緊急事態宣言も開け、さらに活発化を見せるライブ配信。
そんな中、2つの気になるニュースがありました。
一つは、サザンオールスターズの無観客配信ライブ成功の報。
もう一つが、ピチカート・ファイヴの小西康陽さんのDJ配信後の「自分自身が全く盛り上がっていなくて戸惑った。」というコメントです。
このブログで過去に書いていた2つの見込みや予想を分かりやすく実証するような物だったので、今回はこの事を受けての所感を書いていきたいと思います。
【目次】
青天井を実証したサザンのライブ配信
ライブ配信の内容
このサザンオールスターズのライブ配信は、6月25日夜に横浜アリーナで行うパフォーマンスを「Abema」や「GYAO!」「U-NEXT」「LINE LIVE」など8つのメディアで配信したもの。
3600円のチケットは18万人がチケットを購入、推定視聴者数は50万人と報じられています。
配信と動員ライブでの収益性の違いは?
チケット収益の違い
まず、ビジネス面でのみ考えてみると、3600円のチケットを報道通り18万枚売ったと仮定するのであれば、約6億5千万円のチケット収益になります。
チケット代はサザンとしてはかなり低い設定となっています。
会場はキャパシティおよそ17,000人の横浜アリーナ。
通常は席によってチケット価格の上下はあるかと思いますが、仮に1万円で計算をすると1億7千万円のチケット収益となります。
チケット売上だけで見ると大幅にライブ配信が上回っています。(厳密にはプレイガイドへの手数料もあります)
これはこのブログで過去記事でもチラホラと書いていた、「キャパシティに制限の無いライブ配信には、青天井のチケット収益の可能性がある」事の証明と言えるかもしれません。
グッズ収益の違い
ただ、ライブ配信では取りこぼしてしまう売上もあるかと思います。
物販です。
1万人を超えるような大規模コンサートの場合は特に、グッズ販売の収益を見越してバジェット組みをしているケースが多いです。
ライブ配信であれば、グッズもECサイトで通販すればある程度売れるとは思いますが、個人的には同じような売上に届かせるのはなかなか難しいと思っています。
これも過去記事で触れた事がありますが、ライブ物販の購入動機にはスーベニア要素(お土産)がとても強いと思っています。
特にアーティストの規模が大きくなるほど、アーティストの意向がグッズに反映されにくくなる面もある為、乱暴に言えばダサいグッズのウエイトは増す印象です。
これは原価を下げたいだとか、アーティスト名や写真が大きく入っている方が売れやすいなどの理由が考えられますが、後者についてはライブ配信となるとその意味をかなり失ってしまいます。
ライブグッズの多くは、そのロゴやアー写を大きく入れる事で、アーティストのグッズである事を分かりやすくしています。
「その日の(そのアーティストの)ライブの記念品」である事を明確にする事で、形として思い出を残したいというファンの需要を満たしています。
また、そのことは次にライブに行くときのユニフォーム代わりに使いたいという需要にも対応します。
次のライブに行くときに過去のツアーグッズを身につける事は、古参ファンである事の証明にもなりますし、会場の皆がそのアーティストのグッズを身につける事で会場全体の一体感は増し、より盛り上がりを感じられます。
しかし、ライブ配信の場合、他の視聴者と会うことができない為、グッズを身につける必要性が失われてしまいます。
グッズ販売を含め、ライブ配信の当面の課題はライブ特有の一体感や熱気をどこまでオンライン上で表現できるかになるでしょうから、今後はおそらく高額チケット購入者や投げ銭をするとその観客がライブ画面上に映ることができるなどの解消策は進むと思います。
なので、グッズ販売は現時点では配信が劣りますが、数年後には追いつき追い越す可能性は高いと思っています。
会場使用料やインフラ費用の違い
上記のチケット・物販は収益の話でしたが、こちらは支出の話となります。
まずマストで必要となるのが会場使用料です。
会場使用料はライブ本番当日だけでなく、仕込み内容によっては設営や撤去で前後の日程も使用料を支払う場合があります。
仮に1日の使用料が1千万円の場合、本番日前後も抑えてしまうと3千万円に膨らんでしまいます。(前後は使用時間によって落とせる場合もありますが)
配信の場合でも全く同じステージ設営を行うのであれば、観客の有無を問わず本番日以外の会場使用料はかかってしまいます。
ただ、ライブ配信となれば、演出やカメラワークの工夫によっては最小限のコストや設営規模で魅力的な演出は可能になる場合は十分にあるはずですし、配信になる事でステージ装飾や演出のコストが増す事はあまりないように思っています。
とはいえ、配信となると配信の為のコストも新たに出て来るので、よほどステージ装飾のコストを落とさない限りは大幅なコストの違いは出ないように考えています。
ただ、配信であるのなら、アリーナやドームのような大きく高額な会場費の会場をわざわざ使う必要がそもそもあるのか?という気がしていますので、そもそもの会場をより小規模に落とせばコストは大幅にカットできるとは思います。
これは演出上、最低限必要なステージの広さがあったり、今現在であればスタッフ間でソーシャルディスタンスを確保する為にフロア含め広い必要があるという事もあるかとは思いますが。
ライブ配信になる事で最も削れるコストは、場内外の警備や整列誘導にあたるスタッフ人件費です。
観客を入れる場合、2万人であれば2万人の入場に対応できるだけのモギリや整列、警備のスタッフが必要になります。
大きな会場でのライブに行かれたことがある方は分かるかと思いますが、百〜数百人単位のスタッフがこれらの業務に配置されています。
今も昔も求人情報誌を見ると、コンサート警備のアルバイト情報がやたら多いと思いますが、それだけ多くの人員を必要としています。
予算的には数百万〜千万単位のコストがかかるところ、ライブ配信の場合、これを丸々カットできるのは、大きな相違点になると思います。
青天井は全アーティストに当てはめられるのか?
