TINY MUSIC LIFE

音楽を仕事にする方法やビジネス論、考察や小ネタなどをお届けする音楽情報ワンパーソンメディア。by TINY RECORDS八木橋一寛

音楽業界のおおまかな未来予測【収益モデルの変化】

「音楽業界で働きたいけど、見通しの立つ業界なのだろうか?」

と考える方も少なくないであろうご時世。

 

今回は、その見通しを立てるべく、おおまかな未来予測を立ててみたいと思います。

ひとくちに音楽業界と言っても、その中で何をするかで見通しも全然違いますよね。

 

一つ一つの業種を細かく掘り下げると、大変な文字量になってしまうので、今回は大まかとなりますが、大きな流れだけでも掴めるような未来予測をしてみたいと思います。

 

これから音楽業界に入りたいと考えている方や、すでに働いているけど業務を変えたい人のご参考になれば幸いです。

 

 

音楽業界にはどのような業種がある?

まずは音楽業界っていうものを整理してみます。

  • レコード会社(レーベル)
  • 事務所(マネジメント会社)
  • イベンター/プロモーター
  • ライブ制作会社
  • プレイガイド
  • 舞台監督や音響・照明などステージ周りのスタッフ
  • 音楽メディア(ライター含め)
  • 会場(ライブハウス・ホールなど)
  • 音楽配信会社

ほかにも舞台設営や特効、会場整理、物販会社、ライブカメラマンなど多数ありますが、分かりやすく一旦上記に留めます。

 

ざっと挙げてみてもこれだけ多岐にその業種は広がっています。(これでも十分多いですね。。汗)

 

そのそれぞれで、見通しに差異は出てくると思いますが、何はともあれアーティストが存在してこその業界です。

なので、細かな業種を見ていくのではなく、アーティストがどのような形で収益を出していけるのかを考えていくと、自ずとそれぞれの業種においての見通しも立てられるはず。

 

音楽アーティストの収益モデルとは?

現在の主な収益モデル

アーティストがこれまで、どのような活動から収入を得ているのかを見ていきましょう。

そう特殊な方法があるわけではないので、おそらく、どれも想像の範疇かと思います。

  1. 楽曲から得る収益
  2. ライブから得る収益
  3. 存在から得る収益

これだと少々、抽象的でしょうか。

わかりやすく、一昔前のいわゆるポップミュージック・バブルとも言える一大産業だった時代に照らして見るとこうです。

  1. CDを売る
  2. ライブのチケット売上や出演料
  3. ファンクラブ

現在と最も異なるのは、"CDを売る"と言う部分だと思います。

ご存知の通り、現在において"音源を楽しむ"為の手段は、かつてのCDやレコードを購入する形から、音楽配信サイトやサブスクリプション・サービスへと形を変えています。

 

"形が変わった"だけであれば話はシンプルなのですが、収益化において今と昔で大きな違いがあります。

結論から言うと、音源で収益を出しにくくなっているのがこの数年直面している懸念材料です。

 

もちろん、サブスクリプション・サービス(SpotifyやApple Musicなど)でも収益はあります。

「サブスクは全然収益にならない」

 と言うアーティストの声であったり、ニュース記事などをSNSなどでも見た事がある人もいると思います。

 

そのアーティストによって結果が変わるので一概には言えないのですが、私の認識や肌感ですと、案外収益になるとも感じています。

これについては、それだけで長くなりそうなので、また次の機会に詳しく書きたいと思います。

 

フィジカルとサブスクリプション・サービスの違い

CDやレコードなどフィジカルと呼ばれるフォーマットと、サブスクリプションには大きな違いが2つあると思います。

  • 一つめは、音源そのものを所有するか否か。
  • 二つめは、リスナーへの接触機会の違い。

だと考えています。

 

まず、一つめについて。

ここで言うまでもなく、ミニマリストや断捨離がトレンドになる現在です。

これまでのように、レコードやCDという場所を取り、持ち歩きにもかさばる物をわざわざ所有するのは、今となっては何らかのこだわりがある人だけでしょう。

かつては、毎月100枚以上レコードを買っていた自分ですら、今は1年に数枚しか買っていません。。。

 

