「このままではつぶれる」サマソニの窮状 政府の補償、洋楽は対象外 「アーティストの来日、柔軟に」
という、なんともシビれる見出しの記事が飛び込んできました。
この記事は、朝日新聞によるインタビュー記事となっており、インタビュー対象はサマーソニックを企画・運営するクリエイティブマンプロダクション代表の清水社長。
見出しのフックとして「このままではつぶれる」というワードをチョイスしている辺り、「これだからメディアってのはなんだかなぁ...。」とは正直思ってしまいますが、この記事で肝要なのはその後に続く「政府の補償、洋楽は対象外」の方です。
そう、サマソニやフジロックのように、海外からアーティストを招聘するコンサートについては国からの補償の対象外となるというのです。
恥ずかしながら私、この事をこの記事を読むまで把握しておらず、悪い意味で「その手があったか...。」と思ってしまいました...。
という訳で、このインタビューを読んでいない方には分かりやすく要点が伝わるように、既に読まれた方には私なりの解釈を加えて考察となるようにこのインタビューに触れていきたいと思います。
また、このブログではその事をあまり書いたことは無かったような気もしますが、私の前職の会社の社長になりますので、もしかしたらサマソニ側に寄ったポジショントークが含まれてしまうかもしれませんが、人間味ってことで多目に見ていただけますと幸いです...。
サマーソニックについて
インタビュー内容に触れる前に、あまりご存知の無い方の為にサマーソニックについて簡単に説明を。
2000年に初回開催が行われ、以降毎年8月に2Days開催を基本に、東京(千葉)・大阪と2つの会場を出演アーティストを入れ替える形で行われる音楽フェスティバルで、運営会社は株式会社クリエイティブマンプロダクション。
この別会場で同時開催し、出演アーティストを入れ替えるという開催形式は、イギリスのレディング&リーズフェステイバルをモデルにしているとされています。
フジロックフェスティバル、ライジングサンロックフェスティバル、ロックインジャパンフェスティバルと共に、日本の"4大夏フェス"とも呼ばれ、通称「サマソニ」という略称でも広く認知されています。
フェスの個性としては、海外アーティストを迎えた出演ラインナップや、都心からアクセスもよく、ステージ間移動も比較的容易な事から、「都市型フェスティバル」としてフェス初心者でも参加しやすい点が挙げられます。
昨年2020年は、東京オリンピックとの開催時期の干渉の影響から「サマーソニック」としての開催は見送り、通常より時期を後ろ倒してにした9月に「SUPERSONIC(スーパーソニック)」として開催予定でしたが、新型コロナウイルスによるパンデミックの影響により、2021年9月への延期をアナウンスしています。
インタビューを読んだ上での3つのポイント
補償外となる洋楽プロモーター
サマソニを企画・運営するクリエイティブマンプロダクションは、海外の音楽アーティストを招聘しコンサートを企画するプロモーター会社となります。
主要事業となるサマソニについても、ヘッドライナーや主要ラインナップに多くの海外アーティストが含まれます。
その上で、現在のパンデミックの状況下となりますので、新型コロナのパンデミック以降、2020年2月のペンタトニックスと韓国のヒョゴを最後に、主要事業となる海外アーティストの来日公演は1本も行われていません。
2020年5月より、「コンテンツグローバル需要創出促進事業費補助金(J-LODlive)」という音楽や演劇のネット配信に対しての補助金の申請受付が行われていますが、クールジャパン戦略として打ち出されたこの補助金の対象には、海外アーティストによる来日公演は含まれていないそうです。
その立て付けとしては、経済産業省のサイトには、
「音楽、演劇等の国内における公演及び当該公演を収録した映像の全部又は一部を活用して制作した海外向けPR動画のデジタル配信の実施により日本発のコンテンツのプロモーションを行う事業者を支援するもの」
との記載があり、つまり"日本発"のコンテンツとしてはみなされず、海外アーティストの来日公演は除外されてしまうという事です。
これに私は疑問を感じてしまいます。
この補助金が、パンデミック下ではない平時に、日本の文化支援策として行われているのであれば、"日本発"を打ち出す事に理解も同意もできます。
しかし、これは新型コロナを受けての事業者支援策です。
これについて、清水社長は
「飲食店に例えると、日本食を出す店は補助するけれども、フレンチや韓国料理の店は補助できない、という内容に近いわけです。」
