TINY MUSIC LIFE

音楽を仕事にする方法やビジネス論、考察や小ネタなどをお届けする音楽情報ワンパーソンメディア。by TINY RECORDS八木橋一寛

「米TuneCore利用アーティストへの還元額2,000億円を突破」ニュースを受けて

f:id:TinyBicycleClub:20201016193519j:plain

どうにかしてサムネに入り込もうとする筆者...

TuneCore(チューンコア)による音楽アーティストへの累計還元額が20億USドル(約2,000億円)を突破したというアナウンスがTuneCore Japanより本日されました。

 

同発表のプレスリリースでは、

「インディペンデント・アーティストのシェアが世界的に広まっている」

流れの象徴として、この累計還元額を打ち出しています。

 

今日は、このニュースについての考察と、詳しくご存知ない方向けに「チューンコアって何?」というお話をしていこうと思います。

 

 

TuneCore(チューンコア)とは

サービス概要

2005年に設立されたアメリカ・ニューヨーク州ブルックリンを拠点とするデジタル音楽の配信・発行・ライセンスサービス等を行う世界最大手の音楽配信ディストリビューション

 

主要なサービス内容としては、同社プラットフォーム上にて楽曲の登録を行う事で、SpotifyやAmazon Music、Google Playなど、主要なストリーミング・サービスへ一括して楽曲を配信する事が可能となります。

 

世界185カ国以上に配信が可能で、"原盤権の譲渡は不要""収益は100%還元"という事からも、インディペンデントなミュージシャンでも気軽に配信を行う事が出来る事が特徴です。

 

日本においてはTuneCore Japanとして2012年にサービスが開始され、瞬く間に国内最大のデジタル・ディストリビューターとなり多くのアーティストに利用されています。

 

TuneCore公式サイト:https://www.tunecore.com/

TuneCore Japan公式サイト:http://www.tunecore.co.jp/

 

サービスの魅力、料金と収益

"メリット・デメリット"ではなく、"魅力"としていますが、私個人的には特にデメリットの無いサービスだと感じています。

 

というのも、原盤権と配信時の収益還元率という、サービス利用を検討する上でもっとも気になりネックとなる2点を気持ち良くクリアしている為です。

 

また、各配信プラットフォームに対しての個別登録や収益管理の手間が大幅に省け、時には楽曲のプロモーションに手を貸してくれる場合もあります。(アーティストや楽曲をチューンコア側に高評価いただく必要はありますが。)

 

但し、収益100%還元といっても、サービス利用料は掛かります

利用料は以下の通り。

 

【シングル】

  • 1年間:1,410円 (税抜)
  • 2年間:2,650円 (税抜)
  • 3年間:3,790円 (税抜)

【アルバム】

  • 1年間:4,750円 (税抜)
  • 2年間:8,560円 (税抜)
  • 3年間:12,370円 (税抜)

月額にしたら単曲で100円強と、個人レベルでも問題なく支払う事のできる料金設定です。

 

チューンコア側が再生数に応じたマージンを得る事は無い為、ビジネスモデルとしては、この年単位の利用料金が主体という形になっています。

 

「累計2,000億円突破」アナウンス内容

f:id:TinyBicycleClub:20201016192453j:plain

まずは、今回アナウンスされたリリース内容から抜粋してみます。

音楽デジタルディストリビューションサービス「チューンコアジャパン株式会社」のペアレントカンパニーである「TuneCore, Inc.」 は、10月14日にアーティストへの累計還元額が20億US$(約2,000億円)を突破したことを発表しました。

 

世界でインディペンデントアーティストが躍進していることを象徴する今回の発表、インディペンデントデジタルミュージックシーンをリードするTuneCoreは、自社のサービスを利用するインディペンデントアーティストに対して、1日あたり平均約1億2,000万円、四半期あたり平均で100億円を還元しており、その額は増加し続けています。

 

TuneCoreを通じてアーティストが配信を行う場合、アーティストは楽曲の権利を100%保持することができ、またアーティストは配信/販売後の収益の100%を受け取ることができます。

 

TuneCoreは2017年7月の時点で、2006年のサービスローンチ以来、アーティストへの還元額が1,000億円を超えており、そのわずか3年後の2020年に早くも還元額は2,000億円を突破しました。

これは、インディペンデントアーティストのシェアが年を追うごとに倍増していることを意味しています。これまでにTuneCoreを利用したことのあるアーティスト数は100万組を超え、その中で1,000万円以上の収益をあげるアーティストの出現も珍しいことではなくなっています。

 

そのように、TuneCoreを利用しての音楽活動で人生が変わったアーティストも数多く、例えば昨年までUberのドライバーをして生活していたアーティスト・Ken the Manは、TuneCoreを通じ楽曲「He Be Like」を配信した後、スマッシュヒットとなり、彼女は仕事をやめ音楽だけに専念することができるようになりました。こういったエピソードも、もはやオーディナリーなストーリーとなっています。

