老舗ライブハウス、ロフトグループ社長へのインタビュー記事が先日2月20日に弁護士ドットコムニュースに掲載されていました。
Yahoo!ニュースでも拾われていたので、ご覧になった方もいらっしゃるかと思います。
コロナショックを受けてのライブハウス経営者へのインタビューな訳ですから、その内容はやはり悲痛そのものにはなっているのですが、非常に小規模ライブハウスの現状や心情が伝わる質疑でした。
私自身はこれまでライブハウスのブッキング業務をいくつかの会場で経験してきていますし、「遊ぶ=ライブハウスかクラブ」という生活を長く送ってきていますので、このインタビュー内容そのものについてはこれを読むまでもなく、全て感じたり理解していた事柄ではありました。
そして、そういった現状や心情は結末はどうあれ、一人でも多くの方に知っていただきたいと私は考えています。(だからこそロフトグループ社長もこの取材に応じたのでしょうし。)
「状況が悪い事はもちろん知っている。」
としても、いわゆる"ライブハウスカルチャー"の象徴とも言えるロフトグループ社長からこれらの言葉が発せられている事で、よりリアリティが増していると感じましたので、ここでも取り上げさせていただきたく思います。
【目次】
ロフトグループについて
ご存知の方が多いと思うので簡単にロフトグループについての説明をしますと、1971年にジャズ喫茶として東京・烏山でスタートし、1973年の「西荻窪ロフト」のオープンからライブハウス業態での多店舗展開が始まりました。
現在は東京都内を中心にグループ全体で12店舗を構え、多くのアーティストが登竜門的に同グループ店舗のステージに立ち、特に新宿ロフトにおいては日本において指折りの有名ライブハウスとして広く知られています。
インタビュー内容
系列店「ネイキッドロフト」移転・閉店について
ロフトグループ社長、加藤梅造氏に対するこのインタビュー記事は、
2020年4月、新型コロナによる緊急事態宣言によって、長期休業をやむなくされた。
政府の緊急支援融資などで2億円を借り、運営資金にあててきた。宣言解除後は、オンライン配信や、観客数を限定してのライブが中心となった。
という前置きの元、始まります。
最初の質問となる2020年12月にグループ店「ネイキッドロフト」の移転に伴う閉店については、「あくまで現在入居しているビルの老朽化」による移転であると強調しています。
しかし、現在の新型コロナ感染対策のガイドライン(キャパシティの50%以下)に従うと、これまでのネイキッドロフトの場合、20人程度しか動員できず、「それでは商売にならない」として、より広い物件を探している最中だと回答しています。
この質問からは、家賃や人件費という固定費はこれまでのままに、”集客”というライブハウス事業の要のみが半減している事が伺えます。
コロナ以降の一年について
続いて、「ロフトにとって、2020年はどんな1年でしたか?」という問いには、
「ライブハウスにとって2020年は最大の危機の1年でした。それが今も続いている状況です。」
と、まず回答しています。
続けて以下のようにも答えています。
「まさかこんなに毎日のようにオンライン配信をやることになるなんて、想像もしていませんでした。
それまでも配信イベントはあったんですが、無観客の配信なんて考えられなかったです。お客さんを入れるというのが、ライブハウス本来の姿ですからね。
お客さんがいないところで配信をやっているのは、不思議な光景でした。」
私個人的にも、非常に同感です。
ライブ配信はライブハウスに限らず、大規模フェスやコンサートに至っても確実に今後より積極的に取り組むべき課題であるとは考えていましたが、"無観客"という形は想定していませんでしたし、実際にその現場に立ち会った際にも正直なところ「異様だ。」と思ってしまいました。
これに対し、インタビュワーは「ネガティブな気持ちになることもあったのではないでしょうか?」と問いかけます。
加藤社長はネガティブな気持ちになった事は認めつつも、「どんなかたちであれ、店を続けていこうというのは、当初からの方針」であったと返します。
2020年4月の一度目の緊急事態宣言では「無観客ライブすら出来ませんでした。」と言い、6月末からは営業の再開は出来たものの、「ライブはすぐにできるものではなくて、何カ月も前から準備するものなので、7月、8月は営業できない日も多かったですね。」と続けます。
9月下旬にガイドラインが緩和された以降は、会場キャパシティの5割まで入れる事ができるようになり、10月11月には経営は回復傾向に向かい始めていた中での2021年1月の二度目の緊急事態宣言を受け、「何もできなくなりました。」と語っています。