と表現しています。
そして、こう続けています。
「音楽文化を扱う同じプロモーターという枠組みではなく、海外のアーティストを相手にしているというだけで、日本の会社なのに守られない。置いてきぼりにされていると、この1年ずっと感じています。」
現状では、コンサートやイベント業界の補償はこのJ-LODliveに集約されているとの事で、音楽コンサート事業者としての補助金を受けることは出来ていないのです。
約60億円の逸失売上
このような現状を受け、昨年12月にクリエイティブマンを含む、コンサートプロモーターズ協会(ACPC)加盟の洋楽プロモーター10社が集まり、話し合いの場が設けられたとのことです。
この話し合いの場では、
- J-LODliveに入れず、補償もない事に対する働きかけ
- 海外アーティストによる来日公演を再開させる術
という2点や、「コンソーシアム(企業連合)を作って政府など各方面に動きかけていこう。」という意思統一がなされたと清水社長は話しておられます。
この話し合いに集まった10社により、2020年2月26日〜2021年1月31日の間に延期された数は350公演、中止になった数は269公演で、計619公演に上ります。
このブログでも度々取り上げている小規模ライブハウスの中止・延期数を見ていると、もしかしたら少ない数字のように感じられるかもしれませんが、1公演辺りのチケットセールス数やチケット単価が大きく異なりますので、その損失額も非常に大きなものとしてのし掛かっていると言えます。
クリエイティブマンでは、発表しているだけで、2020年に34アーティストの公演が延期や中止になりました。
スーパーソニックなど海外からアーティストを招くフェスの延期や中止を含めると、チケットの逸失売上は延べ45億円近くに。
フェスの場合は飲食やスポンサー、グッズなどで約15億円の逸失売上もあり、全て合わせると約60億円になります。
インタビュー内でこのように語られているように、34公演と公演数こそ少なく見えても、チケットだけでも45億円近くと大きな逸失売上になってしまいます。
無論、このチケット収益や飲食、協賛、グッズなどここに挙げられたものこそが、プロモーターのビジネスモデルとなるので、企業としての収益は一部国内アーティストの公演や同社の会員売上を除けば、完全に停止していると言えます。
また、このように公演が中止・延期となった場合にはJ-LODlive などの補償対象に入らない事に加え、新型コロナによる中止の場合には興行保険も下りず、収益の停止を独自に切り抜けるほか無いという現状となっているそうです。
更に付け加えると、逸失売上の約60億円だけでなく、公演が中止や延期となれば、チケットを販売済みの場合にはその払い戻しに掛かる手数料はプロモーター負担となります。
(もちろん、オフィスの賃料や社員への給与などの固定費もこれに更に重なります。)
使用予定だった会場の使用料についても、キャンセル料を支払うのが通例です。
そんな中でも、インタビュー中には以下のようにも話されています。
「全面的にキャンセル料を払えという会場はなかったし、日本のアーティストは50%でやる、やらないのチョイスもある中で、海外のアーティストはそれもできない、来日もできないから、無理だよね、ということで、キャンセル料を取らない、と言ってくれた会場もあった。本当にありがたかったですね」
会場は会場で、使用料こそがメインビジネスであるにも関わらず、キャンセル料を取らなかったり、キャンセル料を全額負担させられるといったケースは無かったと、感謝の言葉を語られています。
現時点での日本におけるコロナ関連の補償では、会場はプロモーターに比べれば補償の対象になるケースが多いかとは思われますが、それにしても良い話です。
話は小規模になりますが、私もライブハウスが全額キャンセル料を取るのは、
「コロナ終息以降にも継続するつもりであれば、絶対に全額取るのはやめた方が良い。」
と随分色々な近しいライブハウス関係者には熱弁してきていました。
というのも、私は会場側の仕事もしたりしますが、それ以上に借りる側が多く、その目線からするとコロナ禍の今、キャンセル料を考慮してくれる会場が存在する中で、「いや、全額払ってください。」とされてしまえば、終息以降にその会場を借りたいとは思わなくなると感じたからです。(小規模会場であるほど特に。)
まあ、同社が使用予定の会場は、基本的にはスケジュールがなかなか取れないような大きな会場が大半なので、そういった心情的理由で使用有無を判断されるような事はそうそう無いとは思いますが、だからこそ良い話だと感じました。
