先日、アナログレコードの売り上げがCDを上回ったというニュースがあり、それを受けてレコードファンを中心に湧き立っています。
私も所有音源の9割以上はアナログレコードで、アルバイト、自営を合わせると10年近くレコード店に人生を捧げた身。
「アナログイイよね!CDより売れるなんていいじゃん◎」
と思います。
しかしながら、このニュース見出しだけを見ると、レコード需要や売り上げが爆伸びしているようにも感じてしまいますし(レコード好きバイアスかかると特に)、「これからはレコードの時代だ!」という歓喜のツイートまで見かけましたが、そう受け取ってしまうのには少々乗り切れない自分がいます。
というのも、見出しのみを見ればそう感じない事もないかもしれませんが、本文をきちんと読んでみると、特段レコード需要が伸びているとは考え難いですし、非常に小規模な話であることがわかります。
私も生粋のレコード好きなので盛り上がりに水を差すつもりはありませんが、事実は適切に伝わるべきという気持ちが上回ってしまったので、今回はこのニュースを正確に読み解いて行きたいと思います。
「レコードの売り上げがCDを上回る」というニュース・ソース
まず、今回の情報ソースを改めて見返してみます。
以下はTwitter上で特に多くのリアクションのあった「AFPBB News」による投稿です。
レコードの売り上げ、CDを上回るhttps://t.co/SBF2aXnAh8
— AFPBB News (@afpbbcom) 2020年9月11日
米国内の今年上半期のレコードの売上額は2億3210万ドル(約246億円)と、CDの売上額1億2990万ドル(約138億円)を大きく上回った。レコードの売り上げは物理的な媒体全体の62%を占めたが、全体の売り上げは前年同期比23%減だった。
【レコードの売り上げ、CDを上回る】という見出しになっています。
CNNの見出しは【レコードの売り上げ、CDを抜く 1980年代以降で初めて】でした。
これらの見出しのみを見れば、「レコードが盛り上がっている。」と解釈をする方がいても確かに不思議ではありません。
本文に目を移します。
今年上半期のレコードの売り上げは2億3210万ドル(約246億円)とCDの売り上げ1億2990万ドル(約137億円)を上回った。
まず、この記事の前提は
【米国で今年上半期(1~6月期)に発売されたレコードの売り上げ】
となっています。
その上で、確かに売上高はレコードがCDを上回っている事が分かります。
更に記事を読み進めます。
- 今年上半期、レコードの売り上げは4%増加した。CDの売り上げは48%の減少
- 物理媒体による売り上げは23%減の3億7600万ドル
レコードの売上は確かに増加していますが、4%という微増です。
対して、CDの売上は48%の減少。
物理媒体(レコードやCD、カセットテープなど)全体の売上は23%減少という記述もあります。
ここまで読めば「CDを抜いたレコードが好調」と簡単に解釈する方はいないのではないでしょうか。
レコード売上の増加は事実ながら、その売上増加率は4%に留まり、反対にCDのセールスが大幅な減少傾向にある事までは分かりました。
では、現在の音源消費の主流となるストリーミングの売上はどうなのでしょう。
有料のものや広告付きのものを含んだストリーミングの売り上げは12%増の48億ドルだった。今年上半期の売り上げの85%以上がストリーミングによるものだったという。
売上増加率は12%と順調に上昇しています。
また音源消費の85%がストリーミングとなり、その数字は日本円にして約5094億円。
レコードは246億円、CDは137億円になります。
つまり、レコードとCDの売上を合算してもストリーミング売上の1/10にも満たない売上という事になります。
このニュースから読み取れる事とは
著しいCDの衰退
「ヘッドライン読み」でニュース消費をする方が増加しているという事は、ちらほらと言われている事を知っていましたが、今回の記事の見出しについても【レコードの売り上げ、CDを上回る】という見出し作りは、いわゆる飛ばし記事的な手法によるものかと思われます。
本文には明確に売上金額や増減のパーセンテージも書かれているので、
「これからはレコードでしょ!」
と沸き立った方の多くは、単純に見出ししか読んでいなかったのかもしれません。
私個人としては、「ヘッドライン読み」しかしていない事については個人の自由だと思うので批判の感情はありませんが、音楽業界の方までも「だから俺はレコードの時代が来ると思ってた!」とさえ投稿をしているのを目にした際には、いささか驚いてしまいました。
