JASRAC(ジャスラック)。
と聞いて、ポジティブなイメージを持つ音楽ファンはあまり多くはいないかもしれません。
その理由の1つとして、 アーティスト側からJASRACに対するネガティブな発言を多く目にするという事もあるでしょう。
他にも、”裁判”のイメージもあります。
近いところでは、”音楽教室での演奏からも著作権使用料を徴収する”という事に関する裁判も話題となりました。
詳しく知るにはかなり小難しく長い話になってしまうので、今回は「そもそもJASRACってなんなの?」、「なんのためにあって、何が問題なの?」という輪郭だけでも簡単にまとめられればと思います。
【目次】
JASRAC(ジャスラック)とは何?
まず、Wikipediaにはこうあります。
一般社団法人日本音楽著作権協会(英語: JApanese Society for Rights of Authors, Composers and publishers)は、日本の著作権等管理事業法を設立根拠法に、音楽著作権の集中管理事業を日本国内において営む一般社団法人である。
公式に英語の略称である「JASRAC」の表記をロゴとして使っており、ジャスラックと発音する。
音楽(楽曲、歌詞)の著作権を持つ作詞者・作曲者・音楽出版者から複製権・演奏権などの著作権の信託を受けて、音楽の利用者に対する利用許諾(ライセンス)、利用料の徴収と権利者への分配、著作権侵害の監視、著作権侵害者に対する法的責任の追及などを主な業務としている。
社団法人であるため一般社団・財団法人法に基づいて非営利目的の運営が法律により定められている。
(中略)JASRACは現存する日本国内の著作権管理事業者としては最も古く、1939年に設立された社団法人大日本音楽著作権協会をその前身とする。
これだけで読む気が失せそうになりますが、要約するとこうです。
「音楽を作った人の依頼を受けて、代わりにその楽曲を利用する権利や、使用料の管理を行う法人団体」
さらに噛み砕きます。
例えば、知らない誰かが自分が作った曲を勝手にカバーして歌っていたとします。
作詞や作曲をした個人が、「おお、いいカバーだね。」と気持ちよく納得できればまだ良いですが、そうではないカバーをされる場合だって考えられます。
仕上がり自体に納得ができたとしても、その曲は自分の生み出した大切な楽曲です。
そのカバーしたアーティストの曲のように売り出されていたら当然気持ち良くはないですし、売上が発生した際にそのカバーした人に全て売上が入ったら腑に落ちないでしょう。
とはいえ、作詞や作曲をした個人が、世の中で発表されたり、演奏されている曲を一つ一つチェックするなんて事はできません。
カバーする側も、「使わせてもらいたいけど、作った人の連絡先が分からない」という事だって起こります。
つまり、曲を作った人とその曲を使った人を繋ぐハブのような役割を、ジャスラックは担っている訳です。
ジャスラックの利点
著作物の二次利用の管理
すでに書いた通り、楽曲を作った著作者個人では、誰がどこで自分の生み出した曲を使っているのか追いかけ切る事はできません。
そこで、ジャスラックに「この曲を作りました」と申請をして、その管理を委託します。
逆に、誰かが作った曲を使いたい場合には、作った人を探し出して連絡を取る必要もなく、「この曲を使いました」という事をジャスラックに申告をすれば良いだけで済みます。
これにより著作者は、どこで誰が自分の曲を使ったのかを把握する事ができます。
使用料の徴収・分配
ジャスラックの役割は、ただ使用を管理するだけではありません。
使用料についても管理をします。
2019年度の著作権使用料は、過去最高となる1157億円にも上っています。
SpotifyやYoutubeなどの音楽配信サブスクリプションや配信プラットフォームの普及が、その理由に考えられます。
それにしても大きな金額だと思いますよね。
では一体どのような利用に対して著作権使用料は発生するのかリストアップしてみます。
- コンサート(各種イベント・施設での利用)
- 録音物・映像制作物・出版物
- インタラクティブ配信
- 広告での音楽利用
- 映画の録音・上映
- テレビ・ラジオでの放送
- CD・ビデオなどのレンタル
- 教育機関での利用
- ブライダルでの利用
基本的には、自宅などで個人で楽しむ以外、音楽の利用として考えられるもの全てが網羅されています。
ジャスラックの公式サイトに行くと、各ケースでの使用料の計算フォームも用意されています。
「バンドやっているけど、そんなの払った事ないよ」
「うちのお店でも音楽流れているけど、いちいち何を流したかなんて申請してないよ」
と思うかもしれません。
そう思われた場合でも、その店舗の方でジャスラックと”包括契約”の上で、月額として使用料を支払っています。
近年急増しているサブスクやYoutubeなども包括契約がほとんどだと思います。
「それにしたって、ちょっとエゲツなくない?」
とも思うでしょう。
ですが原則として、販売や入場料などで収益が発生する営利目的の利用の場合に限り、著作権使用料は発生します。
例えば、カラオケであれば、歌う人が聴かせる為にチケットを売ったりしている訳ではないですが、カラオケ店はお金を利用者からもらっていますので、カラオケ店が著作権使用料を支払っています。