また、10月、11月の回復傾向にあった時期についても、グループ全体の売上は前年比で「20〜30%」 だと答えています。
シンプルにこれらの質問からは、コロナショック以降の売上は良い時期でも前年比の20〜30%程度だという事が分かります。
聞いて回った訳ではありませんが、私の肌感としてもライブハウス業界の売上は全体的にこの数字に近いものになると感じています。
現在も続く二度目の緊急事態宣言について
現在も続く、二度目の緊急事態宣言についての所感を尋ねられると、「予想していたとはいえ、やっぱりショック」とした上で、「一度目の緊急事態宣言では政府による緊急融資が受けれたが、2度目はそれがない。」と続けます。
加えて、一度目の時に融資を受けていたとしても、当然それは返済しなければならないので、「これ以上は借りられない」面もあり、事態としては今回の方がより厳しいものだと語っています。
これこそがライブハウスの置かれた立場の事態の深刻さだと私は思っているのですが、ライブハウスは"会場使用料"という1日あたりの売上の最大値が決まっている業態です。
もっと分かりやすくはっきりとした言葉を使うならば、「そんなに儲かるビジネスではない」と言ってしまっても良いくらいです。(それでも起業・経営をすることへの敬意を込めて)
つまり、"キャパシティ"や"会場使用料"によって売上の天井がある程度決まったビジネスである為、仮に政府から再び融資が受けられたとしても、あまりにその金額が膨れてしまえば返済のメドが立たなくなるでしょう。
次に、同グループ加藤社長が「文化を守らなければならない」と訴えかけている事について質問が変わります。
この訴えかけの理由として、加藤社長は以下の2点を挙げています。
- 自分たちの生業(なりわい)なので、生き死にの問題として、声をあげなければ、政府は何もしてくれないということ
- もっと広い意味で、文化・芸術は簡単にできあがるものではないということ
一つ目の理由の補足として、音響や照明といった長年研鑽を重ねてきた技術スタッフが廃業するような事になると、業界全体にとって大きな損失になる事。
二つ目の理由としては、今では全国に5000~6000店舗あると言われているライブハウスは文化資産であり、このまま閉店や廃業が続いた場合、再び1からこの文化を作り上げる事は困難であるとその理由を語っています。
これに関しては、心情的には同感ではありますが、昨年5月にこのブログでも以下の記事などで書いた通り、政府はライブハウスを文化だと認めていないので、「文化を守れ」という論拠ではなかなか政府は崩せないように感じてもいます...。
無論、ライブハウスでライブを観るのが生きがいであったり、心の救いであるというファンがいる事は間違い無いでしょうし、社会的影響力を持つアーティストを生み出す場として機能していた事も疑う余地はないでしょう。
しかしながら、例えばSNS上であっても、「ライブハウスを守れ!」というムーブメントはあくまでも局所的な物であり、世論として政府を動かすに至るスケールではない事も事実です。
「いや、ライブハウスを守ろうって動きは大きいでしょ!」
と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、例えば、自分の両親や田舎の友人に同意を得ようとしても、ピンと来ない事が大半ではないでしょうか。
悲しいし悔しいですが、私は事実としてそう受け止めています。
それらの事からも、政府からすると「文化って言いますが、我々の耳にはそんな声は全く入ってこないんですがね。」といった所かもしれません。
それでもライブにこだわる理由とは
「ライブにこだわる理由はなぜですか?」
という、我々関係者やファンからすると、愚問とも言うべき質問のように思えますが、これも案外キモだと思っています。
普通にビジネス視点で考えれば、
「どう考えても状況的に継続可能な事業じゃないのだから、何故別のビジネスモデルにシフトしないの?」
と、確かに思われそうなものです。
もしかしたら、世論を大きく動かせないのも、訴えかけた際にこの点に引っ掛かりを持たれているのかもしれないようにも思います。
この質問に対し加藤社長は、「リアルにその場の雰囲気を感じ、コミュニケーションすることが一番大事」であり、「そういう場がなくなるというのは考えられません。」、「今後、すべてオンライン配信になるかといえば、僕はならないと思います。」とも答えています。
これはほとんどの方が同意できると思います。
