私はミュージシャンではありませんが、アーティスト周りの仕事も多く行う事があります。
その中にはマーケティングやプロモーションが含まれる事も多々あります。
私はこのマーケやプロモ・プランを考えるのが非常に好きでして、
「もし自分が今からバンドを真剣に始めるとしたら、やるであろうマーケティング/プロモーション戦略」
という妄想プランを軸に、今回はその戦略を書き進めていきたいと思います。
「何か少しでも役立ててもらえる部分があれば。」という意図で考えていきますので、アーティスト活動やその周辺の仕事をされている方にとって、参考になる部分があったら幸いです。
【目次】
話の前提と目標設定
まず活動目標を設定しないとプランの立てようがありません。(というかブレブレの行き当たりばったりになります)
妄想の割には控えめかもしれませんが、あまり大きな目標を掲げてもイメージがしにくいと思いますので、今回は以下のような目標設定をしてみます。
- 1000人キャパの会場でワンマン
- 音楽のみで生活可能な収益確保
目標設定の必要性については以下の過去記事を参照ください。
オーソドックスに4人組のバンドを始めるという妄想からスタートします。
そして、今回はこの目標到達を全ての活動の大前提として動いていきます。
また、ここではプロモーションやマーケティングに絞った妄想なので、楽曲制作や演奏力、ライブパフォーマンスについては、一定の水準を超えたものとして進めていきます。(そこまで含めて書くと書籍のようなボリュームになってしまいますので、、、。)
活動初期
楽曲の制作とレコーディング
活動の最初期は楽曲制作を最優先に考えます。
理由は追って書いていきますが、最初期はとにかく納得のいく楽曲作りに全てを注力することを考えたいと思います。
3〜5曲を仕上げる事が出来次第、その楽曲のレコーディングを行います。
楽曲のリリース
リリースを優先する理由
多くのバンドはリリースよりもライブ稼働が先になる場合がほとんどかと思いますが、今回の私のプランではライブはぐっと我慢して、リリースを先に行いたいです。
友人・知人がやたら多いとか前にもバンドやっていたという理由で、初ライブでも数十人単位で呼び込める状態にあればライブを先にするかもしれませんが、今回はそうではないという仮定で考えていきます。
リリースを先に行いたいその理由は、アーティスト活動を通して、”観客の少ない状態でのライブ”を極力排除したい為です。
口コミはあるにせよ、この初期のタイミングでライブの場に来てくれる人数は頑張っても数十人だと思います。
目指す場所は1000人なので、この時点ではその数十人を取りにいくよりも、認知度増加に注力をしたいと考えます。
ライブ出演をしてその集客に時間を使うのであれば、オンライン上で楽曲の訴求に時間を割きたいという理屈です。
楽曲のリリース方法
リリースについては、チューンコア経由での音楽配信のみで構いません。
CDなどのパッケージソフトはむしろ無くて良いくらいに考えています。
その代わりにSNS広告やアートワーク(ジャケット画像や告知画像の)に予算を割り当てます。
これは、人に存在を認知してもらう事と、その際にポジティブな印象を持ってもらう事を目指す為です。
徹底的なシンパ作り
リリースの際には、音楽媒体各社へのプレスリリースはくまなく送り、親兄弟や地元の友人含め、考えうる全知り合いに配信先のURLを周知する事に時間と労力を使っていきます。
おそらく、この時点でプレスリリースを送付してもメディアは掲載をしてくれない可能性が高いかもしれません。
掲載をしてもらう努力として、アートワークには著名なデザイナーやカメラマンへの依頼や、同じく著名な人物からリリースに際するコメント集めを行います。
仮に掲載をしてもらえなくとも、以降必ずプレスリリースは作成して送付をします。
掲載はされずとも、よほど鬼のような担当者でなければ、見出しや送り先くらいは読んでくれます。
何度も送っていれば、バンド名くらいは記憶の隅に残ってくれるでしょう。
この事は、すぐには意味を成しませんが、勢いがついた際に役立ちます。
芽が出始めた時に、
「あ、このバンド知ってる。」
となるのと、全く知らないのでは心情に差が生まれる為です。
また、メディアにしても友人・知人に対しても、真剣・必死な活動である事をこのタイミングでしっかりと伝える事は、シンパ(共鳴者)作りも目的としています。
事務所もレーベルも付いていない時期に、シンパは非常に重要です。
大きな後ろ盾のない中、
「いいバンド出てきたよ。」
と口コミや売り込みをしてくれたり、そうで無くてもシンプルに、
「応援したいな。」
と思ってくれる人は一人でも多い方が良いです。
この連鎖は初期に限らず非常に重要と考えていて、常にシンパ作りやその維持は大切に活動を続けていきたい要素です。