これ以上に大きな理由としては、消費者にかかるコストの違いです。

そもそも1年に数枚しかCDを買わないような方にはさほど大きな差は出ないと思いますが、買っていた人ほど使う金額が変わってきます。

 

1年に100枚のCDを買う人がいたとします。

1枚3,000円だとしたら、1年に300,000円を音源を聞くために消費している事になります。

 

サブスクリプション・サービスだとどうでしょう。

月額で1,000円程度として12,000円ほどです。

しかもそのサービスに登録しているアーティストの楽曲は聴き放題です。

 

消費者目線で考えれば、フィジカルの売上が減少し、サブスクが伸びるのは至極当然の結果かもしれません。

買いに行く時間の時短にもなりますしね。

 

 

次に、二つめについて。

ここでは、"リスナーへの接触機会の違い。"と挙げました。

テレビやラジオ、映画などで耳にして気に入って好きになる。という接触の機会(出会い方)は現在も変わらずあると思います。

 

違いというのは、それ以外です。

パッケージ販売が主流の時代は、先に書いたテレビやラジオなどで聴いた事がない場合には、CDショップの試聴機で聴くほか、買う前に曲を聴く術がありませんでした。

運よく試聴機に入っていれば良いですが、例えば僕のような一般的にはマニアックな音楽を好む場合は、その音源はおろか、そのアーティストの曲を一度も聴いた事がない状態で買う事も普通でした。

 

サブスクリプション・サービスはどうでしょう。

自分が契約しているサービス内の楽曲であれば、聴けますよね。

というか、"好きな時に聴ける"事をゴールとすれば、買う行為がいらないわけですから聴けた瞬間に目的を達成しています。

 

"接触機会の違い"に戻りましょう。

パッケージ販売の時は、店頭まで足を運び試聴機で聴く。

サブスクでは、自宅で何でも聴ける。

その事も大きな接触機会の違いですが、最大の違いがあります。

 

プレイリストです。

極端に言えば、「アーティストや楽曲を選ぶ時代から、プレイリストで選ぶ時代」にシフトしたとさえ言えるかもしれません。

ただ、"接触機会"で考えると、アーティストにとってこのシフトは、良いことはあっても悪いことはないはずです。

既に聴きたいアーティストや楽曲が決まっている人は、パッケージ同様、好みのアーティストや曲を選んで聴けば良いだけですし、それに加えてプレイリスト経由で新しいリスナーに聴いてもらえる機会が増えたのですから。

 

ですので、アーティストの認知・ファン拡大という意味では、可能性は広がったと私は考えています。

「じゃあ未来が拡がって良かった良かった◎」

で済めば万々歳だったわけですが、ここでネックとなるのが、アーティスト側の収益化となってくるという訳ですね。

 

フィジカルとサブスクの収益構造の違い

サブスクは儲からない。

と言われるのは何故なのか?

 

改めて、サブスクリプションをwikipediaで見てみると、

商品ごとに購入金額を支払うのではなく一定期間の利用権として料金を支払う方式。

とあります。

 "商品ごとに購入金額を支払うのではなく"というのがポイントです。

 

消費者は、固定の月額を支払っている為、ミリオンセールスの楽曲でも、300枚を売り切るのが精一杯の楽曲でも、動いている総額に変わりはありません。

 

定額徴収で集まった売り上げを、

【再生単価×再生数】

で算出して、それぞれのアーティストへ分配するのが、収益モデルになっています。

 

フィジカルの場合の売り上げというのは、

【販売単価×販売枚数】

です。

この売り上げは、アーティスト側(レーベル側)で管理ができますが、サブスクリプションはプラットフォーマー側が一旦管理をします。

 

そして、消費者が「このプラットフォームに定額料金を支払おう」と思う動機は、そこで聴けるアーティストの楽曲に対してです。

 

宣伝予算や認知度の大きなアーティストほど、売り上げに上限が無いフィジカルの収益モデルの方が、収益を最大化できる可能性が高いです。

 

アーティスト側(レーベル側)目線で考えれば、自分達で楽曲を生み出し、制作・宣伝費用をかけて、認知度やファンを拡大しているのですから、最大限の収益化をしたいのは当然ですし、極力動くお金もコントロールしたいのも当然と言えます。