そのようにして徴収した金額を、書作者(作詞・作曲者や出版者)に分配を行います。
楽曲を作った際、ジャスラックに申請を行うだけで、その後利用される都度、使用料を徴収・分配してくれる訳ですから、大きなメリットであると言えるでしょう。
ジャスラックの問題点
徴収の線引きの難しさ
ここまでは利点にフォーカスしてきたので、
「ジャスラックいい事ばかりじゃん!」
と感じるかもしれませんが、デメリットや問題点もいくつかあります。
著作権法の適応でいうと、”公衆”や、”特定多数”に対して及ぶ法律である為、どこまでが公衆で何をもって特定多数とするのかが、度々議論の対象となっています。
冒頭にも挙げた、”音楽教室での演奏に対して使用料を求めた裁判”では、ジャスラックが勝訴しています。
(内容は気になる方は各自検索をしてみてください。)
著作権法に照らし合わせると、確かにこの勝訴は妥当と言えるでしょうが、そもそもこの著作権法の範囲自体に疑問や議論の余地があると考えることもできます。
そもそも、多くの人は”どこまでが著作権使用料を払う対象なのか”を把握していないでしょうし、請求をされた側からすれば、「え、なんで?」という気持ちがあるでしょう。
どこまで範囲として線引きするべきかという事は、私のただの主観になってしまうのでここでは言及しませんが、”範囲が良くわからない”という事自体は、問題であると言わざるを得ないでしょう。
音楽文化発展の妨げになるのでは?という懸念
著作権そのものは、音楽に限らずあらゆる創造物に存在します。
その中でも、こと音楽に関しては、この著作権が非常に強固に守られています。
強固に守られる事が、
「音楽文化の発展にとって妨げになるのではないか?」
といった懸念の声も強いです。
代行して、権利の管理や使用料の徴収を行ってくれる事は大きなメリットです。
ですが、著作者がジャスラックに申請をしてしまうと、仮に”アーティスト側が自由に使って欲しい”と考えていても、使用料が発生してしまいます。
最も分かりやすい例としては、自分で作った曲をライブで演奏をしても、ジャスラックに使用料を支払わなければなりません。
そのくらい強固に著作権は管理されています。
その強固さがゆえに、
「厳しすぎて、音楽の利用を控えてしまうケースが生まれる可能性があり、音楽の発展にとってマイナスではないか?」
そんな意見が長きに渡って囁かれ続けているのです。
利権になってはいないのか?
批判的な”問題”としては、この点に最も意見が集中しています。
例えば、先に挙げた”自分が作った楽曲であっても使用料を支払う”場合、そのままの金額がアーティストに戻ってくる訳ではありません。
手数料としてその多くが引かれた金額が支払われます。
「では、その引かれた金額は果たして”適正”な金額なのでしょうか?」
「多くの施設や企業から徴収した使用料の分配額は”適正”な金額なのでしょうか?」
ここが問題提起の対象となっているのです。
1157億円と書いた通り、非常に大きな金額が動く”ビジネス”になっています。
ですが、あくまでも著作者を守るための管理団体ですから、必要経費はあるにしても、それがあまりにビジネス化してしまうと、釈然とはしません。
この点が不明瞭であり続ける限り、ジャスラックにあるネガティブイメージの代表的なものは、
中間で抜きすぎているグレーなイメージ
を払拭できない事と思います。
加えて、使用料が発生する線引きがグレーのまま、周知もに不十分さがある為、”突然集金に来られた”という印象になってしまい、NHKに近い集金モデルとして揶揄されてもいます。
まとめ
”利点”だけを見ればとても有効で意義ある団体に感じられますし、”問題点”
だけを見れば悪どくも見えるかもしれません。
アーティストの規模感や、消費のされ方によってもその利点や問題点は異なると思います。
いわゆる一発屋であっても、季節の定番曲や、カラオケで定番曲のように歌い続けられる曲を作れれば、収入を得ることができます。
逆に、音源はそこまで認知されたりヒットはしていないけど、ライブ動員だけでしっかり収益が確保できるアーティストであれば、曲そのものは収益にならなくてもいいから、認知してもらってライブに来てもらいたいと思う場合もあるでしょう。
実際、「著作権管理会社には委託しない」というアーティストは増加傾向にある印象がありますし、そういった声を聞く回数は増えています。
そんな印象ではありましたが、コロナショックがあり、改めて考え直す機会でもあったとも思います。
CDやレコードといった音楽パッケージソフトの売上が減少し、音楽業界は”ライブの場”に収益の主戦場を移しました。
そのライブの場をコロナ禍で失った先は、やはり”音源ビジネス”や”配信ビジネス”になるでしょう。
利率が仮に悪いとしても、ある種自動的に集金してくれるジャスラックのような管理団体による収益は軽視できません。
すでに、ジャスラックの利率が改善されたという話もありますし、これまではジャスラックの独占状態であった著作権管理でしたが、競合会社にあたるNexTone(ネクストーン)という会社もavexが立ち上げており一定のシェアを獲得しています。
どんな業種でも共通しますが、競合が出てくると、サービスは向上するものですし、これまでは比較的ネガティブな意見も多く見られたジャスラックですが、今後さらなる改善が見られ、親しまれていく日が来るかもしれませんね。
では、また◎