ちなみに、大きなレーベルでも最初に業界内でのシンパ作りを重要視する事は一般的なプランです。
SNS広告に予算を割く理由
CDなどのパッケージソフトは作らずにSNS広告を打つ理由は、”認知がなければ内容がいくら良くともユーザーまで届かない”からです。
予算が許す限り、”知ってもらう事に全額BET”をしたいのです。
初ライブとその後のライブ稼働
初ライブのタイミングとその際の目標
初ライブについては、リリースとそのプロモーションを繰り返す中で、動員の見立てが立つまではぐっと我慢をしたいです。
もしどうしてもライブを我慢ができない場合は、アクティブなSNSのフォロワー数が一定数に達しているか、シンパ作りが順調にいっているのであれば、配信で行うのであれば良いとも思っています。
先に挙げた、” 観客の少ない状態でのライブの排除”がその理由です。
ライブ会場に50人動員するのは活動初期のバンドには高いハードルですが、オンライン上で100人以上にリーチする事は容易です。
特にポストコロナに突入した現在では、オンラインでの配信ライブに違和感を持つ人も少ないと思いますので、初ライブが配信ライブというのは悪くないかもしれません。
いずれにしても、ライブをするのに会場に10人しか観客がいない、ライブ配信でも視聴者が100人にも満たないという"結果"は徹底的に避けます。
この事はこのブログでも度々書いている、”人は人の集まるところに集まる”という考え方に基づきます。
したがって、初ライブは満員やソールドアウトが見えない限りは行いません。
これは複数のアーティストが出演するイベント形式でも良いですが、できればワンマンないし自主企画が望ましいと考えています。
「初ライブでソールドアウトは現実的ではないでしょう。」
と思われるかもしれませんが、これは極端に言えばキャパは30人でも良いのです。
座席指定にしてキャパを縮小しても良いですし、通常ライブ会場ではない場所を使うのも良いと思います。
「初ライブが売り切れた」
という事実がまずはとにかく欲しいのです。
初ライブ以降のライブ稼働
無事、初ライブがソールドアウトになったと仮定して進めます。
以降も継続して、ソールドアウトや満員という状況には強くこだわります。
30人や50人であっても初ライブをソールドアウトできたのであれば、最低でもその人数の動員ポテンシャルはあるという事を意味します。
イベント出演のオファーもパラパラと来るかもしれませんが、出演可否の決断には見込み動員数を判断の基準として考えます。
また、出演をする場合でも、初ライブ同様に”自分たちでの集客努力”は必ず行います。
その理由は簡単で、観客の少ない状況の排除をするのであれば、お呼ばれのイベントであっても自分で集客をすれば観客の少ない状況は避ける事ができるからです。
加えて、毎回集客をしっかりと行えていれば、そのイベントに誘った主催者や会場、共演したアーティストなどから、さらに良い内容のイベント出演オファーに繋がります。
動員増と固定化のための行列プロモーション戦略
もちろん、そうそうトントン拍子に動員数が激増する事はありません。
お呼ばれしたイベントでも、リリース企画などの自主企画でも、基本的にはリピーターを中心に動員を確保することになると思います。
そのために最初に行なった、真剣・必死さの周知が必要です。
友人・知人であれば、必死に取り組んでいる人からのお誘いを無下にはしません。
純粋なお客さんとは言えないかもしれませんが、強烈なシンパになってくれるかもしれませんし、付き合いで来ただけだとしても動員には違いありません。
純粋なお客さんに対しても、来場リピートを願うのであれば、リピートしたいと思える動機を作る事が求められます。
毎回個性の異なる会場を選ぶ事でも、新曲を用意することでも、新しいグッズ販売でも、方法はいくらでもあると思うので、前回のライブとの違いを用意し、それを事前にアナウンスする事で、リピーターを作り”ファン”になってもらえる工夫を行いたいです。
そして、これも別の記事で書いていますが、私の考える最も強い集客方法は”行列プロモーション”です。
”行列が出来ている”というのは本来はプロモーションではなく”結果”です。
ですが同時に、
「行列という結果を残しているのであれば、その商品やサービスはきっと素晴らしいであろう。」
と人は思い、新しいお客さんを生み出すプロモーションになります。
初ライブで30人キャパでも良いからソールドアウトにしたいと考える理由です。
ライブチケットが毎回ソールドアウトしていない場合、行こうと思っている人でも購入を後回しにしがちです。
ですが、ソールドアウトするライブチケットは、早めに確保しないと直前に行きたいと思っても行く事が出来ないので購入を急ぎます。
チケットの入手が困難な多くのアーティストはこの連鎖をうまく作っています。
