TINY MUSIC LIFE

音楽を仕事にする方法やビジネス論、考察や小ネタなどをお届けする音楽情報ワンパーソンメディア。by TINY RECORDS八木橋一寛

まだまだ取り切ってはいない、音楽ライブイベントのパイと潜在顧客

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ロナ禍で厳しい状況の続く、音楽ライブイベント。

 

ですが、コロナショック前まで、音楽ビジネスの中では成長ビジネスとして語られていました。

 

多くの根拠や可能性に支えられた”成長”だと考えられますが、ひとつには非常にシンプルな大前提が挙げられます。

 

パイや潜在顧客を取り切っていない。

 

という事です。

 

マーケットのポテンシャルで言えば、まだまだ音楽ライブイベントは成長曲線を描く事が可能だと思っています。

 

今回はそんなお話を書いていきたいと思います。

 

 

現状の顧客

メイン顧客はライブが好きな人

極めて当たり前な表現をすると、

現在の音楽ライブイベントの顧客は、”ライブに行くのが好きな人”です。

 

そりゃあそうですよね。

好きでなければお金と時間と労力を使って、わざわざライブ会場まではなかなか行こうと思いません。

 

では、”音楽を好んで聴く人”と””ライブイベントに来ている人”の母数はイコールでしょうか?

 

こう考えるとイコールにはならないでしょう。

 

移動中などに、音楽配信サブスクリプションなどを使って音楽を聴いている人は非常に多くいますし、カラオケなどで歌う事が好きな人も多く存在します。

例えば私の父親だって、70歳を超えていますが、家でたまに音楽を流したり口ずさんでいることもあります。

 

ですが、音楽ライブに足を運んでいるかと言えば、そうではありません。

 

音楽ライブの種類

音楽ライブイベントの形式を大別すると、

  • 単独公演
  • イベント
  • フェスティバル

の3つに分けれると思います。

 

単独公演

単独公演は、ワンマン公演やツアーなど、1アーティスト単体が出演しそのファンを集客をする形式です。(オープニングアクトなどはいる場合もありますが)

 

1アーティストのみで公演を行う為、演奏時間も長く、演出や装飾などもアーティストの世界観を表現しやすいです。物販のバリエーションも期待できます。

 

過去も現在も、この単独公演が公演数や収益面でも音楽コンサートビジネスの多くのウエイトを占めています。

 

また、1アーティスト単体で行う為、そのアーティストの事が好きな顧客取り込みの最大化という意味では、もっとも潜在顧客を取れている形式だとも言えると思います。

 

普段なかなかライブコンサートに足を運ばない人にも、いくつかの好きなアーティストは存在します。

そういった人がライブに足を運ぶとすれば、当然そのいくつかの好きなアーティストのライブを選ぶでしょう。

 

ジャニーズや女性アイドルなどはこういった動機に支えられている面が強いでしょうし、一定の知名度を得たアーティストが田舎のホールや会館を回る公演などは最たるものと言えると思います。

 

プレイガイドでチケットを買い、電車で会場まで行くのはライトユーザーにはハードルが高いですが、

「地域のお店でチケット店頭販売もしていて、地元にまで来てくれるのなら観てみたい。」

と思うでしょう。

 

この場合、いくつかの好きなアーティストにすら入っていなくても、”有名”や”知っている”でも来場動機になり得ます。

余談ですが、私が記憶する中で最初に行った音楽コンサートは、「地元に郷ひろみが来る!」とテンションの上がった母に連れて行かれたものでした。

 

潜在顧客の獲得という意味では、この地方巡りの営業コンサートはわかりやすい例として考えやすいと思います。

 

イベント

アーティストが主体となって交流のあるアーティストを複数呼ぶ場合もありますし、企業が主催となってイメージに合ったアーティストを集めたものもあります。

 

一度に複数のライブが観れる反面、1組あたりの演奏時間は減る場合が多いので、特定の観たいアーティストが定まっている場合は単独公演よりも優先度は下がってしまいます。

逆に、出演者中に複数すでに好きなアーティストがいれば、一度に観れるのは大きな魅力になります。

 

基本的には、アーティスト間でのファンのシェアになるので、アーティスト目線ではファンの拡大になり得ますが、コンサート顧客の掘り起こしに寄与する部分は少ないと言えるでしょう。

 

フェスティバル

フジロックやサマーソニック、ロックインジャパンのような複数ステージで同時多発にライブが行われる音楽フェスティバルは昨今の成長業態と言えます。

 

