TINY MUSIC LIFE

音楽を仕事にする方法やビジネス論、考察や小ネタなどをお届けする音楽情報ワンパーソンメディア。by TINY RECORDS八木橋一寛

「米津玄師が2020年の年間チャートで22冠を達成」から見る今後の音楽マーケット

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久しぶりに"やりにいってる"感の強いサムネイルの筆者...

津玄師が2020年の各種年間チャートを総なめし、計22冠を達成したというニュースが少し前に話題となりました。

 

 「米津玄師がシーンを席巻!!」

そんな見出しも踊る音楽業界における年末のトピックでした。

 

長らくジャニーズやAKBグループなど、アイドルがセールスチャート上位を独占していた中での非アイドルのビッグヒットは私個人としては嬉しいニュースでもありました。

(あとで書きますがアイドルが嫌いな訳ではありません。)

 

また、1アーティストがチャートを総なめにするというこの現象は、2020年に限定したものではなく、大きなマーケットで括るならば当面はこれに近い状況。つまり、少数のアーティストに人気が集中するようなマーケットが続くとも私は考えています。

 

このニュースを振り返りつつ、そんな話を書いていきたいと思います。

 

 

米津玄師、年間チャート22冠ニュースについて

まず、ニュースの内容を振り返ってみます。

 

2020年8月にリリースされた米津玄師の5thアルバム『STRAY SHEEP』やその収録楽曲による22冠という事で、日本レコード大賞の特別賞や、Billboard JAPANによる2020年年間ランキングにおいて史上初となるアルバム主要3部門制覇などを達成しています。 

 これは平成生まれの男性ソロアーティストとして最多記録となり、加えて男性ソロアーティストのオリジナルアルバムとしては16年ぶりのミリオンセールスとなるそうです。

そのセールス数は2020年10月時点で150万枚という驚異の枚数を記録しています。

 

非アイドルのNo.1セールス

まず率直に、米津玄師『STRAY SHEEP』のヒットは純粋に素晴らしい事だと感じます。

 

"エンタメ"として消費する分には、ヒットした曲を聴くことが目的のひとつにもなってくるので、誰がヒットしようと多くの消費者とってはあまり気にならないかもしれません。

広く共通言語として機能するのも音楽の魅力や強みですから、ある意味では多くの人に届いた時点でその内容に関わらず、ひとつの正義になると私は考えています。

(かつての私は商業的な音楽はどの角度から見ても死ぬほど嫌いでしたが...。汗)

 

しかし、"カルチャー"や"アート"として考えると、メッセージ性だったり芸術性の高い音楽も収益を確保し続けて欲しい気持ちがあります。

 

無論、音楽という形のない聴く人個々の主観に評価を委ねざるを得ない表現の為、一概にどのアーティストの芸術性が高く、誰が低いという判断は誰も下すことができません。

なので、多様な音楽がチャートに顔を覗かせるという状況が望ましいと今の私は感じています。

 

以下の記事でも触れた通り、オリコンにフォーカスをするとシングルセールスTOP5はAKB48で埋め尽くされていました。

(アルバムチャートの方も上位はAKB関連やジャニーズ、安室奈美恵などが大半です。)

AKB48自体については私の好みの音楽ではありませんが、否定をしようとは思いません。

(アイドルにカテゴライズされている中にも好きなグループはいくつかいますしね。)

 

ただ、特典商法によるセールスにはなってしまう為、実人気が見えにくくなり、その年を象徴するアーティストや楽曲がなかなか思い浮かばない状況が生まれることや、チャートインするアーティストのバラエティの乏しさには"カルチャー"や"アート"として音楽を考えた時に、一抹の不安が残ります。

 

どの業界でもその時代のトップランナーに憧れた若者が次世代を作りますが、近年の音楽業界はアイドルシーンがすこぶる元気なのはAKB48が長らくトップランナーだという事実に起因すると言えるでしょう。

 

チャートのバラエティの乏しさは、次世代の才能が集まる場所の偏りを生んでしまう事が、カルチャーの縮小に繋がるという懸念というわけです。

 

米津玄師に話を戻します。

私自身、米津玄師の楽曲は数える程度しか聴いた事がないので、数曲聴いた程度の感想になりますが、近年ビッグヒットとなったアーティストの中では図抜けて深い音楽的素養や普遍性を感じました。

この感想は私の主観でしかないので、シンプルに私にとっての良質なアーティストがビッグセールスを記録した事について喜ばしい事でした。

 

AKB関連やジャニーズ(というか嵐ですね。)、安室奈美恵などの非アイドルがアルバムセールスでNo1を記録したのは2012年のMr.Children以来8年ぶりとなりますが、そのミスチルもベスト盤なので、いかに異例のヒットであるかが伺い知れます。

(2010年以降は嵐、AKB48、安室奈美恵だけでトップを争っています。)

 

