能性がある」
とも書きましたが、オールディーズや歌謡曲など過去のアーカイブをフックアップやディスカバリーする流れがより強まると、この売上の伸びも更に加速するかもしれません。
このゴールドマンサックスのリポートではライブコンサート市場については言及されていませんが、音源ビジネスにおいては非常にポジティブで明るい予測になっていると思います。
但し、こと日本において気になるのは、この成長を支えているのが、黒人リスナーやミレニアル世代で、その消費の大半はR&B、ヒップホップのビッグアーティストだという点です。
アメリカはおろか、イギリスでもこれらのジャンルがチャートやトレンドを席巻するようになっていますが、日本は少々状況が異なります。
海外のトレンドがワンクッションおいて輸入されるというかつてから、インターネットの普及でタイムラグなくグローバル化する未来も予想されましたが、その予想に反してガラパゴス化が進んでいます。
その為、すんなりとこのゴールドマンサックスのリポート通りの未来が日本にも当てはまるのかと言えば、そうではないかもしれません。
加えて、少子高齢化の日本においてはミレニアル世代の人口比率は海外のそれとは異なるでしょう。
これに更に加えて、未だCDの売上が一定額確保できている事も重なり、今回のゴールドマンサックスの予測がどこまで日本に当てはまるのかはなんとも言えませんが、私個人の意見としては、速やかにストリーミングに全体重を乗せる方が、未来は明るいのではないかと考えてはいます。。。
最後に(まとめ)
日本と並ぶ音楽マーケットであるアメリカやイギリスですが、新型コロナによるダメージは日本以上に甚大なはずです。
その上でもこれだけ音楽業界の売上予測がポジティブであるというのは、状況やマーケット構造が異なるにせよ、日本にとっても光明かもしれないと感じ、今回はこのリポートを取り上げてみました。
また、本文では触れられずでしたが、このリポートを見ても、
「ストリーミングは上昇するが、その対象はビッグアーティスト」
という点も、このブログで書いてきた予測と同一でしたね。
インディー志向な私としては寂しさもありますが、とはいえ、資金や後ろ盾がなくともビッグアーティストに駆け上がれるのが今の時代ですから、インディペンデントな姿勢を貫いたままビッグになる素敵なアーティストが現れるのを楽しみに待とうと思っています。
ではまた明日◎
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