ソールドアウトや満員という好結果をプロモーションとして連鎖させ、動員を拡大するわけですから、これほど強いものはありません。
会場での振る舞いのルール決め
ルール決めと言えるほど厳格なものではありませんが、数点だけ基本的な事をルール化してバンドとして共有したいと思っています。
これは過去に書いた以下のアイドル物販についての記事でも触れた事からの着想になります。
主催者もイベンターも会場も共演者も全て当たり前ですが人間です。
ライブ興行というビジネスではありますが、小規模な段階では特に、心情や思い入れなども含めた付き合いになる場合が多いです。
上の記事でも触れているように、アイドルに顕著だったのですが、彼女達の礼儀やマナーには目を見張るものがあります。
会場入りや退館時には、全員揃ってのしっかりとした挨拶は当たり前ですし、楽屋の片付けや応対も素晴らしいです。
もちろんアイドルの場合は、インディーの段階でもオトナがついている事がほとんどなので、教育としてそうされているでしょうが、それらの振る舞いに悪い印象を持つ人はいないと思います。
私自身、イベンター会社にいる時の実体験としても、興味のあったアーティストであっても振る舞いが極端に悪いと「ガッガリした」と思う事はありましたし、逆に「めちゃ良い人でファンになった」という事はたくさんありました。
「アーティストなんだから好きなように振る舞うのもカッコイイしイイじゃん。」
という意見もあるでしょうし、私もそう思うところはありますが、今回は目標到達を最優先した活動を行います。
嫌われて損をする事はあっても、好かれて損する事はありません。
そこで、以下の4つの簡単なルール決めくらいは行いたいところと考えています。
- 会場入り・退館時の挨拶だけは行う
- オファーに対する出演可否、出演時のやりとりは無視しない
- 楽屋は簡単な片付けを行う、もしくは散らかさない
- 出演時の必要資料は漏れなく送る
人によっては当たり前のように感じるかもしれませんし、人によっては「そこまで媚びなくても」と思うかもしれません。
良い悪いは置いておいて、これらを全て意識的に行なっているアーティストは多くはない事は事実です。
多くはないという事は差別化になります。
そして、これらをやってもらう方が有難い、嬉しいと感じる主催者やイベンター、会場が多いのも事実です。
好印象を持てば応援や優遇をしたくなるのが人間です。
出演をしてもらうのであれば、気持ちよくやりとりが出来たり、しっかりと必要な情報を伝えてくれたり、迷惑をかけない方がまた誘いたいと思います。
思いがけないフェスやイベントの出演の話に繋がる事もありますし、悪評判が広まってしまえば逆にそのチャンスを潰してしまうケースすらあり得ます。
そのような理由から、基本的でシンプルではありますが、この4つのルール程度は設定しても損はないと考えています。
活動中長期
リリースサイクルの固定化
音源のリリースについては、毎月でも隔月でも四半期に一度でも、とにかくリリースのサイクルを固定化したいと考えています。
そして、そのサイクルは事前に周知を行います。
ここまでSNS広告やブランディングなどの予算や時間で集めた認知を、固定サイクルでのリリースにする事で、単発ではない継続的なものに促したい為です。
加えて、アルバムという単位でのリリースは行いません。
リリースは全て、短曲(1曲単位)のみで行います。
アルバムにしてしまうと10曲を1作品として1度のプロモーションにまとめて露出する事になりますが、10曲あるのであれば短曲に切り売りする事で、10回のプロモーション機会を作れます。
露出回数を多数作ることで、ユーザーへの接触機会を増やしたい、途切れない継続的な訴求(活動感)を出したいという事が理由になります。
ライブ集客の拡大・囲い込み
ソールドアウトを最優先事項として意識するのは変わらずになりますが、その為の手法の話となります。
ライブ告知のメインはやはりSNSになると思います。
これも当たり前の事になりますが、ライブを行う前には、必ずその告知を続けます。
そして、その告知についてもルール決めを行います。
例えば、”発表時と開催前日には必ず出演情報をポストする”のように、約束事を作るだけです。
加えて、その投稿内容にも約束事を作ります。
こちらも”この形の見出しを付ける”や”日程・会場・購入先URLをこの順番で入れる”のような簡単なもので構いません。
SNSのタイムラインを一つ一つじっくり読んで見ている人はほとんどいないと思います。
タイミングや記載内容をルール化する事で、素早く流れるタイムラインのなかで、その情報を視認しやすくする事が大きな理由です。
加えて、”しっかりと管理されたアカウント(活動)”と印象付けることもそれに並ぶ理由になります。
小規模な段階のアーティストをわざわざ好んで応援してくれる人の多くには、「大きくなっていく姿を見せて欲しい」という気持ちが存在します。