非アイドルでもあり、シンガーソングライターでもある米津玄師がNo.1セールスというのは非常に次世代にインパクトがあると私は感じています。

 

先の理屈で言えば、米津玄師に憧れた次世代のアーティストが増える期待を抱く事ができますし、アイドルとは違い"ルックス"で夢をふるいにかけられる事が無いというのも文化維持として見れば好影響です。

 

加えて言うなれば、KingGnuやOfficial髭男dismなどもチャート上に台頭しており、これまでの【AKB48 or 嵐】の10年間(2010年以前は調べていないのでもっと長いかも?)からの脱却が見られているのも健全な流れに向かっていると言えるでしょう。

 

一極集中していく音楽消費動向

テレビ由来ではないビッグヒット

先に挙げた過去記事、

『ヒットの崩壊』国民的ヒット曲はもう生まれないのか?【書評・レビュー】

でも触れているように、長年メディアの王様だったテレビがその影響力を弱め、SNSの時代になった事で、ロングテール(ニッチ商品)の時代が予見されていました。

 

しかし現時点での結果は対極にあるモンスターヘッド(メガヒット)の時代の到来でした。

 

誰もが視聴するテレビに楽曲やアーティストを露出する事で多くの接触機会を作り、ヒットを生み出すというかつての手法から、SNSに情報収集を頼る時代に入った事で「かつてのようなビッグヒットは生まれなくなるのでは?」というのが大方の予測でした。

 

ご承知の通り、米津玄師やKing Gnu、Official髭男dism、瑛人、LiSAなどSNS由来のビッグヒットが頻発するようになりました。

(テレビで見るか否かは置いておいて、アニメタイアップの力は大きいですけどね。)

 

もう少し厳密に見ると、確かにロングテールの時代には入っているようには思えますが、そのニッチなはずの商品(音楽)がSNSの波及力によって、ニッチのままメガヒットになるというのが正しい見方かもしれません。

 

このブログでも再三書いていますが、この事こそが多くの音楽アーティスト(特にインディペンデントな)にとって希望のある状況だと私は考えています。

 

ヒットまでの導線はテレビからSNSへと移り変わったものの、「みんなが話題にしている」といういわゆる"バズ"という新たな消費者への接触機会によって、かつてのテレビ時代以上にビッグヒットは一極集中化を見せるというのが、冒頭に書いた【1アーティストがチャートを総なめにする】と考える理由です。

 

ビッグアーティストの高齢化

「既に面を取り切ったアーティスト以外は厳しい。」

音楽関係の仕事をしている方や、音楽メディアやビジネス系の記事を良く読まれる方であれば目にしているコロナ以降の音楽アーティストへの見立て・考察だと思います。

 

確かに現時点での人気や認知でそのままマネタイズを考えた場合には、その通りだと思います。

ファンが50人しかいないアーティストにいくら流行りのビジネスモデルを当てこもうとしても、ファンベースを増やさない事には如何ともしがたいです。

 

その点、コロナ以前、というよりもテレビ時代にファンベースを確保したアーティストというのは非常に強いです。

 

事実、この10年のセールスチャートを見ると、顔ぶれはAKB48、嵐、安室奈美恵、Mr.Children、サザンオールスターズでほぼ埋め尽くされています。

いずれもテレビが王様だった時代に面を取り切ったベテランアーティストと言えます。

 

これらの既に面を取り切ったビッグアーティストは、今後も作品をリリースする毎にある程度変わらぬセールスやヒットを生み出すと思われます。

これに米津玄師らSNS時代のアーティストが挑む構図が今後しばらく続くでしょう。

 

しかし、ベテランアーティストは基本的にリリースペースが若手と比べると遅く、アーティストは当然歳を重ねています。

この10年以上チャート上位を彩ってきた中でも、安室奈美恵や嵐は引退・解散をしていますし、サザンやミスチルが若手のようなペースで作品をリリースする事はないでしょう。

 

となった場合にはつまり、SNS発信による新たなビッグヒットは生まれるものの、既に存在したベテランビッグアーティストの頭数は減少傾向を見せると考えられる為、人気の一極集中の加速にはこの事も関係してくるのではないかというわけです。

 

最後に(まとめ) 

本文中でも触れましたが、一極集中という状況は健全ではない部分はありますが、ニッチな表現活動のままそれがメガヒットに繋がる可能性を持ったという点については非常にアーティストにとって希望ある状況のように感じています。

 

音楽ファンにとっても、テレビ露出という作られたものではなく、口コミの連鎖によるバズ発信で接触する音楽には、予想のつかない音楽と出会う期待感もあります。

 

なんにせよ、非アイドル・非ベテランのアーティストがチャートを席巻した事はそれだけでインパクトがありましたし、2020年は久しぶりにその年を象徴する楽曲が思い起こしやすい一年だったとも思います。

 

これにはいくらか新型コロナによる生活様式の変化も影響しているとは思うので、"奇しくも"感はありますけどね。苦笑

 

ではまた明日◎

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