TINY MUSIC LIFE

音楽を仕事にする方法やビジネス論、考察や小ネタなどをお届けする音楽情報ワンパーソンメディア。by TINY RECORDS八木橋一寛

レコードマニアの狩場、レコファン渋谷BEAM店が閉店

レコファン渋谷BEAM店 閉店アナウンス内容

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昨日6月13日にレコファン渋谷BEAM店の閉店と、閉店セール実施のアナウンスがありました。

営業最終日やセールの日程などの詳細については追ってアナウンスがあるようで、このアナウンスは”閉店のお知らせ”という形となっています。

 

コロナショックが関係しているかどうかは特に書かれていませんが、影響が無い事は無いでしょうね。。。

 

この大事なアナウンスを、手作り感満載のA4紙をさらに撮影した写真をチョイスしているあたり、レコファンぽくてグッときます。。。

 

 

”掘る”快感を与えてくれたレコードショップ

レコファンのイメージ

アナウンスにもありますが”26年間”という長い間、営業を続けている貴重なレコード店です。

 

記憶を辿ってみるとおそらく自分は22年前くらいから渋谷BEAM店には足を運んでいると思います。

 

当時は”渋谷は世界一レコード店が多い街”と認定されるくらい、非常に多くのレコード屋がありました。

 

その中でもレコファンには少々特殊な印象を持っていました。

 

新譜も中古も扱っていますが、私を含め多くの人がイメージするのは”中古盤屋”としてのレコファンだと思います。

もっと言えば中古レコードのイメージです。

 

私も20年くらい前に勤めていましたが、関東だとディスクユニオン、大阪だとキングコングが中古レコード屋としては代表的な店舗かと思います。

 

中古盤、特にアナログレコードは希少性の高い、いわゆる”レア盤”が多数存在します。

 

当然、中古市場ではその希少性と需要に応じた価格設定がされます。

 

ディスクユニオンでもキングコングでも、もっと小規模なお店であれば更に、専門知識のあるスタッフが査定(値付け)を行い、極力適正価格での買取りや販売を目指します。

 

レコファンの場合、もちろんそういった専門スタッフはいるでしょうし、レア盤の高額販売もあるのですが、かなりその査定は荒いと言えます。

 

「これがこんなに安く買えるのとはラッキー!」

ということも多々起こりますし、逆に、

「これは2000円じゃ高くて売れないだろ、、、」

という事も多いです。

 

また、BEAM店の場合は特に、100円販売のレコードもアナログファンにはお馴染みで、この100円レコード狙いの人も多かったと思います。

 

掘り出し物が集客力に

この値付けの荒さって当然、レコファン側もそういった事が起こっている事は認識しているはずです。

 

私もレコード店員歴が10年近くあるので良くわかりますが、一定のプロ意識を持ってレコード店経営や店員をしていれば、相場を見誤った値付けをしてしまう事は、とても恥ずかしいですしプライドが許さないところがあると思います。

 

お客さんから

「この店、分かってねぇなー。」

と馬鹿にされてしまうかもしれませんしね。

適正価格での販売にウエイトを置かない理由

ではなぜ、レコファンは他店のように需要に合わせた値付けを積極的に行わなかったのでしょう。

 

理由は4つ考えられます。

  • 査定・値付け時間(コスト)の短縮(削減)
  • 仕入れコスト(リスク)の削減
  • 意識的なお宝埋蔵
  • リサイクル店的経営設計
査定・値付け時間(コスト)の短縮(削減)

まず1つめについて。

 

希少性や需要に合わせた査定や値付けを行うには、各ジャンルに精通したスタッフを雇用する必要があります。

 

ジャンルに特化した店舗であれば1名いれば十分ですが、レコファンはオールジャンル扱う店舗です。

 

この人件費コストと、相場より安く販売してしまう売上ロスを天秤にかけ、人件費コストの方が大きいと判断した可能性はあるかもしれません。

 

現在であれば、専門知識がなくともインターネットである程度調べる事はできますが、レコファン出店の時点では全くインターネットはなく、値付けができる人材というのは希少であることも補足しておきます。

 

加えて、適切な値付けを行おうとすれば、それだけ時間がかかります。

スタッフを雇用している以上、時間=金銭コストです。

 

そのコストを削減するため、買取→値付け→店頭出し の効率化として適正価格での販売を犠牲にした事も考えられます。

 

先に書いた、「これは2000円じゃ高くて売れないだろ、、、」が発生する理由にもなりますが、おそらく、”この年代のイギリスのものであればいくら”、”このレーベルは全部いくら”のようなかなりアバウトな査定のガイドラインに沿って値付けしているのではないかと予想しています。

 

仕入れコスト(リスク)の削減

いわゆるレア盤を仕入れる場合、買い付けにしても買取りにしても、売り手側がそのレコードの価値を知っている場合が多いです。

 

例えば、一般的に1万円で販売されている事を知っている人は、100円では買い取らせてはくれません。

 

では売り手が納得をするように1万円での店頭販売を見越して、5000円で仕入れたとします。

 

目論見通り、1万円で販売ができれば5000円の利益が出ますが、レコードの価値は生モノです。

再発盤が出て価格が急落する事もありますし、確実に1万円で販売できる保証がありません。

 

