「ロックにDJってあるの?」
と思われる方も多いかと思いますが、一応、あるんです。
そんなニッチな存在であるロックDJを長くやっていた私が書くので、多くの方が思うソレとはもしかしたらズレてしまう部分もあるかもしれませんが、クラブヒットやDJについて今日は書いてみたいと思います。
かつてのロックDJが生み出すクラブヒットは、その楽曲のセールスを大きく左右する影響力を持っていた実感があります。
しかしながら、私が長くいるロック系のシーンでは、近年生まれたクラブヒットというものはついぞ聞く事がありません。
私自身、DJをするだけでなく、海外のロックを販売するレコード店を経営したり、それらのライターをしたりもしていた事もあり、そんな現状を寂しくも感じたもので、立ち止まって「なんでだろう?」と考えてみようと思ったという訳です。
クラブヒットの構造
ロックDJ華やかなりし頃
私がロックDJのプレイするDJイベントに足を運ぶようになったのは、今から25年前の1995年前後あたりだったと記憶しています。
もちろん、スマホも誕生しておらず、インターネットさえ生まれたばかりで一般にはほとんど普及していない時代です。
音楽の情報に限らず、新しい情報を得る手段の多くは雑誌など書籍に依存していましたが、今にして思い返すと、こと新しい音楽を知る手段としては、DJが今でいうインフルエンサーの役割を果たしていたように感じます。
人気イベントやDJが定番的にプレイする楽曲の中からは、一般には全く知られていない楽曲が、局所的な盛り上がりをもたらすヒット曲としてパーティーを彩っていました。
私を含め、当時の若者が深夜のパーティーに繰り出す動機のいくつかには、"情報収集"が確実に存在していたと感じています。
雑誌を頼りにするにも月に一度の発行ペースでは情報にタイムラグがありますし、何より拾いきれない情報が沢山あります。
Shazamなんて当然無いわけですから、DJブースを覗き込んで流れている曲を知ろうとする人もいれば(DJによってはバチクソ怒られます。汗)、直接DJや周囲の人に質問をしたりして、新しい楽曲との出会いにひたむきな貪欲さをみせていました。
私自身、この時期のある一定期間はどんな雑誌やレコード店のレコメンドよりも、好きなパーティーで流れる楽曲に魅力を感じましたし、強い信用もしていました。
多くの若者にとって、DJの存在は音楽の影響のみならず、そのファッションやライフスタイルにまで影響力は及んでいた思います。
まさに今で言うところのインフルエンサーというわけです。
これらはごく狭い界隈の局所的な出来事ではありましたが、週末深夜にヤニ臭い地下で行われるちょっと怖くて敷居の高い、そんなアンダーグラウンドなムードを持っていた事も手伝い、小さいながらも温度の高い熱狂を生んでいたとも思えます。
ロックDJの現在
対して現在、ロックDJにそのような影響力があるかと言えば、残念ながらNOです。
但し、ダンスミュージックなどテクニカルだったりクリエイティブな要素を含んだDJに関してはこの限りでは無いと思います。
ロックDJも技術的な追求が不可能な訳ではありませんが、ロックというジャンルの成り立ちや楽曲の構造上、難しい面もありますし、何よりオーディエンスが求めているのはそこではありませんでした。
極論を言えば、当時のロックDJにスキルなど誰も求めていなかったと思っています。
求められていたのは、知られざる名曲や埋もれた名曲をディスカバリーするセンスや、特定のジャンルに特化した知識でした。
インターネットの無い時代においては、知識や情報に高い価値があり、
"それを知っている事がカッコ良い"
"いち早く知っている事がカッコ良い"
という価値観が確かに存在していたはずです。
しかし、インターネットやSNS、楽曲配信プラットフォームが広まり充実している現在では、お金も足も使わずとも知る事は誰にとっても容易です。
その時点で、ロックDJ最大のストロングポイントは失われたと私は感じています。
そんな空気感を察してか、2010年あたりからはロックDJに技術を持ち込む流れも生まれ、今もその流れは続いているように思いますが、影響力を取り戻したとは言い難い状況です。
それもそのはずで、先に書いた通り、ロック音楽を好む多くの人にとって、求めているのはそこでは無いからです。
ロックは当然生演奏を録音していますから、クリックを使わずレコーディングされていれば一曲の中でもテンポが一定だとも限りませんし、同じ楽器でもその音色が大きく異なることもあれば、基本的には歌の入った部分の占める割合も多いです。
そんな風に、DJミックスをするには非常に不向きなジャンルでもあり、それを回避しスキルの披露を優先させようと、ロックDJでありながら非ロック音楽を織り交ぜざるプレイスタイルも見られるようになりました。
もちろん、これはこれで新しいプレイスタイルの発展の仕方だとは思いますが、ロックなど生身の人間の体温やテンション、メッセージが重要なジャンルの場合には逃れられないオーディエンスの大きな欲求が存在します。
それは、
「途中で曲を混ぜたり変えたりしないでフルで流して欲しい。」
