TINY MUSIC LIFE

音楽を仕事にする方法やビジネス論、考察や小ネタなどをお届けする音楽情報ワンパーソンメディア。by TINY RECORDS八木橋一寛

オトナとアーティストが揉める罠。作品と商品の折り合いの難しさ

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グレッシヴにも思える見出しかもしれませんが、 おそらく至って当たり前の内容になるかもしれません。

 

但し、言語化して自覚できているのと、漠然と認識している状態とでは結果が異なる事は多くの人も知る所でしょう。

 

音楽ファンならどこかしらで一度は目や耳にした事があるであろう、ミュージシャンによる業界関係者(大人)への否定的・批判的な意見。

そうした意見には様々な事柄を挙げたケースが存在しますが、根幹にある理由は一つだと思っています。

 

アーティストは"作品"を、大人は"商品"を作ろうとすることによる軋轢です。

 

結論はこの一文で終わってしまいますが、それではあまりに乱暴で"言語化した自覚"には届かないので、今日はココを深掘っていこうと思います。

 

 

落とし所に正解のない両者の主張

大人が必要になる場面

職業としてアーティストに大人が関わる場合において、無視できない目標の一つに収益があります。

アーティスト側もわざわざ大人と関わる事を選択する場合には、その点には自覚的だと思います。

 

たとえ収益を一つの共通目標にした場合であっても、その度合いは人により様々です。

軋轢や揉め事なく円滑に活動を行い達成確度を高めるためにはその目標を明確に定義・共有すべきという趣旨の話は以前にも書きました。

「やりたいように活動していたらトップアーティストになっていた。」

もっと大前提を言えば本当はこれがみんなの理想です。

そんなケースもゼロではありませんが、統計学的な理屈で言えばゼロと判断されるほどの確率のように思います。

 

ミュージシャン本人が収入や認知への欲求が全くなく、別の正業を持ち音楽活動を続けるのであればやりたいクリエイティブを続けることができますが、今回は"アーティストと大人"が主題のお話です。

 

アーティストのクリエイティブを追求するのであれば、大人は必要ありません。

その作品をより認知させ収益に繋げる際に必要になります。

 

アーティストが作品を生み出すプロとするなら、大人はマーケットやセオリーを理解しその作品の認知を広げ収益に結びつけるプロです。

 

かつてメジャーデビューが祝福の対象だったのは、収益へと結びつけるプロだと誰もが認めていたからでしょうし、現在必ずしもメジャーデビューが諸手を挙げて祝福しきれなかったりその選択をしないアーティストが増えているのは、大人のプロとしての力量が問われているからなのだと思っています。

 

いずれにせよ、アーティストに関わる大人の存在意義は、認知拡大や収益化のプロであるという期待によるものになるでしょう。

 

作品と商品という対立構造

この異なるプロであるという事を、互いがないがしろにした時には当然軋轢やトラブルが生まれます。

しかし、多くのアーティストと大人を見てきた肌感覚的には、"ないがしろにした"というケースはあまり見た記憶がありません。

相互に尊重やリスペクトを感じる関係性がほとんどだと感じています。

(大人側の会社が音楽業界ではなく商業目的の組織の場合はこの限りではないですが。)

 

ここで本題となる

「アーティストは"作品"を、大人は"商品"を作ろうとすることによる軋轢。」

が出てきます。

 

この作品と商品については、キングコングの西野さんが面白い考察を述べていたので、その定義と理屈を記憶の範囲で引用します。

 

まず作品と商品の定義。

作品はアーティストによるクリエイティブそのもの。商品は販売物や提供するサービス。

ニュアンスしか覚えていないので言い回しはこの限りではないですが、定義としてはだいたいこんな感じ。

 

次にこの両者についての考察。

作品を作る為のお金は作品から得るべきではない。

なぜなら、作品を商品にしてしまうと次の作品を作るお金を得る為に作品に商品の視点が入り、クリエイティブが落ちるから。

 おおよそこんなような事を言っていた記憶です。

 

彼にとっての作品はおそらく絵本の事で、その絵本作りにかかる費用はオンラインサロン等の別の集金ポイントで集めているというかなりのポジショントークなので共感はしませんが、アーティストと大人の軋轢の原因は浮き彫りにしているように見えました。

 

アーティストが大人を批判・否定する最も多く強い理由は、"収益の為にクリエイティブを不本意な形に変えられる事"だと思います。

 

一方、大人側は一定の収益面での成果をあげなければ会社からはつつかれますし、そのアーティストに十分な報酬を支払う為にも収益につながる商品を作らねばなりません。

 