音楽ファンや音楽業界人は、比較的情報やネットのリテラシーが高いと思い込んでいた所もあったので、「音楽業界人の中にも、本当に見出ししか読まないで発信してしまう人っているんだ。。。」という実感ができた事は、一つ収穫でした。
これは個人的な些細な気付きなので次が主題になります。
CD、レコード、ストリーミングそれぞれの売上や増減を見ると、CDのみが減少している事が分かります。(それも大幅に)
この事から読み解けるのは、かつて音源消費の主流となっていたCDが売上を落とし続け、ストリーミングがそれに代わり完全に音源消費の主役になっているという事。
その中でアナログレコードの売上が微増している理由は、
「わざわざ作品単体に対して購入費用のかかるパッケージソフトを消費するのであれば、ソフトとして特色の強いレコードに消費が流れている。」
という推測が立ちます。
購入費用も一枚ごとにかかり、保管場所も取り、A面B面をひっくり返して都度レコード針を落として聴くアナログレコードは、ストリーミングと比較すると大変な不便さがあります。
しかし、そのコストや手間のかかる音源鑑賞は、今となっては贅沢で優雅なこだわりさえ感じる鑑賞方法として個性が立ち始めているようにも思えます。
この消費需要は例えば、高額で特に機能性に優れている訳ではない、ファイヤーキングのマグカップをわざわざ購入して使うような、"丁寧な暮らし系"のアイテムの一部にレコードがなっているようにも感じています。
レコードと同じく、セールスの復調がささやかれているカセットテープにも同様の需要を感じます。
甲本ヒロトがかつて、
「趣味なんて、手間がかかったり面倒なくらいの方がもっと楽しんだり好きになれる。」
そんな趣旨の発言をインタビューで答えていた記憶がありますが、まさにそんな需要ではないでしょうか。
そういった意味では、利便性でアナログレコードに取って代わったCDは、モノとしての個性が弱く、さらに衰退の一途を辿るのではないかと考えています。
一方で、アナログレコードはCDと比較すると絶滅可能性は低く、音源消費の主役に返り咲くような事もなく、数パーセントの需要をキープし続けて残っていくフォーマットとなるのでしょう。
マネタイズには不向きな高額なプレス費用
付け加えると、アナログレコードはパッケージコストの無いストリーミングはもちろん、CDと比べてもプレスコストがとんでもなくかかります。
(CDなら15万円もあれば2000枚は作れますが、レコードは7inchでも300枚作れたら良い方です)
さらに、プレス枚数もかつてのように万枚単位で生産されている事は本当にごく一部のタイトルだけです。(もしかすると全く無いかもしれません。)
プレス枚数が少なくなるほどに、生産コストは当然高額になるので、500枚や1000枚プレスして売り切った所で、ほとんど収益にはなりません。
(私も過去に3タイトルほどレコードをプレスした事がありますが、本当に高額です。)
あまりにも薄利なレコードという商品を、レコード会社は積極的に生産して売る事はできない為、その時点で「好調」なはずがないというのが、本ニュースにおける私の最初の印象でした。
ですので、現在販売されているアナログレコードのほぼ全ては、収益化として販売されているのではなく、プロモーションやブランディングツールとして位置付けられていると考えてほぼ間違いはないでしょう。
最後に
私は2000年〜2009年にかけて、レコード販売業をしていたので、日本国内におけるレコード需要の減少を身に染みて感じました。
毎年発刊されていた「レコードマップ」という全国のレコード店を網羅したショップガイド本が、タウンページくらいの分厚さから、ジャンプコミックスのような厚みになるまで店舗が減り続けていく様を見ながらレコード店を廃業しました。
そんな経験もあってか、多くの関係者以上に
「音源から直接的にマネタイズはできなくなっていくので、認知と人気の獲得手段として割り切って考えていきたい。」
という考えを強く持っています。
ゴリゴリのパッケージソフト消費世代なので、そんな流れはちょっと寂しい事ではありますが、いくら抗ってもデータで簡単に音源のやりとりや違法アップロードが出来てしまう時代なので、多くのアーティストの存続のためにも、この流れは受け入れて音源販売に代わる次のキャッシュポイント作りに注力していきたいと思っています。
ではまた明日◎
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