インタビュー・テキスト・撮影:八木橋一寛(TINY RECORDS)
楽曲配信サブスクリプションの台頭、フェスを中心としたコンサート需要の増加、そして突如見舞われたコロナショック。
望む望まないに関わらず、音楽業界はこれまで守り続けてきたビジネスモデルからの転換期に差し掛かっています。
特にコンサート業界への被害は深刻で、より素早く具体的な問題の"解決・改善"が必要です。
その為には、主観や共感には依存をしない、客観的でドライな助言や知見を聞く事が、その糸口を探るの為に有益ではないかと思うようになりました。
「音楽業界とは関係のない異業種のビジネスパーソンの話を聞きたい。」
つまりはそんな欲求と必要性を感じたのです。
本インタビュー企画の2回目となる今回は、BuzzFeed Japanで編集業務などを行なっている石井洋さん。
「音楽業界におけるオンライン戦略」を中心に質問投げかけ答えていただきました。
前回同様、異業種とはいえ元々はバンドマンもしていた音楽畑の方ではあるので、膝を崩した楽しい座談会として読み進めていただければ幸いです。
前回インタビュー記事はこちら
「そもそも誰に向けてやるんだっけ?」というところから考えるいい機会だと思います
──「音楽業界の今後へのヒントや気付きが一つでもあれば。」
そんな趣旨でお話を伺いたいのですが、今回は中でもオンライン上でのプロモーションやブランディングを中心に質問させていただければと思っていますのでよろしくお願いします。
毒にも薬にもならないと思いますよ。笑
──コロナショックがあった以降、音楽業界の状況や動向って気にして追ったりはしていましたか?
正直言うと、自分の中で音楽のプライオリティが下がっていた事もあり、特に気にしてみてはいません。ただ、ライブハウスのクラファン支援など、身近な人に向けて自分のできる範囲で活動はしました。
──音楽の配信ライブは観たりしました?
BRAHMANの25周年やフジロックの配信などを観ました。あとは友人の配信を眺めていましたね。
当たり前ですけど、ライブハウスで隣の人とぶつかる感覚とか、会場の匂いとか、体感の物足りなさを痛感しました。
──最近出てきている考え方としては、リアルなライブと配信ライブを完全にセパレートするという流れがあると思っていて、個人的にもリアルと配信は切り分けて見せたり届けるのが良いのかなって。
そうかもしれません。
ただライブ配信っていうと味気ないので、リアルタイムMVなど言い方変えて、これはこの場限りの作品なんですよ、のように魅せるって手はあるかも。
これまで当たり前にやっていた事ができなくなったという事に引っ張られるんじゃなくて、残された手玉を掛け算したり、外から持ってきて価値を高める事に知恵を絞ったら何かできるかもしれませんよね。
──例えばこれを使ったら面白いんじゃないかとか、こういう見せ方したらいいんじゃなかいとかってパッと思いついたりします?
あんまり思いつかないですけど...さっきの言い換えとか、アーティストに副音声解説をしてもらおうとか?既成の曲やMVを改めて解説してみる。関ジャムを自分らでやっちゃうみたいな。
なんでもいいんですけど「そもそも誰に向けてやるんだっけ?」というところから考えるいい機会だと思います。コアファンに向けて打つ施策とマスに向けて打つ施策は当然違うし。
──確かに最初に定めるべきですよね。
コアファン向けのMV裏話や、リアルタイムでMVを撮っちゃって、それを速攻で配信してもいいし。ライト層を含めるならまた違うやり方がありそう。
──リアルなライブだと300人なら300人って天井があって、オンラインだとその天井が無いので、どうしても演る側はマスっぽいやり方に流れがちですよね。
でも、フタを開けてみると極端に言えば10人しか観てくれていないみたいな場合もあり得て、それって当然コアファンな訳で、事前にそれがある程度見えているのであれば、その話でいうコア向けな施策に振った方が良いですよね。
アーティストの知名度によりますけど、そうですね。
拡散させたいなら、コアなファンが呼び水になるようなライブなり、施策を打たなければいけないと思います。
──それでいうと、漠然とマスに向けてしまったような独自性の弱いライブ配信はまだ多いかもしれないですね。
一概には言えませんが、よく観られている近いレベルのアーティスト配信の手法や内容を参考に、いいところだけ取り入れればいいのでは。
それにライブ配信はリアルな視聴者数や維持率を振り返れるので、数字を見ればいろんな工夫ができると思います。「この曲のとき離脱率高いよなー」てことがわかるかも。だからセットリストが組みやすいと思います。
それを知った上であえスカしたセットリストも組めます。
すると、自分たちが望まれているものってこうなんだなーって客観的にわかると思うんですがどうでしょうね、想像でしかないんですけど。
「何それ?」って食いつくポイントを探るためにフレームで考えることがあるんです
──仕事柄、オンライン上での話題作り、もしくはそのタネの発掘は専門分野になるかと思いますが、そういったいわゆるバズの生まれる傾向などに変化って感じることはありますか?