今回のサザンに関しては、収益の一部を医療機関に寄付するとの事ではありますが、その事や物販収益のロスを加味しても、報道通りのチケットセールスで考えれば採算的には黒字化、大成功していると思われます。
しかし、言うまでもなくこれはサザンオールスターズだからの結果です。
加えて緊急事態宣言開けというタイミングもあったとも思います。
サザンや例えば矢沢永吉のようにライブ参戦がファンのライフワーク化まで落とし込めている場合はライブ配信であってもその求心力で成立しやすいですし、チケットが毎回争奪戦になるようなアーティストにとっては、上限なくチケット販売ができるということは青天井、まさに無限のセールスの可能性があります。
また、画面越しであってもその姿が大きくはっきりと見えることにメリットがあるタイプのアーティストであれば、生の臨場感や一体感が薄れた代わりにそれを強みに代替できますが、純粋に音楽のみで人気を獲得するタイプのアーティストの場合はやや不利な面を感じます。
私個人的な見立てとしては、大きな知名度や人気をすでに確保しているアーティストはライブ配信にシフトすることで、より大きな収益を生める可能性が非常に高いと思いますが、逆に小規模会場で行うようなインディーアーティストにとってはかなり収益化は難しいのではないかと思っています。
理由は、以前書いた通り、小規模ライブハウスの持っていたアドバンテージは演者と観客の距離の近さによるところが少なからずあったと考えているので、ライブ配信ではそのアドバンテージを失い、ビッグアーティストとある種同じ土俵でリスナーの奪い合いをする事になると感じるからです。
DJ配信後に漏らした小西康陽氏の確信めいた発言
発言の内容
6月26日の朝日新聞デジタルの記事で、自身初の無観客DJ配信を行なった小西康陽さんが、
「自分自身が全く盛り上がっていなくて戸惑った。お客さんのレスポンスがあって成立する文化だったと身にしみた。」
と発言したことが報じられています。
加えて、
「ライブやクラブは、音楽そのものよりもみんなで集まって跳んだりはねたり声を出したりするところが魅力だった」
「そこに頼っているエンターテインメントはこれから見直される。なくなるもの、淘汰されるものはいっぱいあるでしょう」
「DJやライブの文化も必ずしも生でなければならないわけではなくなるかもしれない。失われる分、別の形で新たなものが生まれてくる」
といった発言も掲載されています。
また、3時間のDJプレイ中、テンポの早い曲をかけることはほとんど無かったとのことです。
懸念される配信での演奏意義の喪失
このブログの過去記事では、
「ライブ配信でチケットセールスが青天井になる反面、ライブができない事によるアーティストのモチベーション維持の不安」
に触れました。
SNSの発達により、ファンの存在は会わずとも可視化され、アーティストはファンの存在を以前より実感しやすくはなってきているとは思います。
しかし、やはり実際に目の前にいる観客一人一人の顔が見える事や歓声などのレスポンスは配信では代え難いです。
小西さんの発言は、この物足りなさをはっきりと吐露したものだと思います。
サザンのライブ配信では、「アリーナー!」などと声をかけたりしていたそうですが、それはあくまでも”ライブ会場でやっているテイ”であって、演奏中の本人達はファンの存在を感じて演奏はできていないでしょう。
それはそれでエンターテイナーとしてのプロ魂が感じられて素晴らしいです。
観ている方は仮にそれで満足ができても、誰もいない会場で演奏をしてアーティストとしての充実感を得るのはかなり難しい事だと思っています。
小西さんの場合は、大小問わず様々な会場でDJプレイを行う現場主義的な側面も強いアーティストでもあるので、特にその違和感を強く感じられたのかと思います。
ですが、その違和感の強さに違いはあれど、全く感じないアーティストは1人もいないと思います。
それで生計を立てるいわゆるプロであれば、それでも収入になるのであれば仕事と割り切ってこなし続けられるでしょうけれど、そうではないアーティストの目線になるとなかなかに厳しいものがあるように感じます。
目標を掲げ、アルバイトや別の仕事をしながらアーティスト活動をしているとなれば、ライブをしても収入にならず、それを観ている人の存在すら感じられないという状態でモチベーションを維持する事は容易ではないはずです。
「失われる分、別の形で新たなものが生まれてくる」
と小西さんも語っているように、「自分自身が全く盛り上がらない」という失われたものの代わりになる新たなものは確かに生まれるはずだと私も思います。
が、現時点でのライブ配信の感想としては非常に素直で忖度のない発言だと思いますし、はっきりとそう語ってくれた事に誠実さを感じて嬉しくなりました。(ちなみに私はいわゆるピチカートマニアでした。)
まとめ
私が予感していた「ライブ配信の青天井化」と「無観客によるモチベーション維持の難しさ」を表すような記事が奇しくも同時に目に付いたので、今回このような取り上げ方をしました。
こうなると気になってくるのは、サザンオールスターズのメンバーが本心からやりがいや楽しさを感じながらパフォーマンスが行えたのかという事になってきますが、そればっかりは本人達のみぞ知るという感じですね。
オフラインでのライブ体験を知っているアーティストやファンにとっては、ライブ配信に物足りなさや違和感を感じやすいでしょうけれど、ライブ配信ネイティブな世代がアーティストやファンとして出てくるようになれば、その時に劇的に変化が起こるようには思っています。
ちなみに私は今年に入って遂に完全にテレビを観なくなり、YouTubeばかり観るようになりました。
おじさんは時代の変化に対応するのがやはり遅い証拠ですね。
ではまた◎
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