数日前に書いた以下の記事。
この記事の中で、
「ライブハウスとしてのビジネス設計をそもそも誤まっているお店も少なくないと感じる」
と書きました。
この記述の注釈に「長くなるので別途書きます。」とも書いていたので、今日はこれについて書いていきます。
この記事のみでも完結できるようには書くつもりですが、できれば上記記事を読んでいただいてからの方が伝わりやすいかと思いますので、お時間許せば一読くださいませ。
ライブハウスの2つの集客構造
かつて呼ばれた潰れないビジネス
ライブハウスの営業収益(集客)構造は大きくふた通りに分けられると考えています。
タイトルにもある通り、"会場スタッフに顧客を付ける"か、"会場に顧客を付ける"かです。
前者は比較的小規模会場に多く見られる手法で、店舗営業の多くを会場主催イベントや、会場側から主催者へ営業をかけるなど、会場側が主体的に日程を埋めていきます。
後者は営業の大半がホールレンタルで埋まり、会場主催など主体的な営業は月にほんの数日程度の空き日程に留まります。
90年代のバンドブームやバブル景気の頃をピークに、長らくライブハウスは「潰れないビジネス」とも呼ばれていました。
理由はホールレンタルや出演者、更には来場者からの需要も高く、いわゆる貸し手市場だった事にあります。
会場を使用したい借り手が多ければ営業日程はレンタルで埋まっていきますし、会場主催で企画を立てるにしても出演者需要も来場者需要も高い為、ノルマを払ってでも出演をしたいと考えるアーティストも多く存在していました。
小規模ライブハウスの大半は認可上は飲食店となるものの、収益モデルは会場使用料を主としています。
その為、経営上の理想は月々に必要な売上を営業日数で日割り予算を立て、その日割りした金額でホールレンタルが埋まれば潰れることはありません。
仮にレンタルで埋まらなかった日程があっても、会場主催イベントを組み、1日に必要な売上はその日の出演アーティストにノルマとして課す事で、リスクヘッジが可能でした。
この方法で滞りなく営業を回すことが可能であった為、"潰れないビジネス"とさえ呼ばれるようになりました。
貸し手市場から借り手市場に
原因がバンドブームの終焉なのか、バブル崩壊後から続くデフレによるものなのか、少子高齢化やエンタメの多様化なのか、どの要素による影響が強いのかは明言できませんが、小規模会場におけるかつての貸し手市場は現在では見る影もありません。
(反対に大規模会場は長年会場不足が嘆かれており、貸し手市場傾向は年々さらに強まっています)
実際、私の体感としては2000年前後くらいはまだまだ毎週各地の深夜イベントはどこも多くの来場者で賑わっていました。
(私の場合はこの頃、有名なお店で言うと西麻布イエローや恵比寿ミルク、新宿ワイヤーなどに遊びに行っていました。)
私個人で主催していたDJイベントも、当時全く駆け出しのDJでしたがそれでも100人くらいは毎回来場者がいました。
当時私は20代前半だったのですが、この頃は深夜のクラブイベントばかりに出入りしていたので、ライブタイム帯の事は見てはいないのですが、深夜にあれだけ人が出入りしていたのでおそらくはまだ好調だったと思われます。
これも体感になりますが、昨日の記事でも対象としていた2010年前半から中頃にかけて、この貸し手市場から借り手市場への逆転が起こったように感じています。
2013年に開催した主催イベントでは、2日間連続開催で1,000人を超える来場者に恵まれたイベントを行う事が出来ましたが、一緒に手伝ってくれているスタッフ総動員でかなり地道な集客活動を必死で行ってようやく1,000人に届くというところで、この数年前なら1dayで300人〜500人という小規模会場を埋めきるような動員はもう少し容易でした。
なので、2010,2011年あたりを境に来場者需要も下がりはじめ、それに伴い主催者のレンタル需要も下降してきたというのが私の印象です。
過去記事でのノルマ制度についてでも記述しましたが、現在の小規模会場ではノルマを出演者にかける傾向はかなり無くなってきています。
会場のホールレンタル料金も下降傾向で、近年ではドリンク売上を伸ばす事でその下降分を埋めようと対策する店舗も多く見受けられます。
求められる会場へのニーズ(本テーマ回答)
当たり前の話になりますが、借り手市場へと移り変わった事で、借り手のニーズを満たせない会場にはホールレンタルが入らなくなってしまいます。
かつてはその需要の多さから、極端に言えばライブ演奏と集客のできる環境・スペースさえあれば、ある程度のレンタルも入り営業を回す事が可能でした。
しかし、現在では借り手(主催者)は会場を選び放題です。
同じキャパシティでレンタル料にも大差のない会場同士であれば、せっかく使用料を支払う訳ですからよりメリットのある会場を選びたいのが常です。
そのメリットは、立地だったり、会場レイアウトだったり、音響環境だったり、内装だったりと様々な要素が考えられます。
とはいえ、それらの多くは出店後には変更や修正のできない、または修正の難しい要素も多く含まれます。
そこで多くの小規模会場が営業継続の為のメリットや差別化として使っているのが、人(スタッフ)による集客です。
個性豊かなスタッフに自ずと主催者や出演者、来場者が惹かれて人が集まる事は素晴らしいですし、それでこそとは思います。
ただ、埋まらない日程の補填を店舗スタッフの人脈や人柄に頼るという経営者の収益設計には私は疑問を感じます。
おそらくほとんどの小規模会場の社員やブッキングスタッフには、数値的な売上目標が課せられています。