身近なものでも視点を変えた時に予期せぬバズり方をすることがあります。
例えば、コンビニのおかずを綺麗な器に盛り付けるだけで上品な食卓に見えるみたいな。何かを加える、物事を逆から見てみる、見せ方を変えるだけで全く違う価値が生まれるっていう。そこにバズが生まれるのが面白い。
──それはかなりありますよね。
どんなアーティストや音楽にも面白いポイントがあると思います。
僕はマスに向けてコンテンツを作る事が多いので、無関心の人が「何それ?」って食いつくポイントを探るためにフレームで考えることがあるんです。それが経営資源でよくいわれる「人、モノ、カネ、情報、時間、知的財産」。
これをアーティスト、ないしバンドやDJに当て込んだとき、どこに面白いポイントがあるか掘ってみる。
──音楽アーティストにこの話を落とし込むとしたら、提供側は本末転倒だと感じるかもしれないけれど、もしかしたら音楽以上にトークの方が立つかもしれないとかって事ですよね?
そうそう。元浮浪者とか、先祖が総理大臣とか。芸人なのに料理が上手いってフィーチャーされることあるじゃないですか。
アーティストがその見え方を望まないかもしれないけど、知名度が上がってからリブランディングすればいいと思います。とりあえずいい意味で売れれば勝ちですよね。
もちろん音楽で人気が出るのが一番ですが。
──かつてのトークありきの音楽番組全盛の時とかって、まさにアーティストが面白い返しをしたりちゃんと喋れると、それがフックになってアーティスト人気にも繋がっていった図式はありましたよね。
数小節の音源だけで心をつかめるアーティストってほんの一部だと思います。
「じゃあ聴いてやろう」と思わせるきっかけを、レコード会社なりマネジメント会社が理解して、機会を作ってあげられるかも大切ですよね。
音楽だけにこだわらなくていいし、「こだわる必要あったっけ?」ってところから考え直してもいいのかもしれません
──では、バズとは反対に、既存ファンに向けてオンライン上で人気を深める方法ってどんなものが考えられますかね?
