野外音楽フェスティバル。
私が意識的に音楽に興味を持ったのは、1993年か1994年あたりでした。
それから自分がリアルタイムで体験した20数年間だけでも、音楽業界では様々な変化がありました。
その中でも、最大のイノベーションは野外音楽フェスだったと思っています。
今回は、日本において"野外フェス"がもたらしたそのインパクトや影響、その何が現在まで続くフェスバブルの要因なのかを考察していきます。
音楽業界最大のイノベーション
フジロックが与えたインパクト
海外では60年代から野外ロックフェスは存在していましたが、それは"あくまでも海外での出来事"というのが、私も含め、多くの音楽ファンの認識でした。
洋楽ファンにとっては、ウッドストックやグラストンベリー、レディングなどの海外のロックフェスは、「一生に一度くらいは行ってみたいなぁ。」と無想してしまうような憧れであったと思います。(今でも憧れはありますが)
野外でライブを観るという事だけに関して言えば、野音や小規模な野外イベントは無くはなかったですが、我々の憧れを満たすソレではありませんでした。
長い間、そんな"日本には関係がない事"だと思っていた野外ロックフェスでしたが、1997年に転換期が訪れます。
富士天神山スキー場を開催地に、FUJI ROCK FESTIVAL(※以降フジロック)の第一回目の開催が行われました。
開催そのものはとても大きなインパクトはあったものの、初日に台風に見舞われ、その影響で2日目は中止となり、苦い開催となってしまいます。
"日本でもロックフェスができる"という意味ではこの開催こそがイノベーションでした。
ただ、オーディエンス目線で見れば音楽フェスの定着やイノベーションとまでは言い切れない結果ではあったと思います。
1998年のフジロック2回目の開催。
豊洲のベイサイドスクエアに場所を移し、初回に比べると成功と言える結果ではあったと考えられますが、ステージ数は2ステージという点含め不足要素は多く、やはりまだイノベーションと呼べる結果ではありませんでした。
そして、1999年の3回目の開催が大きな転換期となります。
苗場スキー場に開催地を移して行われたこの3回目はオーディエンス目線からも正に"イノベーション"でした。
山の中の大きな敷地に多数のステージが設置され、そのステージでは同時に多くのライブが行われ進行していく、私達のイメージする"フェス"のパブリックイメージはこの開催で誕生したと考えられます。
それまで、音楽ライブはホールやライブハウスで観るものだという固定観念から解放され、多くのアーティストがひとつの野外の大きな会場の中で同時多発的にライブを行う"野外フェス"は、正しく"夢のような世界"だというインパクトを多くの人に与えました。
はじめましての自己紹介(音楽業界に入ってから転職を重ねて今日に至るまで)でも書きましたが、私自身、この99年のフジロックで受けた衝撃と感動が、現在まで音楽に関わる仕事を続けるきっかけと原動力になっています。
私個人が受けた衝撃だけで言えば、音楽に限らず、インターネットやスマホなどあらゆるイノベーションの中でも、最も衝撃的な体験でした。
「ちょっと大袈裟じゃない?」と思われるかもしれませんが、本当にそのくらいのインパクトを受けたのです。
おそらく同世代の方は、私と同じような感想を持っているのではないでしょうか?