 

再生数次第でフィードバックがあるにしても、立て付け上、サブスクリプションは"最大化"とは言い難いでしょう。

 

近年では大半のアーティストがいわゆる"サブスク解禁"をしていますが、ビッグアーティストやレコード会社がなかなか解禁をしなかった大きな理由は、このような事からになります。

 

逆に、宣伝予算の少ない(無い)アーティストにとっては、人気のプレイリストに入ることができれば、新たなリスナーに聴いてもらう事ができますし、予想外の再生数を叩き出せる事もあります。

プレイリストから不意に流れてくる楽曲というのは、どれだけプロモーションや制作予算をかけ、どんなルックスで、どんなタイアップがついていて、どんな会場規模でライブをしているかは関係ありません。

普段はさほど大きな会場でライブをしていないようなインディペンデントなバンドが、サブスクの収益で月に何十万円売り上げているという事例はいくつも耳にしています。

 

これは非常に未来のある素晴らしい事だと思っています。

 

ですが、流石にいくら良質な楽曲ばかりが揃ったプラットフォームでも、予算をかけた大きなアーティストの楽曲が登録されていなければ、そもそものリスナー(定額課金者)を囲い込めない為、ビッグアーティストよりも小・中規模のアーティストにとってメリットの強い収益構造と言えるのかもしれません。

 

収益モデルのシフト 

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コンサート・ビジネスの現状

音源ビジネスに関しては、フィジカルからサブスクへ以降が進み、収益構造的に過去のような大きな収益を音源単体から生み出す事が困難になってきました。(もちろんこれだけが理由ではなく、単純に少子高齢化や、国内の経済的な理由、娯楽の選択肢の増加等々あると思いますが)

 

ACPC(一般社団法人コンサートプロモーターズ協会)の調査資料などでも、数年前の時点で既に、コンサートビジネスがCDや配信の収益を上回っていたかと思います。(すみません。正確な資料も持ってはいたのですが無くしてしまい、出典も失念してしまいました。。)

 

業界全体がライブに収益化の目を向けています。

言うまでもなく音楽フェスティバルのブームも一因でしょうし、特に邦ロックやロキノン系と呼ばれるような国内アーティストに特化した音楽フェスの隆盛によるところが大きいはずです。(これについても改めて深掘りして今後書きたいと思います)

 

ライブ会場も、200人キャパ以下のいわゆる小規模ライブハウスは、やや供給過多で飽和状態な印象は受けますが、キャパシティ300ないし500人を超えてくると、会場の日程を抑えるのも困難なくらいコンサート需要が増えています。

 

ライブやフェスを楽しみたいというリスナー側の需要の増加もあるでしょうし、アーティスト側としては、音源収益が落ちた分、ライブでそれを補う必要がある。という理由もあるでしょう。

 

数年前までは業界内でも「音楽フェスが乱立しすぎていて、もう頭打ちではないか?」と言った議論や意見も多くありましたし、私自身もそう感じた事がありましたが、現在でも軒並みチケットセールスは良好です。

 

大規模なライブハウスやホールなどについては、会場不足が嘆かれて久しいほど、その需要は高まっています。

 

本記事は"アーティストの収益モデルからの未来予測"なので、アーティスト目線でこのライブ・ビジネスを考えてみましょう。

 

ライブでの収益構造

ワンマン公演やリリースツアーなどは、アーティスト側の仕切りで行われます。

【チケット単価×販売券数】

が売り上げとなり、この売り上げから諸経費を差し引いたものがアーティスト側の取り分になります。

"ライブビジネス"をアーティスト目線で考えると、収益の最大化はこの形になるはずです。

但し、デメリットとしては当然、チケットが売れない場合というリスクが発生します。

 

 フェスやイベントでライブを行う場合は、

【出演料】

を主催者からもらいます。

メリットは金銭的なリスクがない事や、自分達を初めて見るお客さんに露出ができる事による新規ファンの獲得ですが、動員に関わらず収入が固定化されている為、収益の最大化とは言えません。

 

この2通りのバランスを考え、露出と収益を調節しながらライブ活動を行なっているのが今日の状況と言えるでしょう。

 

概ね良好と言えるライブビジネスではありますが、収益化においては最大のネックがあります。

ライブにはキャパシティ(上限)があるという事です。

CDを販売するように100万人に商品を販売するようにはいきません。

であればと、ライブ本数を増やそうにも、一年は365日という上限がありますし、アーティストにも体力の限界はあります。

会場も好きなタイミングで無限に抑えられる訳ではありません。

どんなに人気のアーティストでも、ライブで作れる収益には天井があるのです。

 

これからの収益化とは?