であるとすれば、”大きくなっていきそうな気配”を出し続ける事は非常に有効だと思っています。
ソールドアウトを意識する事も、継続的に情報を訴求する事もそれに含まれてきますし、SNS一つとっても、多くの人の目につきやすいツールであるからこそ、”きちんと管理する事”の意味を甘く見る事は出来ません。
囲い込みという意味では、”限定”や”先行”といった形でコアファンの優位性を作る事も行いたいです。
昔からあるようなファンクラブももちろん選択肢の一つには入りますが、敷居がやや高い印象はあります。
LINEのビジネスアカウントなど、登録型の一方向型の情報提供ツールを用いて、限定イベントやチケットの先行販売を行う方が敷居も低く現時代的かもしれません。
時間的な余裕や、ブランディングを崩さないようであれば、メルマガ的な形式で質問やリクエストを受け付けてそれに答えたり、オンラインサロンのような形式で双方向のやりとりをしてコミュニティの固定化や収益化を計るのも悪くはないと思います。
ファンの間に優位や特権を作る事で、それに続こうと考える新たなコアファンを獲得するという考え方に基づきます。
グッズなどの物販
物販についてもリリースサイクルを固定化したいと思います。
加えて、ライブチケット同様に、ソールドアウトを意識します。
制作するロットが少なければ少ないほど、原価は上がってしまいますが、そのデメリットがあったとしても、長期間残って販売されるようなグッズになるのであれば、無い方が良いと考えています。
この考え方としては、アパレルブランドやショップの考え方に基づきます。
一般的に、アーティスト・グッズはファッションアイテムとしては作られていません。
どちらかと言えばスーベニア(お土産)に近い発想で作られる事が多いように思えます。
好きなアーティストのライブに行った時に、
「お土産的にでも何か買いたいけど、ダサすぎて欲しいものが全く無い。。。」
という経験をした人は少なく無いと思います。
かつては私もOASISのライブにいくたびにそう思ってしまい、大好きなのにグッズを買った事が一度もありません、、、涙
デザインは売れる売れないに直結する要素ですし、アーティストイメージにも直結します。
仮にそこまでこだわったグッズでなくとも売れる状態にあったとしても、グッズには(というか全ての創作物には)こだわる必要性を感じています。
同じように売れたとしても、家やライブ会場のみで着用されるより、普段使ってもらえる方が率直に嬉しいですし、多くの人の目にも触れます。
E.YAZAWAのレベルまでスーベニア価値を高められれば、そういったアイテムは1点あるのも有効だと思いますが、かなりブランディングが進んだ状態にならないと難しいと思います。
であれば、逆に限定性を高める方を私は選びます。
1点あたりの在庫数を極端に減らしてでも、早期にソールドアウトするデザインとロットでグッズを考えたいです。
例えばアパレルブランドのように、春夏/秋冬で年2回新作リリース・タイミングを決めてシーズンで売り切るのも一案です。
作るグッズやそのデザイン、売り方については、バンドのグッズという考え方ではなく、”アパレルブランドを作る”という考え方で取り組みたいところです。
グッズにはブランディングや収益が求められますが、ある程度のスパンで考えると、”売れ残る商品”は”商品価値を崩す事”になるため作るべきでは無いというアパレル的着想になります。
まとめ
また書き始めの想定よりも長くなってしまった事もあり、妄想バンド活動なので、話の着地点を見失いました、、、苦笑
「最初に掲げた目標に無事到達しました!」
で終わらせるべき話の流れでしたが、基本ここまで書いたことの繰り返しになると考えているので、割愛とさせてください。
音源でもライブでもSNS上でも、今の時代は人さえ集められれば、収益化の手段は山ほどあります。
これも過去記事で書いていますが、”収益的な大成功”は生まれにくい構造になってきていますが、反面”ある程度の収入”は 作りやすくなってきていると思っています。
この記事での話でいうと、グッズは小ロットベースなので収益がその分ミニマム化しますが、そこで作り出せた枯渇や評価をスライドして、別の活動で集金すれば良いですし、そのほうが今の時代にはフィットするように感じています。
ここで妄想した話をまとめるとすれば、
徹底的なブランディングによる強固なコミュニティ形成と、多面的な収益化。
と言えるかもしれません。
ただし、間違い無く言える大前提は戦略以前に、”創り出す音楽”です。
ここで書いたような事は何も考えずともトントン拍子に上手くいくこともあります。
その目標や音楽性が求められる範囲により戦略も変わってくるので、とある一つの例という事で、もし活かせる部分があれば是非役立ててくれたら嬉しいです。
ではまた◎