資金規模の大きな会社であれば、ランニングコスト的に現時点では収益化のできていないアーティストに対して、活動費用や定額の報酬を支払う場合も多いです。

 

アーティストとしては自身の音源やライブパフォーマンスという作品がこの時点で収益化されたようにも感じたり、作品の製作費用を所属会社が支払う事で、西野さん理論で言う所の"作品を作る費用は別の所で捻出している"感覚が生まれます。

 

これが軋轢を生む落とし穴の一つで、レコード会社やマネジメント会社はパトロンではないので、"商品"にならないと(投じている資金が回収できないと)その契約を継続する事ができません。

 

従って、当初はランニングコスト的に赤字採算でも費用負担や報酬支払いに耐える事ができても、次第にその条件の継続への旗色は悪くなっていきます。

そうなった時に、アーティストの最も嫌う「売れる為のクリエイティブの変更」を求めざるを得なくなってしまうのです。

 

更にここでの落とし所の難しさは、作品作りのプロであるアーティストが思うままのクリエイティブを続けても収益面での成功を果たすケースはありますし、商品作りのプロである大人の意見を我慢して飲んでも成功は確実ではないという事。

 

作品と商品には思想や達成目標の隔たりがあり、対立とまではいかずとも折り合いをつける事が極めて難しい関係ではあると思っています。(だからこその西野理論でしょうけれど)

 

私が数年前から

「ポップミュージックはサブカルからカルチャーと認められる努力に時間を割くべき(政治家や一般的な国民はカルチャーとは思ってくれていないので)」

と主張していたのは、言い換えればここで言うクリエイティブ維持の為には作品を商品として収益化すべきでないという言説にも通じ、今後それが難しくなっていくという不安によるものだったのだと自分でも気が付きました。

 

そもそも大人(オトナ)と表現される理由

少々横道にそれた雑談的項目になりますが、そもそも音楽関係者や業界人を【大人(オトナ)】と呼ぶ事の違和感ってありますよね。

私も便宜上使ってしまいますが 、あまり良い呼称だとは感じていません。

 

以前書いた、

↑の記事で、ピカソによる

「子供は誰でも芸術家だ。問題は、大人になっても芸術家でいられるかどうかだ。」

という言葉を挙げましたが、自身の表現したいクリエイティブを継続し続ける人間を子供と表現するのであれば、ある種打算的にその作品を収益化する事に長けた存在は確かに大人と言えるような気もします。

 

自由なクリエイティブ(作品製作)を続ける子供(アーティスト)をたしなめる(収益化する)存在としての大人(業界人)。

とでも言いましょうか。

 

私はアーティストではなく、憧れやコンプレックスさえあるので、

「子供っぽいね。」

と言われるのは嬉しかったりもしますし、反対に

「大人だね。」

とアーティストに言われるのはあまり嬉しくはありません。

 

もし、アーティストの方で

「自分も大人なのに、なんで偉そうに腕組んでライブ見てる奴らが"大人"やねん!」

とネガテイブな気持ちを持たれた際には、"大人というのは芸術家では無い人のこと"だと認識して頂くと許していただけるのかもしれません、、、苦笑

 

最後に

ミュージシャン(アーティスト)は文字通り芸術家であり、作品は生めども商品は作りません。

反対に大人は作品を生む事ができず、その憧れからせめて商品にする事でアーティストの収益を作りたいと願いその仕事に就いています。

 

つまり、利害関係が一致しているので互いに揉めるべき相手では無いはずで、だからこそ度々見聞きするアーティストによる大人批判には胸が痛くなり、今回は揉めちゃう構造を言語化する事で、関係構築の最適化のお役に立てればと筆を取った次第です。

 

アーティストへのリスペクトやケアを最大限に行いたくとも資金がないと設備も人員も整える事ができず、だからこそ大人はそれを叶える為にお金にシビアで、そのシビアさをアーティストは嫌うという悪循環もあるように思います。

 

ですから過去記事で挙げた目標設定の共有や、意識的なポジションの違いへの理解が必要と感じるのです。

 

私は特に口頭だと伝え方が雑(結果しか言わない)なので、時にボロクソ言ってる印象を与えているのは自覚しているのですが、それだけ真剣でどうでも良い対象には熱くもならず何も言いませんし、「見返してやる!」に勝るモチベーションって案外あまり無いとも思っているので、これからもそれを直さないかもしれませんが、もし似たタイプだという奇特な方がいたら一席設けて熱く語りましょう。笑

 

ではまた明日◎ 

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