インバウンドへの貢献に対する評価
ご承知の通り、海外から日本に入国する際には、14日間の「自主隔離」が求められています。
加えて、厚生労働省のサイトには、
「14日間の公共交通機関の不使用、自宅等での待機、位置情報の保存、接触確認アプリの導入等について誓約いただく」とあり、この「誓約書」が提出できない場合は「検疫所が確保する宿泊施設等で待機していただく」
とあります。
つまり、海外アーティストの来日公演を実施しようとするのであれば、ビザが取れたとしても、14日間余計にアーティストやそのクルーのスケジュールを拘束し、その滞在費用やケアもプロモーターが負わなければならないという事となります。
費用やケアについて清水社長は特に触れていませんが、14日間の隔離については以下のようにも述べています。
「プロフェッショナルな人間がビジネスとしてやる場合にはビザを通して欲しいし、2週間の隔離を免除できるようなシステムを勝ち取っていきたい。
小規模なアーティストだと5~6人で来日するツアーも多いので、しっかり監視できます。
全てを一律に考えるのではなく、洋楽プロモーターのライセンスを持った会社が手続きを取った上でアーティストを来日させられる仕組みを、早く政府と共に作っていきたい、というのが僕らの今の目標です。
スポーツ界とも連携していきます。アーティストに『日本で2週間待機して』なんて言ったら、誰も来てくれませんよ」
この14日間の隔離が存在する限り、来日公演を実施する事は難しく、この免除を得る事こそが再開への第一歩だという事になります。
こういった洋楽プロモーターの厳しい現状を前提に、元記事の見出しにあった
「このままではつぶれる洋楽プロモーターが出てきます。」
という言葉が発せられています。
海外のビッグアーティストが多数出演するサマソニやフジロックといった20年以上に渡り続く巨大音楽フェスティバルには、国内だけでなく毎年世界中から多くの観客も訪れています。
この事について、清水社長はこう話されています。
アジアの音楽業界は今KPOPの勢いが強くて、日本はまだまだ太刀打ちできない中で、唯一ロックフェスはアジアでトップの位置にある。
日本のコンテンツを海外に発信することだけでなく、インバウンドの振興もクールジャパン戦略の一つですが、フジロックやサマーソニックは、そのために海外から日本に来て、お金を使い、日本の文化を吸収して帰るお客さんが多い。
インバウンドの振興に貢献してきたフェスだということを、もっと評価して欲しいと思います。
クールジャパンの名の下に、日本発のコンテンツを援助・補償をするのが「J-LODliv」の立て付けや理念だとすれば、確かに洋楽アーティストはその範疇から外れるのかもしれません。
しかし、もはやフジロックやサマソニは、フェスそのものが巨大なコンテンツでもありカルチャーだと言えますし、これらのフェスをきっかけに日本の文化に触れる海外の人は少なくありません。
そもそも近年では日本のアーティストの方が多くラインナップされていますしね。
逆に、日本のアーティストが多いのに、海外アーティストが含まれていると補償外になるという理由が理解に苦しみます...。
最後に(まとめ)
今日現在の時点では、フジロックは8月に、サマソニはスーパーソニックとして9月の開催をそれぞれ予定し目指しています。
ぴあ総研による日本国内の「ライブ・エンタテイメント市場規模」は、2019年(6295億円)まで3年連続で過去最高を更新し、さらなる伸びが期待されていました。
しかし、パンデミックを受けた2020年は前年比で約8割減ると試算されているそうです。
このインタビューで語られた補償への訴えは、なにも音楽コンサート業界に大きな補償が欲しいと言っているのではなく、「海外アーティストの来日公演を、せめて国内アーティストの公演と同程度の補償を受けれるようにして欲しい。」というだけのある意味ささやかなものだとさえ思えます。
コロナが終息した時に、 サマソニもフジロックも無くなっていたとしたら、フジロックに行ったことがきっかけで音楽業界で働くことを決め、サマソニでその仕事の多くを覚えた私にとっては、両方のキ○タマを失うくらいの喪失感があることでしょう...。
楽しく無い話題だったので、せめて最後にユーモアをと思ったら、ただただ下劣な下ネタになってしまいましたので、今日はこの辺で。涙
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