TINY MUSIC LIFE

音楽を仕事にする方法やビジネス論、考察や小ネタなどをお届けする音楽情報ワンパーソンメディア。by TINY RECORDS八木橋一寛

1年に一度も行かない人が過半数!?高い成長可能性を秘める音楽ライブ・コンサート業界

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降する音源販売ビジネスに代わり、音楽コンサート業界が成長ビジネスとして音楽業界を支えている大きな理由の一つとして、

「パイや潜在顧客を取り切っていない。」

という事を以前以下の記事で書きました。

これは体感や印象から書いた話ではなく調査結果に裏付けられたもので、タイトルの通り、統計上【音楽コンサートに来場する人の割合は、1年に一度さえ行かないという人が過半数】となっています。

 

そう聞くと、パイを取り切っていないどころではなく、成長可能性だらけとさえ思えます。

今日はそんな、可能性だらけの音楽コンサート業界について書いていきたいと思います。

 

 

参考調査(音楽メディアユーザー実態調査)

ここでは、日本レコード協会が発表をした「音楽メディアユーザー実態調査 2015年版(公表版)」をもとにお話しします。

これは12歳から69歳の男女を対象に、インターネット経由で実施されたもので、調査サンプルは2014人となっています。

 

同調査ではこの年以降、”コンサート来場数”に関しての調査報告が出ていないようだったので、5年ほど前のデータにはなりますが、そう劇的な変化もなく2020年の現在でもある程度参考にできるかと思います。

 

レコード協会が実施をしているだけに音源消費についての調査が多く、音源消費の有料・無料の聴取割合や聴取手段、1日あたりの聴取時間、楽曲購入時のきっかけ等、興味深い項目や結果が多く開示されています。

これらについても面白いのでとても触れたいところですが、各項目で数千文字かかってしまいそうなので、それはまたおいおい書かせてもらう事として、今回は【コンサート・ライブ等への参加回数】についての調査結果のみをピックアップします。

 

まず、参考資料としている「音楽メディアユーザー実態調査 2015年度」のページが以下となります。報告書の閲覧もこちらのページから可能です。

調査はコンサートへの参加回数に関して、以下の5項目から回答を得て報告されています。

  • 日本人アーティストの有料コンサート・ライブ
  • 外国人アーティスト(来日)の有料コンサート・ライブ
  • 複数アーティストが参加する有料大型コンサート・ライブ(フェス)
  • ライブビューイング
  • 無料のコンサート・ライブ(CDショップ等でのイベントを含む)

この回答結果から、過去1年に一度でも参加した割合だけを抽出してみます。

  • 日本人アーティストの有料コンサート・ライブ:22.7%
  • 来日アーティストのコンサート:5.8%
  • 複数アーティストが参加複数アーティストが参加する有料大型コンサート・ライブ(フェス):4.1%
  • ライブビューイング:2.1%
  • 無料のコンサート・ライブ:8.6%

この結果によると、"日本人アーティストの有料コンサート・ライブ"への参加が飛び抜けて多く、過去1年間で一度でも参加した割合が22.7%

およそ5人に1人は1年間に1度は参加しているという結果になります。

そのうち”1回のみの参加”が14.1%と過半数を締め、複数回参加する人は8.6%に留まっています。

 

複数回答可になるかと思われますが、重複を無視したとしても一度でも参加した割合は43.3%と過半数を下回っています。

 

また、いずれの項目も、複数回参加という回答よりも1回のみ参加の割合が高くなっています。

 

伸ばす余地を感じる音楽コンサート参加割合や回数 

マイノリティな音楽コンサート業界

この報告結果を最初に見たときは率直に、「想像よりどの数値も少ない。」と感じましたし、音楽ファンや音楽業界で働く方が見ると同じように少ないと感じた方が多いと思います。

 

また、まだまだ取り切ってはいない、音楽ライブイベントのパイと潜在顧客でも触れたように、この結果にはクラシックや地域の公民館や文化ホールでの巡業のような公演も含まれた上での数値となるでしょう。

 

つまり、私自身の業務やこのブログで主な対象としているポップ・ミュージックに限った話となれば、さらにこの数値は減少するはずです。

 

私がこれを受けてまず意識的に自覚したいと思ったのは、音楽コンサートにわざわざチケットを購入して足を運ぶ層やそのビジネスというのはマイノリティだという事でした。

 

リピーター獲得の為の満足度の向上と不満・不便の解消

どうしても音楽業界にいると、日常的に会話をする相手も同業者やそのファンになりがちですし、SNSも音楽ファン寄りのタイムラインになってしまいます。

 

ただこの結果を見ると、

「音楽好きな人ってそんなに少ないのかよ。。。」

と肩を落とすというよりも、

「そんなにまだ顧客増やせるの!?」

という期待が私の場合は上回ります。

 

例えば、同調査の【音楽との関わり方】という項目では、音源聴取への関心や有料・無料の消費方法が報告されています。

 

ここでは”有料聴取層”とセグメントした「この半年間に、音楽を聴くために音楽商品を購入したり、お金を使ったりしたことがある」という割合が32.9%となっています。

(ちなみに、音楽に一切お金を使っていない無関心層が34.6%と最も大きな割合を占めていますが、ここはきっぱり諦めましょう。)

 

自宅や移動中に音源を楽しむ層と、音楽ライブを現場で楽しみたい層はイコールではないので、この32.9%のうちにはコンサート・ライブには参加していない人が含まれています。