そう考えると、5000円の仕入れ原価はハイリスク・ハイリターンではあるので、この形の仕入れは無理して行わない舵取りをした事も想像ができます。

 

意識的なお宝埋蔵

とはいえ、レコファンに全く高額レコードが売っていないという訳ではありません。

店頭買取りでもレア盤だという事を考慮した買取価格が提示される事もあります。

 

それとは別に、海外買い付けであったり、店頭買取りにしても、格安で仕入れが行えるケースはあります。

 

買取る時は特に気がつかず100円で買い取ってしまったけど、別のスタッフが見たら「これレア盤だよ。」という事は多々あると思います。

 

そういった場合、適切な価格まで引き上げて販売する事もあるでしょうし、「でも100円で買い取ってしまったから。」と安く店頭に出す事もあると思います。

 

もっと言えば、作業時間の効率化のため、仕入れ価格の安いレコードは「この箱の全部1000円で店頭に出しておいて」のように値付けしている可能性も高いと思います。

 

本来1万円でも売れたレコードが混ざっていたら、お店としては粗利をロスしていると考えられますが、「安く買えた!」と喜んでリピーターになってくれるお客さんがいれば、そのリピーターの囲い込みの方に価値を感じ、あえてそのスタイルを変えていないとしても不思議ではありません。

 

リサイクル店的経営設計

ここまでの3つはある程度のビジネス視点で計算の上の仮説でしたが、これはもうちょっと”そもそもの話”になります。

 

レコファンは1981年創業のレコード店です。

時代的には、配信やサブスクどころかCDの登場よりも前です。

 

今でこそレコファンは渋谷をはじめ、若者の多い都市部にも店舗を多く構えていたイメージではありますが、そもそものスタートは例えば神保町のレコード社(ご存知ない方はググってみて下さい)のような、街のレコード店が多店舗化した系譜に入ると思います。

 

高額でレコードを買い集めるマニアをターゲットに起業したのではなく、シンプルに不要になったレコードを買い取って販売するというリサイクルショップに近い経営スタイルを今でも続けているという考え方です。

(公式サイトを見たら、ネット黎明期のようなサイトデザインで微笑ましいです◎)

 

”家にあるいらないもの=不用品”を引き取る訳ですから、買取り金額は安くても不満は出ません。

安く買い取ったのですから、販売価格を最大化しなくとも、利益はしっかりと確保できます。

 

単にこれを続けている中で、我々が「掘り出し物多くてヤバイ!」と感じただけかもしれません。

 

自分で値段を決めるという楽しさ

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ここまで書いたような理由により(全部大ハズレかもしれませんが。苦笑)、他の多くのレコード店の相場とは違う値付けが特徴的なレコファン。

 

この事は、単に”お宝を掘り出す”という楽しさと、もう一つの楽しさがあります。

 

”自分でその価値を決める”という事です。 

 

希少性や需要に応じた価格設定は、消費者目線で言えば”提示された価値”です。

当然、新品のCDやレコードはさらに固定された金額が提示されています。

 

「5000円でしか売っていないから5000円で買う。」

のではなく、

「5000円が相場だろうと、自分はこのレコードには2000円の価値しか感じない」

と思えば、 それが自分にとってそのレコードの価値です。

逆に、探せばもっと安く売っていることを知っていても、その値段でも欲しいと思えばそれが自分にとっての価値なので、その値段で買えば良いです。

 

CDやレコードに限らず、中古やヴィンテージのような市場には共通して言えると思いますが、新品定価で売られているものは、”レコードはだいたいいくらくらい”、”ジーパンならだいたいこのくらい”という価格が見えていますが、中古はその価格がバラバラです。

 

多くの中古レコード店は、相場を意識した価格設定がされているので、どこか”買わされている”感を禁じ得ないところがあるのですが、レコファンは相場をある種無視したところがある為、”試されている感”があります。笑

 

例えるなら、セレクトショップで服買うのちょっと面白くない感覚に近いと言いますか。

 

その点、レコファンは全然セレクトはしてくれていないので、他のレコード店なら買取拒否されたり捨ててしまうような、全くなんだか分からないレコードが出てくる時も多いので、「この棚だけチェックしておけばまあ大丈夫かな。」という油断は許されません。笑

 

この放任主義なレコファン流スパルタ教育に育てられたレコードマニアは少なくないように思っています。笑

  

最後に

今日こそ、サクッとした短い記事を。と思って書き始めたのに、やっぱり長くなってしまいました、、、。

 

他にも、輸入盤新品のCDやレコードの価格がやけに他店よりも安いとか、渋谷BEAM店に行ったら同ビルのJRAの展示施設みたいなところ(今はもう無いですが)で「あのレコード買おうかどうしようかなー。」とタバコ吸いながら悩んだりとか、地元の親友が吉祥寺店でバイトしてたなーとか色々ありますが、今回はこの辺で。

 

渋谷BEAM店は閉店しますが、レコファンが無くなる訳ではないようなので、そこは安心しました。

 

それでもあれだけワンフロアで大きな店舗はなかなか無いので、非常に残念ではありますが。。。 

 

ではまた◎


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