フェスについては過去に以下のような記事も書いていますので併せて参照ください。

上の記事では視点を業界目線にしていますが、リスナーの目線としても音楽フェスには強い魅力があります。

 

同時多発的にライブが進行する為、基本的には全てのライブを観ることはできません。

近年では「全ライブ観る事も可能!」という打ち出しをするフェスもありますが、フェス隆盛の一因には”全部は観れないという新しい価値観”があったと考えています。

 

音楽フェスは長尺であったり、野外であったりと、来場者には体力的な負担がかかります。

開催中に食事も休憩も必要になってきます。

 

”全部のライブが観れる可能性”を持たせてしまうと、全部観ないと損をしたような気持ちが起きます。

食事や休憩もおろそかになるかもしれません。

 

明らかに全てのライブは観れない状況を作ることで、フードエリアやアトラクションといった音楽とは直接関係の無いコンテンツに価値を作れた事は、フェスが長期的に支持される為には必須の要素であったと思います。

 

そして、この音楽ライブ以外のコンテンツに魅力を持たせる事は、潜在顧客の掘り起こしにもなっています。

 

例えば、フジロックはキャンプエリアを設ける事でキャンプやアウトドア好きも取り込めていると思いますし、横浜赤レンガ倉庫で開催されるグリーンルームフェスは場外にアパレルショップやタッチ&トライ・コンテンツを集める事で、多くのカップルやファミリー層を獲得しています。

無数の潜在顧客とその獲得

音楽ファンには上限がある

ここまでで既に、地方営業コンサートや音楽フェスには潜在顧客の掘り起こしの要素がある事は書きました。

 

”ライブに行くのが好きな人”には天井があります。

 

もちろん、その数を増やす事は可能ですが、ある日突然そうなる事はありませんので、どのような形でも一度ライブを楽しんでもらわなければ増やしようは無いでしょう。

 

そもそも他に強い趣味を持っていたり、仕事や家庭の事情で頻繁に音楽ライブにお金や時間を使えないという人もいるはずです。

 

「ライブに行くのが生きがい!」

とか

「週に一回はライブに行かないと我慢できない!」

という人を増やすのは簡単な事ではありません。

 

音楽ファン以外の掘り起こし

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となれば、年に何度もライブコンサートに行く層を増やす事より、全く行かない層に年に1度や2度来場してもらう事を考える方が建設的です。

 

先ほど例に挙げたフジロックやグリーンルームは

「年に一度のこれだけは行きたい。」

というライト層をしっかりと囲い込めています。

 

また別の機会に細かく書きたいと思っていますが、音楽コンサートに限らず、音楽業界の一つのマイナス点に

「詳しく無いと入りづらい。」

という側面があると私は感じています。

 

この事は強い顧客を囲い込むことには大きく寄与していますが、反面、壁を作ってしまっています。

 

フジロックやグリーンルームの例のように、ライブそのもの以外に”来場動機”を作ることで、

「詳しくなくても行きやすい。」

という開放感を設計するのは、潜在顧客の掘り起こしに非常に有効な手段だと思います。

 

EDMがシーンを拡大した(日本では特に)最大の理由は、”詳しい必要がない”事であったとさえ私は考えています。

 

”ライブに行くのが好きな人”だけでなく、”音楽は聴くけどライブにはあまり行かない”層、さらには”そもそも音楽にあまり興味が無い”層までもコンサート顧客に転嫁できるのですから、極端に言えば、国民すべてをターゲットにできるとさえ言って良いでしょう。

 

最後に 

ここまで書いてきたのはあくまでも”ライブイベントのパイや潜在顧客はまだ取り切っていない”という主題によるものです。

 

ですので、そもそも既存のパイでも十分、それぞれがビジネスとして成立しているというのであれば、既存客の固定化に注力しても良いでしょう。

 

コロナ禍でライブ配信の一般化がさらに進めば、

「ライブに興味はあったけど、わざわざ足を運んでまでは。」

と感じていた層を、劇的に取り込める可能性もあります。

 

ジャニーズや韓流系などの音楽そのもの以上に、ビジュアルに価値の高いアーティストは、さらにその可能性が高まるでしょう。

 

そのような意味でも音楽ライブコンサートのパイは、今後さらに拡がる可能性も高いのではないかという予測も込めて、今回はおしまいにしたいと思います。(拡がる反面、消費控えで薄まる可能性も同時にありますが、、、)

 

ではまた◎


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