ビジネスな訳ですから売上目標を具体的に数字で設定する事は悪いことではありません。
但し、これが各現場スタッフ個別の個人売上の設定や競争を求めている経営に対しては私は論外だと考えています。
理由は大きく分けると以下の2つになります。
- 個人売上を競わせるとサービスが低下する
- 会場の販売する商品は場であって人ではない
一つ目については、アパレルショップをイメージしてもらうと分かりやすいかと思います。
スタッフの目的が店舗全体の売上作りではなく個人売上になってしまうと、極力多くのお客様に対して接客をしたいと考えてしまいます。
じっくりと検討したいお客様に対して、販売員は「買いそうもないからこの客は早く切り上げたい。」とも考えてしまいます。
また、自分の顧客ではないお客様に対して、自分の売上にならないのであればその対応に緩みも出ます。
個人売上が悪い時には無理な接客もしてしまうでしょう。
これらを繰り返してしまうと、短期的な売上は取れますが、次第に売上は下がっていきますし、スタッフの離職率も増加してしまいます。
これはそのままライブ会場にも置き換えられると私は考えています。
その日の公演は出勤する全てのスタッフが近い温度で応対できるほどに顧客の満足度は高まるはずです。
会場そのものの個性が弱い場合には特に、個人売上を競わせてしまう事は会場全体の評価を下げる結果に陥りやすいように私は感じています。
二つ目については飲食店に置き換えるとイメージがしやすいかと思います。
ライブ会場の提供する商品は"会場という空間の利用"です。
どれだけ素晴らしいスタッフが接客を行い、優秀なスタッフがお店のプロモーションを行なったとしても、肝心なのは提供する商品です。
例えばラーメン屋であれば、そのラーメンが不味いものであれば、売りようがありません。
むしろ、接客やプロモーションを頑張って集客を行うほどに、多くのお客様に「あの店のラーメンは不味い。」と認知され続けてしまいます。
ライブ会場も同様で、需要に合わない店舗設計は不味いラーメンに等しいです。
スタッフの営業努力で「使用してください」「出演してください」「遊びに来てください」と無理な利用を促すほどに、その会場の至らなさの認知が広まってしまいます。
本記事テーマの「ライブハウスとしてのビジネス設計をそもそも誤まっているお店も少なくない」の多くの理由は、この点に対してとなります。
商品となる会場そのものの修正や変更は出店後には難しいとは書きましたが、優秀な経営者であれば必須な設備投資と考えてリスクが増したとしても資金を投入すると思っています。
美味しいラーメンを提供するお店であれば、その現場で働くスタッフは自ずと能動的に楽しんで働くはずです。
反対に、ラーメンが不味いのに売上ノルマだけを出されてモチベーションを保てるスタッフは皆無に等しいでしょう。
そこで働くスタッフが「勤めているのが誇らしいと思える自慢のお店」を作る事は、そのまま顧客にとっても魅力にもなると言い換えても良いかもしれません。
人で集客をするデメリット
主な本テーマに対する私なりの回答は書き終えましたが、補足的にもう一点気になる要素があります。
現場スタッフの人柄や人脈を借りた経営は、上述した理由から得策ではないとは書きましたが、それでも収益的にも回り続けられる事はあります。
しかしこの方法を取り続けた場合に懸念されるのは、そのスタッフが退職した場合です。
借り主(主催者)や出演アーティストを人(スタッフ)に付けてしまうと、そのスタッフが離職した場合に営業が一気に傾きます。
業界からの離職であれば経営的ダメージはあっても心理的なダメージはありませんが、別の会場に転職されてしまうという事も少なくありません。
この場合、転職した側は「自分の顧客を連れて行ったのだから何が悪い?」程度に感じるかもしれませんが、離職された店舗側からすれば、同業他社に顧客をそのまま持っていかれた格好に感じてしまう為、心理的にも気持ちの良いものではありません。
これも会場そのものが利用者のニーズに応え切った設計であれば起こらない問題ですので、やはり小規模ライブハウスをホールレンタル主体で経営するなら、人消費に傾倒し過ぎるのはリスクが高いと思わざるを得ません。
最後に
今回のテーマのタネとなっている
経営者がすべき問題解決を求められ疲弊するライブハウス現場スタッフ【コロナ禍】
でも触れている通り、ここで書いた内容もコロナ以前から気にはなっていた事ではありますが、コロナ禍では更に求められるシフトチェンジだと考えています。
感染対策を行なっているとはいえ、人の集まる場所への不安や警戒心が残る中、それでもコト消費を継続してく為には、"強烈に行きたい場所"を作るしかないと思っています。
ビッグアーティストであれば、アーティストパワーのみで"強烈に行きたい"を設計できますし、そんなアーティストが使用し、会場不足も続く大規模会場であれば大きな変革は必要としないかもしれません。
しかし、小規模会場は会場数も飽和状態にあり、あっという間にその会場を埋めるようなビッグアーティストは基本的には滅多に出演をしてくれません。(キャパシティの都合上、高額な出演料も支払えませんしね。。。)
であれば、会場側で”強烈に行きたい”を設計していかない限り、コロナ以前の収益を取り戻す事は困難なのではないかと思い、今回はこんなテーマで書かせていただきました。
ではまた明日◎
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