TINY MUSIC LIFE

音楽を仕事にする方法やビジネス論、考察や小ネタなどをお届けする音楽情報ワンパーソンメディア。by TINY RECORDS八木橋一寛

瑛人「香水」はなぜ大ヒットしたのか?その一連の流れや要因は?

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2020年を象徴する一曲として、もはや異論の挟みようもない状況へと押し上げられた瑛人(えいと)の「香水」。

 

あいみょん、King Gnu、official髭男dismと近年のヒットソングからは、うるさ型の音楽ファンをも納得させるアーティスト性が担保された良い流れを感じていました。

(この流れの源流はSuchmosに辿ることができるとは思っていますが。)

 

瑛人「香水」のヒットからは、そんな流れの一つのピークや分岐点のようにさえ感じた所もあり、一連のヒットまでの流れのおさらいや、要因の考察をしていきたいと思います。

 

 

瑛人(えいと)について

1997年神奈川県生まれの現在23歳。

2019年の「香水」リリース時点では横浜のハンバーガーショップでアルバイトとして勤務をしながら音楽活動を継続。(現在でも在籍はしているとの情報も。)

 

これまでに「香水」、「HIPHOPは歌えない」、「シンガーソングライターの彼女」を配信のみでリリースしており、パッケージ盤のリリースはCDRによる「香水」の自主制作盤のみ。

 

事務所は現在セツナインターナショナルに所属。

 

リリースからヒットまでに要した約1年間

この「香水」は瑛人のデビューシングルとなり、メジャーレーベルはおろかインディーレーベルとも契約はしておらず、いわゆる自主制作という形でのリリースとなっています。

(ちなみに多くの場合、インディー時代に作品リリースがある場合でも、メジャーデビュー1作目を"デビュー"とクレジットしています。)

 

楽曲は2019年4月にTuneCore(チューンコア)を介して各配信サービスからリリースされ、その10ヶ月後の2020年2月にAmazon限定で同じく自主制作盤としてCDシングルを発売。

(CDなどパッケージ盤としての販売はこの自主制作CDのみで、現在は入手が困難となっています。)

 

リリースから1年を経て今年2020年4月に入り突如としてブレイクを果たす格好となりました。

 

この今年4月に起きたブレイクの要因となったのが、TikTokでの「歌ってみた」系の投稿で、これをきっかけに主要音楽チャートにも顔を覗かせ認知を大きく広げる事となります。

 

認知や話題が高まると、YouTube上ではチョコレートプラネットや香取慎吾、ココリコ遠藤&狩野英孝、オリエンタルラジオ藤森慎吾、そのほかにも多くのYouTuberにより「歌ってみた」やカバーという形で同曲は多くの再生回数を叩き出しました。 

YouTube上に公開されているオリジナルMVは、これを書いている今日2020年9月4日現在で、9,500万回再生となっており、上昇推移的にはまだまだこの数字は伸びそうです。

 

ヒットや人気の要因は?

"認知"という意味では、先に書いた通りTikTokを発端としてYouTubeやSNS上でそれが拡大したと断じてもほぼ間違いはないでしょう。

 

この認知拡大を支えたのは、ユーザー(視聴者) が「歌ってみた」という形で自発的に同曲のプロモーションを担った点で、これは言わば"口コミ"に相当します。

 

地上波テレビや映画などのタイアップ、雑誌やWEBメディアから出稿枠を買うなどをして広く"面"で当てるプロモーションから、インフルエンサーという個人に広告費が流れている現在は「私の好きな個人」という"点"が発信する情報にユーザーが信頼を置いている証左かもしれません。

 

アクティブユーザーの多くが若年層で多くのインフルエンサーが存在するTikTokを種火とした事で、そのカルチャーを知りたい・乗りたいと考えるその上の世代がちょうどテレビと覇権交代を果たしたYouTube上でマスに波及するという現在の流行の方程式が成立したように見受けることもできます。

 

そして勿論、これらはきっかけや経緯の理由付けに過ぎず、肝要な部分は楽曲にこそあるでしょう。

 