多くのフェスの台頭
苗場でのフジロックで一躍、"ロックフェスの素晴らしさ"を我々音楽ファンの誰もが知る事となりました。
そして、1999年にはRISING SUN ROCK FESTIVAL、2000年にはSUMMER SONIC、ROCK IN JAPAN FESTIVALと次々と野外ロックフェスがスタート。
フジロックとこの後発の4つのフェスを称して、"4大フェス"と呼称されたり、いずれも夏の開催の為、"夏フェス"という言葉も一般化していきます。
4大フェス
- FUJI ROCK FESTIVAL
- RISING SUN ROCK FESTIVAL
- SUMMER SONIC
- ROCK IN JAPAN FESTIVAL
フジロック同様、初回開催はトラブルに見舞われるフェスも多くありましたが、それ以外は動員や話題性も大きく、現在までフェスバブルとも呼ばれる隆盛は続いています。
アーティストや業界の意識の変化
アーティストの新たなモチベーション
オーディエンスに対して大きな体験の改革をもたらした事だけではなく、アーティストや音楽業界にとっても、"以降の在り方"に多大な影響を与えました。
それまで、アーティストの目標や夢といえば、"武道館やドームでのワンマン"であったり、"ミリオンセラー"などが相場でしたが、"フェスへの出演やそのヘッドライナー"という指針も増えました。
海外アーティストをルーツに持つ日本のアーティストであれば、滅多にない共演をできる機会としての魅力も大きいです。
また、野外のステージというのはアーティストから見ても特殊で気持ちの良い環境です。
特定のフェスへの憧れや思い入れがなくとも、魅力的なライブ環境という側面も持っています。
アーティストがライブをする場の選択肢として、フェスがもたらした影響は少なくないでしょう。
単に出演をするだけでなく、アーティスト自身がフェスを主催するようなケースも今では多く見られます。
音楽業界の意識の変化
音楽業界にとっても、私のように"音楽フェス原体験"が動機となり、この業界で働く事を志したり、努力のモチベーションとなっている関係者は非常に多いと思います。
アーティストだけでなく、レコード会社やマネジメントについても、フェスはプロモーション上でも大きな存在となっていきます。
多くのアーティストのプロモーションや活動プランには、フェス出演がその計画に組み込まれ、新規ファンの獲得や、業界内での売り込みのパワーワードとしても「どのフェスに出演経験があるか?」という事のウエイトは高まります。
ビジネス視点で見ても、通常アーティストを露出する為には、多くの宣伝広告費が必要でした。
ですが、フェスの場合、ライブ出演をする事で多くの音楽ファンに露出が可能な上、基本的には費用は発生しません。
むしろその多くは出演料を主催からもらい、プロモーションも兼ねる事さえ可能です。
この点もフェス隆盛の理由の一端を担っているとも考えることができます。
そして、多くの影響を与えた中でも最大の影響は、音楽ライブを楽しむという行為の改革にあるでしょう。
極端に言えば、それまで音楽ライブ/コンサートは、"ライブだけがコンテンツ"でした。
フェスが大きく変えたのは、"フェスそのものがコンテンツ"という点です。
場内には、フードエリアや自然を楽しめるロケーション、華やかな装飾やオブジェ、多数のアトラクションがそのフェスの個性を作り上げます。
"ライブを楽しむ"という事は前提としてあるにせよ、"そのフェスに参戦する事自体が目的"というオーディエンスを獲得したのです。
これにより、ある種の敷居の高さのあった"ライブ参戦"でしたが、開放感と間口の拡大が加わり、オーディエンスの裾野を広げる結果にもなりました。
ライブというと一昔前までは、"ライブハウスの地下のヤニ臭い閉鎖的な空間であったり、ドームやホールのような座席に制限された場所で観るもの"といったネガティブなパブリックイメージでした。
それを払拭し、音楽ライブ観戦を解放的でクリーンなイメージに刷新したフェスの功績はことの外大きいと私は考えています。
また、これは主観的な肌感になりますが、日本におけるフェス黎明期を若い頃に体験した世代がキャリアを重ね、組織内では管理職につき始めていたり、独立をしたりも多く目にするようになり、感覚の更新も強く感じ始めています。
物心をついた時からインターネットやスマホがある世代を"デジタルネイティブ"と呼んだりもしますが、そういったニュアンスを借りれば、"フェスネイティブ"と呼べる世代が現在の音楽業界を動かしはじめているような実感があります。
まとめ
アーティストから見ても、オーディエンスから見ても、関係者から見ても、魅力やメリットがどこにあるのかというのはおおよそ書く事ができました。
今ではそれこそ数え切れないほどの音楽フェスが存在します。
そのそれぞれにフェスのカラーがあり、我々を楽しませてくれています。
4大フェスに関しても、年月を重ねる毎に、そのカラーがよりくっきりとして住み分けが進んでいる印象も持っています。
それぞれの特徴や愛される要因についても、今度また書いてみたいと思います。
音楽フェスって本当に素晴らしいですねぇ。
では、また◎