コンサート業界目線で考えると、ここは新規顧客として取りやすい層だと考えることができます。

 

ただ、これも以前の記事で書きましたが、音源を楽しむ事は好きだけど、ライブにはわざわざ行きたくないとか、あまり楽しめないという方も存在すると思います。

(私ももともと音源で音楽を楽しむことが好きなタイプなので、この気持ちは非常に理解ができます。)

 

そう考えると、年に1回しか参加をしていない層を、2度3度と複数回来場したくなるような取り組みを行う方が、確度も高く現実的なように感じています。

 

来場時の満足度の向上や、不満点を潰していく事がその為に必要になりますが、例えば音楽フェスなどでは、キッズエリアや授乳エリアの設置、スマホの充電スペースや帰宅時の荷物の宅送など、来場時に起こり得る不満・不便の解消施策への取り組みに積極的です。

野外フェスなどでは特に、ロケーションを含めた装飾やコンセプトにより世界観の構築にも力を入れて個性や満足度を高めています。

 

一方、最も大きなウエイトを占める単独コンサートに関しては、これらの取り組みはフェスティバルと比べるとあまり実感ができません。

これには理由があり、多くの場合は単独コンサートが努力を怠っているという訳ではありません。

 

会場の設計上、ライブを鑑賞するエリアに面積を使わざるを得ず、不便を潰す施策の為のスペースの確保が困難だったり、会場の退館時間や撤去時間の兼ね合い、ワンマン公演だとチケット価格を上げにくく設備設置にかかる予算を捻出しづらい等、取り組みが難しい事情もありました。

 

しかし、コロナ禍で入場者数制限のかかる現在、空いたスペースを利用して満足度の向上や不満・不便点潰しは取り組みやすくなるかもしれません。

入場者数の制限がある事により、入退場の整理やセキュリティにかかるスタッフ人件費の減少をそういった取り組み予算に充てても良いかもしれません。(感染対策費という新たな支出は発生しますが。)

 

このインタビュー記事【インタビュー】ビジネスパーソンから学ぶ音楽業界の今後【若月優(クウェル株式会社 / アクセンチュア株式会社)】でも話題に挙がったように、人数制限下での減収分は、空間やラグジュアリー感などの演出、果てはコロナ感染を避けて安全にコンサートを楽しむ為の一人当たりの占有面積を増やす対価として、特別な体験や場としてチケット単価を増やしても大きな不満にはならないと思っています。

 

ライブ配信による無関心層の取り込み

今回参照した2015年のデータでは、ライブビューイングが2.1%となっています。

以降の直近の数値は分かりませんが、この数値は上昇傾向であったと予想されますし、ご承知の通りコロナ禍により急速に取り組みが進みました。

 

コロナショック以降の数ヶ月は、アーティストの心理的不安・ストレスの解消という意味合いもあり、無料ライブ配信のウエイトが大きかったかと思います。

 

今後はまず、有料のライブ配信数の増加が予想されます。

これについては人数制限による減収分の補填として必須な事になるでしょうし、リスナーからすれば無料に越した事はないとは思いますが、十分に理解いただける事だと考えています。

 

並行して無料視聴可能なライブ配信についても、アーティストの新たなファンとのタッチポイント設計としてまだまだ活発になっていくように思っています。

 

現状はコロナ禍の只中にいる為、タイアップや協賛の獲得の難易度が上がってはいますが、無料ライブ配信で数万・数十万と多くの消費者を集める事ができる物に関しては、その協賛金で無料での配信の継続が可能となり、当たり前のマーケティングとして根付いていくでしょう。

 

何より大きな可能性や期待としては、コンサート・ライブのファンの一定数はライブ配信を観たり消費をするでしょうし、音源の有料消費をしていた32.9%に関しては、リアルな場に来場させるのは難しくともライブ配信は自宅で音源を楽しむのと同様の感覚で接触をしてくれるとも考えることができます。

 

更には、ライブ配信であれば、全くの新規の無関心層にリーチが及ぶ可能性すら秘めています。

 

これらはコンサート業界にとって、新たなファンへのタッチポイントやキャッシュポイントにもなり得ますし、リアルなライブ会場への誘因にさえ繋がると考える事が可能です。

 

今現在だけを見れば非常に厳しい状況の音楽コンサート業界ですが、そもそものパイの取りこぼしも多く(それでも十分回っていた為)、広がるライブ配信の持つ可能性を加味すると、これまでにない成長曲線を描く可能性だって感じることができるでしょう。

 

最後に

悲観的な事ばかり書いていたくない気持ちもあり、少々ポジティブ・マインドに寄りすぎた考察かもしれませんが、絵空事ではなく十分にその可能性のある話だと思っています。

 

「音楽やライブは好きだったけど年々足が遠くなっていた。」

「ライブへ行くのは年に1回くらい。」

という方も、音楽が好きではなくなった訳ではありませんし、無論、現在活動するアーティストに問題がある訳でもありません。

 

仕事の拘束時間や趣味や娯楽の多様化だったりで積極的ではなくなっただけで、コロナ禍での在宅時間の増加と並行するライブ配信の活発化、リアル会場の満足度の拡充(に取り組めば)は、音楽に関心のある層全てを対象としたビジネスに転化させる事ができるかもしれません。

 

今はしんどいかもしれませんが、耐えて盛り返しましょう。

 

ではまた明日◎ 

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