ボツった曲を配信する、スタジオ練習を配信する、何らかのリクエストに応えるファンサなどはSNSですぐできるし、続けている人もいますよね。
──本当にそう思います。絶対そうなんですよねぇ。秋元康さんの投票をさせてファンに参加までさせて育成要素を高めるっていう手もありますよね。
参加型はいいですよねー。クロちゃんと豆柴の大群方式で、リリースする曲を視聴者に委ねるの上手かった。
ちょっと逸れますけど、NiziUはテレビやHuluで観ていてワクワクしましたね。成長や動向を追うのがASAYANみたいで。
──参加している気分になれる事、オフショットや経過を見せるというのはありますよね。
キングコング西野さん理論になっちゃいますけど、あの人は作品でマネタイズをしようとすると、それは次の作品制作の為の資金集めの商品になってしまうからダメだと言っていて。作品制作の経過や裏側をオンラインサロンで見せる事で資金を確保するので作品ではマネタイズは考えないっていう。
これは音源という作品が薄利になってきた音楽業界にも当てはまってくるのかなとも感じていて、キャッシュポイントを音源に求めるのはいっそ捨てて認知と人気獲得のツールに振り切っても良いのかなって。
それで言うと、BROOKLYN BREWERYというキリンのクラフトビール・メーカーが、ビールを買うとアーティストを支援できるサポートプロジェクトをスタートしています。
次の作品を作って欲しいと思えば、そのビールを買えばいい。このように、音楽業界だけでどうにかしようなんてこだわる必要はないと思います。
──例えばファッション業界のひとつの側面にあるのが、お洒落な人をターゲットにし続けている為に、お洒落じゃない人はずっとお洒落が分からないままになってしまってその業界で消費ができないっていう。
じゃあ服を買いに行く為の服を売ればいいのかな。とか、お洒落じゃない人に向けた何かをすればいい。
むしろお洒落と思われたいより、服で外したくない、ダサいと思われたくないって思いの方が多いと思います。
──音楽業界も似たところがあって、音楽がすごく好きな人をターゲットにしている場合が多いと思うんですよね。トンがった素晴らしい音楽を作っても万人から評価されるとは限らないので。
トンがった曲って分からない人の方が多いですからね。
でも関ジャムみたいに客観的に解説されると、すげーなーって腹落ちするから不思議ですよね。
音楽を理解から入る構図って新鮮だなと思って、あの番組観ています。
──グルメな人はお腹が空いていなくても美味しいお店探すように、音楽を好きな人にきっかけなんていらなくって、そういう人を尺度にマーケティングをすると広がらないって事ですよね。
音楽好きな人は勝手に掘ってくれますけど、じゃない人には関係ないし、難しいところです。
あぁ、例えば飲食と組むってどうでしょう。デリバリーサービスと組んだらデリバリーをした人しか観られないライブ映像が観られるとか、アーティストレコメンドのメニューがあるとか。むしろ作ってるとか。
──出前を待っている30分間だけ観れるとか。笑
そうそう、そういうの。
なんでもいいので、突拍子もないアイデアをとりあえずやってみるのがいいんじゃないのかな。笑
──では現在特に困窮するコンサート業界についても伺わせてください。
例えばライブハウスなど会場が生み出せるバズとしてアイデアって無いでしょうか?
うーん、正直わかりません。
東京ドームとかホールとか、本来行われるべきだった会場の空気を袋に入れて送ったらどうでしょう?
──甲子園の土的な。笑
「なんだそれwww」って言いたくなるっていうか、言わせる施策を打ってみる。笑
バカバカしいけどそれを本気でやってみる。
──グッズ通販の時に自分の使っている香水を梱包の中に振りかけるとかやっている人もいましたよね?笑
そういうやつです。
──会場が抱える課題としては、「ライブに行っても良いですよ。」となった今も、出演者や来場者が戻って来ないという面があって、仮にそんな状況をコンサルするとしたらどうしますか?
考えたことなかったですが、とりあえず音楽ライブじゃない事をしてみるかなー、コワーキングスペースにしても良いし。
──場所を販売していた訳ですから、場所を提供するサービスや使いたい人をしらみ潰しに営業かけていくと。
できる範囲で生き残る為になんでもしますよ、きっと。
──これは個人的な印象でしかないのですが、音楽に強い興味のない一般の人って、ライブ会場を借りて何かをする事に対して、金銭も含めてめちゃくちゃハードルが高いと思っているのではないかと思っていて。
それはそうですよね。ぜんぜん身近じゃないから。
契約規約などいろいろあると思いますが、使い方の可能性を探ってみてもいいんじゃないか、とは思います。
そこも含めて音楽だけにこだわらなくていいし、「こだわる必要あったっけ?」ってところから考え直してもいいのかもしれません。
──とても同意見です。では最後に告知やメッセージなどがあれば一言お願いします。
THE BLACK CINEMAという実態のないテイのバンドがKING BROTHERSとスプリットで7インチアナログをリリースしました。1500円出してもいいならぜひとも買ってほしいです。
THE BLACK CINEMA - TOWER RECORDS ONLINE
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