何故チューンコアの還元額の増加が、「インディペンデントアーティストが躍進していることを象徴する」と紐付けがされるのかについて簡単に説明していきます。

 

"魅力"として挙げた還元率100%と個別登録業務の手間の省略は、レコード会社やマネジメント会社もいないアーティスト本人のみで活動をしているようなインディーアーティストにとっては非常に有用です。

しかし、人員も豊富に抱え、独自のネットワークやプロモーションプランも持つ大手レコード会社にとっては、各配信サービスに個別に登録や営業をかけるだけのリソースを持っている為、利用する必要性があまり無い面があります。

 

その為、チューンコア側もターゲットを"インディペンデントなアーティスト"に意識的に絞っています。

 

CDやレコードといったパッケージ音源隆盛の時代であれば、予算やヒューマンリソースを得る代わりに、レコード会社や流通会社、CDショップと、

中抜かれ、アーティストの手元に入る収益はパーセンテージとしてはごく僅かでした。

 

もっと言えば、どんなに良い作品をCDに詰め込んで販売しようとしたとしても、そもそもメジャー流通に乗せない事には全国のCDショップに並ぶ事は困難でしたし、テレビなどのタイアップを取ることも同様に困難でした。

 

時代が代わり、CDからの売上が激減し、"面"で訴求していたテレビ等のマスメディアの発信力が減退する一方で、CtoC的に"点"で強く訴求するSNS等の個人発信にプロモーション効果がスライドし始めると、大手レコード会社に所属をしないインディペンデントなアーティストのヒットやブレイクが相次ぐようになりました。

 

YouTubeや音源サブスクリプションサービスの台頭により、かつての「売れるためにはまずはメジャーデビュー」という方程式は崩れ、良質な音源やプロモーションプランを自身で立てられるアーティストにとっては、新しい希望やロマンが生まれたと言って差し支えないと思います。

 

つまり、1組のビッグアーティストを大資本で作り上げて大きく回収するというかつてのモデルではなく、多くのインディペンデントなアーティストを対象に、誰もがオンライン上でスケールしていく可能性を掲げて利用者を増やすというモデルにベットしたのがチューンコアだと言えます。

 

"アーティストへの還元額が2,000億円を超えた”というのは、そのベットが成功している事を分かりやすく示す数的な成果で、だからこそ「インディペンデントアーティストの躍進」を声高に伝えたいという所でしょう。

(私自身も成功していると感じていますし、この流れをとても歓迎しています。)

 

加えて、以下はチューンコア・ジャパンCEOのコメントとなります。

-野田威一郎(TuneCore Japan CEO)コメント-
「世界ではインディペンデントアーティストの活躍が当たり前になり、さらに市場規模も拡大していることは、本当に喜ばしいニュースです。日本も同様に今年に入り、瑛人、りりあ。、yamaなど次々とTuneCore Japanを利用した次世代インディペンデントアーティストが大ヒット、チャートインし、収益もあげ、今まで以上に活躍し始めています。我々もアーティストが権利を持ったまま、クリエイティブ的、経済的にも自由に音楽活動ができるような環境を引続き作っていきたいと思います。」

レコード会社と違い、チューンコア経由でヒット・アーティストが誕生しても直接的に同社に収益が入る事はありません。

利用アーティストが増加した時に、初めて収益増加に結びつきます。

その為、利用者を増やすべく、いかにチューンコアを利用したアーティストがブレイクしたかという事例をこの短いコメントに詰め込んでいます。

 

最後に(まとめ)

「魅力的でデメリットは特に無い」

とは書きましたが、利用料は少額ながら発生するので、その利用料を回収するに及ばない再生回数になってしまう場合には当然その点はデメリットとなります。

  

こればかりは仕方のない事で、どんな作品でも全てペイできるなんていう事はどの業界でもない話なので、作品クオリティの向上に務めるよりほかありません。

 

これはあくまでも私個人の実感ですが、TuneCore Japanも例えばSpotifyも、担当者の方はかなりしっかりと新しく登録される楽曲をチェックして聴いてくれているので、良質な音源を登録すれば、登録者数の多いプレイリストに入れてくれたり、プロモーション協力をしてくれたりという事は本当に頻繁にあります。

 

似たような話として以下のような記事も過去に書いていますので、よろしければ合わせてお読みくださいませ◎

度々書いてはいますが、今後は"大金持ち"になれるような売れ方は難しいと思いますが、"いい感じに食っていける"ような売れ方は増えていくと思いますので、アーティストにとってはそういった意味では非常に良い時代を迎える様に感じています。

 

ではまた明日◎ 

にほんブログ村 音楽ブログへ

 

※今後新たにスタートしていきたい企画やサービス、情報もあるので、以下のLINE@やTwitterのフォローもお願いします◎