しかし、ビジネスとしては「コロナ終息以降には再開可能だ」という根拠になるので、「他の企業は業態をピボットするなどして延命努力をしているのだから、ライブハウスもそうしなよ。」と感じられる方は一定数どうしても出てしまい、動機としての説得力は弱いのかも知れません。
加藤社長はライブハウスに向かうまでの道のり、場内の音圧や来場者同士でのコミュニケーションなどをその魅力として触れ、オンライン配信とは異なり置き換えられないものとしてリアルなライブを位置づけます。
そして、その空間を失くしたくないから「今は無理にでもやっている気持ちもあります。」と語り、「商売は二の次みたいなところもありますね。」としています。
おそらく、ライブハウス従事者の誰に同じ質問をしても、同様の回答が得られると私は思っています。
私も当然、音楽に熱狂し人生が変わり、それを仕事にしたいと志したクチですので、「ライブの好きなところは?」と聞かれれば同じように答えると思います。
一つもしかしたら異なるのは、私の場合はライブハウスのみの仕事をしていた訳ではない事や、これまで”お金”や”権力”で随分と苦戦を強いられた経験もあり、以下の記事でも書いたように、「死んだら終いや、無茶はよせ。」という気持ちも同時に抱いてしまっています。
つまり、コロナ禍においては、ライブハウスという業態のみで健全な収支を作ることは困難な上、国からの援助も期待ができないとするのなら、こうしたライブハウスへの深い愛情を心中のようにも感じてしまうのです...。
と言っても、可能性を感じ、それを信じての事業継続や訴えかけでしょうから、否定をする訳では当然ありませんし、うまく生き残って欲しいと心から思っています。
政府に対して思うこと
インタビューは「国の対策に思うことはありますか?」で締めくくられます。
この質問に対し、「Go Toトラベル」や「文化芸術活動の継続支援事業」、「ARTS for the future!」といったこれまでの支援策について触れ、それらは
「「コロナ後にこういう新しいことをしたら助成しますよ」という仕組みなんです。」
「けれども、今を生きながらえないと、われわれには未来がない。今を生き抜く補償をしてくれ」
と心情を答えています。
※「ARTS for the future!」については以下の記事で詳しく触れていますので、そちらを参照ください。
上記記事で参照した質疑の元記事のライターさんは、政府の文化芸術活動支援のスタンスについて、
絶望的な事実ではあるが「日本の文化芸術の灯を消してはいけない」という政府の答弁は真っ赤な嘘と判断せざるを得ない。
実際は、フリーランスなどの個人や中小の団体が利用しにくい支援制度をあえて設計し、美辞麗句を棒読みし、予算金額だけは潤沢に計上している。
と綴り、私もこの意見には同意しましたし、予算組みや支援策がただただ"ポーズ"である事を再認識しました。
ライブハウス経営者である加藤社長ともなれば、このライターさんや私など以上にこのスタンスを目の当たりにし、死活問題として直面していることは間違いがないので、インタビューの回答こそ冷静に映りますが、歯を噛む思いであるとお察しいたします。
これらの支援対象条件、本当にかなりクレイジーですから...。
最後に(まとめ)
ん〜、やはりコロナ関連記事となると、思うところも多くありますし、言葉足らずで誤解を招きたいくない気持ちも働くので、毎度文字数がかさんでしまいます...。(ここまで5342文字...。)
私自身、ロフト系列の店舗には昔から何度も遊びに行ったり、DJをしたり、レンタルをさせてもらったりとしているお店でしたし、日本におけるライブハウスカルチャーの草分け的存在でもありますから、このインタビューを目にしてしまった以上、スルーする訳にはいきませんでした。
あとこれはエビデンスは無いのですが、私の知る限り、コロナ禍に入ってからリストラはおろか、固定給ではなく時給が別途発生してしまうアルバイトスタッフも勤務勤務させているのは本当に素晴らしいと思いますし頭が下がります。
ライブハウスという業態は強く"人間力"に依存したものであると私は思っており、おそらくその事に非常に自覚的なのだと勝手に咀嚼して平伏しております...。
私などはライブやDJを楽しみに行くというよりも、ただただ喋ったり飲みにライブハウスに行く事も多いので、バーテンダーが変わっただけでもその店に行かなくなったりしますからね...。
という訳で、長くなりましたがお読みいただきありがとうございました。
無理に助けようとは思いも言いもしませんが、こういった立場に置かれた職種もあると認識はしていただけたら幸いです。
ではまた次の記事で◎
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