楽曲を聴いている方ならば言うまでも無く察している通り、

「君のドルチェ&ガッバーナのその香水のせいだよ」

のワンフレーズによるところは大きいでしょう。

この一節の歌詞が多くのリスナーの興味を惹きつけ、一聴しただけでも耳に残り「歌ってみた」くもなります。

 

この"ドルチェ&ガッバーナ"が本当に絶妙です。

多くの日本人が知るところではあるブランド名でありつつ、現在流行中のブランドという訳でもありません。

むしろ現在の日本におけるパブリックイメージとしては、「六本木界隈の社長とかちょっとチャラい成金風の人が好みがちなブランド」のようにすらなっているかもしれません。

 

一方で、香水のイメージは全く無いブランドですし、女性が好んで愛用するイメージもあまり無いでしょう。

 

つまり、あんまりピンとは来ないのです。

 

ピンと来ない事で、"対象が具体的に連想しづらく"なり、聴き手も限定しにくくなります。

 

例えばこれが、"シャネル"や"アナスイ"、"Shiro"だったりすると、「こんな女性だろうなぁ。」と歌われている女性像も浮かんできます。

対して、「ドルチェ&ガッバーナの香水を使っている女性。」は全く思い浮かびませんし、この曲を知るまで香水を私は見たことがありませんでした。

こうして女性像がぼやける事で、創作者の指定するイメージに引っ張られ過ぎる事なく、広く受け入れのしやすい楽曲となったようにも思えます。

 

そして何より「ドルチェ&ガッバーナ」という濁点も多く声に出して言いたくなるワード。

このワードが更に強烈な日本語発音と譜割りによって、このワンフレーズだけでも他者と共有したくなったというのはヒットの大きな要因だと思います。

今や「ドルガバ」という略称の方が多くの人にとっては馴染みが深いので、正式名称で改めてしっかりと呼ぶ事が新鮮さとして加わった所もあるかもしれません。

 

かつて椎名林檎が"ベンジー"や"グレッチ"や"コートニー"という一般には認知されていない固有名詞を(知らない人にとっては)暗号的に使う事で違和感を与え、声に出す快感を生み出したのにも似た気持ち良さを「ドルチェ&ガッバーナ」から感じました。

 

これはフォローも兼ねた余談ですが、私自身はDCブランドやデザイナーズ・ブームから影響を強く受けてそれらを買い漁った世代なので、3Dと呼ばれたドリス・ヴァン・ノッテン、ダーク・ビッケンバーグ、ドルチェ&ガッバーナの3ブランドは特に思い入れや良い印象が強く残っているので、先に書いたようなネガティブイメージをドルチェ&ガッバーナに対しては抱いてはいません。

 

最後に

瑛人さんをリリース当初から追いかけてチェックしていた訳では無く、ファンと自負できるほどの強い関心がある訳では無いので、情報の不足や誤りがもしあればご容赦ください。。。

 

関心の大きな種としては、レコード会社にも事務所にも所属していないインディぺデントなアーティストが、個人で登録したTuneCore経由での配信楽曲がこれほどの大ヒットとなった事象でした。

 

「音源配信のサブスクでは稼げない。」

と多くのミュージシャンが発言をしていたり、同様の言説がメディアでは取り沙汰されていますが、完全に個人管理でこのレベルのヒットとなれば話は異なってきます。

 

仮に音源そのものから十分な収益が上げられずとも、これだけの認知度や人気を獲得できたのちには、収益を作るポイントはいくらでも設計が可能だとも思えます。

 

この完全DIYの状態のままでの大ヒットを受けて、マーケティングの大きな見直しや、アーティストの企業との契約に対する考え方の変革、音楽活動をする上での希望やモチベーションなどにも今後影響が及ぶのではないかという期待を込めて締めさせていただきます。

 

マスク着用が必須なウィズコロナの現在では、香水の香りを感じる事ができないというのも皮肉なものですけどね。苦笑

 

ではまた明日◎ 

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