という欲求です。
いかに技術的に高いスムーズな繋ぎやミックスを披露されても、ロック好きというのは好きな曲は最後まで聴いて盛り上がりたいと思ってしまうものです。
ましてやロックの場合、終盤に大サビや転調だったりの楽曲の"トロの部分"が乗っていたりします。これを待たずに曲を変えられたら、「このDJ上手い」という印象以上に、「このDJ分かっていない」という評価にさえなりかねません。
もっと言えば、DJ目線からすると身も蓋もなく受け入れがたい真理になりますが、ロック音楽においてDJはコンサートの代替として消費される面から抜け出せない所があると私は考えています。
もちろんこれは、多くの人を集客するとか影響を与えるという尺度での話になりますので、ロックDJにもう存在価値が無いという話ではありません。
DJとSNSインフルエンサーの相違点や類似点
SNSマーケティングやインフルエンサーという言葉や存在が広がり一般化した今では、かつてのクラブ現場での熱気からブームやムーブメントが生まれる機会は確かに減少したかもしれません。
特に、ビジネスとしてそれを生み出そうとするのであれば、現場に投下するリソースをSNSに投下する方が確度も効率も高まるでしょうから尚更です。
世界中に発信のできるSNSやそれらのインフルエンサーと、アンダーグラウンドなクラブヒットを生み出し局所的な盛り上がりを生み出すかつてのDJとは、一見その対象も方法論も別物のようにも思えます。
しかし、ぼんやりとそんな事を思っていると、異なるようでやっていることは同じであるとはたと気がつきました。
世界中どこからでも誰でも無料でインターネットを通じてアクセスできるSNSインフルエンサーは、オープンで無限のリーチの可能性があるでしょう。
しかし、実際にその発信を好意的に受け止め、その影響力が購買や行動に結びつくケースというのは案外箱庭的な小さな範囲のようにも思えてしまいます。
DJに比べると圧倒的なリーチ数は叩き出すでしょうけれど、そのエンゲージメントはネット時代以前の現場での口コミに大きく劣るように思えてしまったという訳です。
10万人のフォロワーを持つInstagramのインフルエンサーと、100人程度のクラブを毎月満員にする人気DJイベントをパッと見比べたらその影響力に雲泥の差を感じます。
ただ、この大きなリーチ数の差の通りの影響力の違いがあるかと言えば、私はそうだとは思えなかったという訳です。
(ヒカキンやヒカルのようなインフルエンサーも存在しますが、本当に一握りだと思っていますので。)
SNSをフォローするという”フォロワー数1”と、電車に乗って一晩を使ってクラブに行った”来場者1”の重みが同じとは思えません。
これがエンゲージメントの差にもなるでしょうし、10万人フォロワーがいた所でそのインフルエンサーの為に電車に乗って一晩を使えるフォロワーの割合というのは極端に少ない気がします。
インフルエンサーであれば、同じフォロワー数でも寄せられるコメントの数やその内容が信頼するに値する口コミとして機能するでしょうし、強いて言えばこの部分がリアル現場での口コミに相当するのかもしれません。
結局のところ、SNSとは別の手段で成りあがった特別な有名人を除けば(芸能人やアスリートなど)、受け取った人の好意的反応の連鎖(口コミ)を自分の影響力に置き換えて拡大するという同じ構造を持つように感じたのです。
クラブヒットを産んだDJとSNSで影響力を持つインフルエンサーの原理は、方法は違えどいずれも口コミという訳ですね。
最後に(まとめ)
私名物になってきている、【最初は細々書いているけど途中で集中が途切れて急に風呂敷を畳み始める】がうっすら発動してしまいましたが、昨日書いたSummer Sonic Highlights on YouTubeを観ながらなものでご容赦ください。汗
何が言いたかったというと、
「何か変えたい目標や達成したい理想があってそれに取り組むのであれば、それだけに注力するのではなく、達成に近づく可能性を持つのであればSNSなど別の手段で影響力を持つ事も考えても良くないでしょうか?」
そんな所でした。
私もそうですし、多くのDJやバンドマンもそうだと思いますが、得てしてインディペンデントだったりマイノリティな趣向を持った人は、やりたい事やカッコ良いと思える事だけで成りあがったり目標達成をしようとする所があるのです。
達成を優先するのであれば、ダサかろうが目標達成のためにSNSを頑張っている姿を私はカッコ良いと感じます。
ただこれは本当に人それぞれで、昔からお世話になっている先輩や友人が未だに尖りまくりでカッコよいことしかやらないスタンスを見たりすると、「カッケーな」と思ったりもしますし、でも私の場合は「達成を最優先してやりたい事はその後で良い」という考えに至ったので、もしかしたら「八木橋(私)も日和ったな。」と思われている事もあるかもしれませんが、それでいーんです◎
ではまた明日◎
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