音源販売に替わる青天井の収益モデルを

ここまでで書いてきたように、

音源はCDからサブスクに移行し、過去のような収益は生み出せない。

コンサートビジネスは良好ではあるが、収益に天井がある。

としたら、ではどのようにすればアーティストは収益を増やしていけるのか?

 

となれば、冒頭で3番目に挙げた"存在から得る収益"になってくると考えています。

過去のモデルと言うとファンクラブと書きましたが、その通りファンクラブも大きな収益だと思います。

 

音源のサブスクリプション・サービスと同じく、ファンクラブも年会費または月会費を集めます。

配信プラットファーム同様、ファンクラブを管理するプラットフォームもありますが、配信と異なるのは、"どのアーティストに対して支払っている"というのがはっきりと分かる"という点です。

 

【年会費(または月会費)×会員数】

がそのまま収益となります。

 

この場合、キャパシティがある訳ではないので、天井はありません。

あるとしたら"天井は人口"でしょう。

 

ファンさえ生み出す事ができれば、上限なく収益化が図れますので、従来通りファンクラブと言う収益モデルは勿論悪くないと思います。

 

交流や企画参加を商品と位置付けるオンラインサロン

但し、ちょっと古臭い印象もありますし、もうちょっと現時代的に言い換えると、オンラインサロンはファンクラブを発展させたモデルかもしれません。

 

SNSの発達により、過去は手の届かなかった憧れ(アーティスト)との距離が劇的に接近しました。

昔(80年代とか)に良く聞いた「アイドルはウ○コしない」のような過度な幻想もないでしょう笑。

 

以前のファンクラブの会報のような近況報告は、無料でSNSでアーティストが既に発信しています。

会費をもらうに値する付加価値を消費者に提供しなければ、大好きなアーティストだとしても、固定でお金を支払うのは難しいと多くの人は感じるでしょう。

 

その"会費をもらうに値する付加価値"の実装にオンラインサロンが向いていると感じている訳です。

 

音源はサブスクで聴ける、ライブはチケットを買えば観れる、近況やプライベートはSNSで知れる。

となればどうしましょう。

 

残っているファンの需要としては、"アーティストと交流ができる"、"アーティストの活動に参加できる"

このようなものになるのではないでしょうか。

SNSのようなオープンな場では、管理が届き切りませんし直接的な収益にはなりませんが、有料のクローズドの場であれば、その両立が可能だと思います。

 

例えば、会員の質問にアーティストが直接答えてくれるだけでも良いでしょうし、会員に企画を募っても良いでしょう。もしデザインが得意な会員がいればデザイン案をもらったり、ツアータイトルを募集しても良いかもしれません。

それらを必ず採用するかどうかは置いておいて、ファンが出した意見を取り入れる可能性を持った場を提供する事に、需要があると思っています。

 

そのアーティストを好きだという共通点をきっかけに、ファン同士の交流やコミュニティもより深まる点も大きな需要になり得ます。

ファンクラブは、【アーティスト→会員】という構図ですが、

オンラインサロンでは【アーティスト↔︎会員】や【会員↔︎会員】と、双方向なコミュニケーションが可能です。

特に、ファン同士の交流を強化できるというのは、ことの外、大きなメリットです。

(ちなみに、この交流によるクラスタ化の成功が、邦楽ロックフェス隆盛の大きな要因だと私は考えています)

 

まとめ

書き始める前は、サクッと端的に書くつもりでしたが、またしても非常に長くなってしまいました。。

 

長々と書いた結論をまとめると、「CDが売れなくなっていて、ビッグアーティストも減っており、音楽業界は厳しい」と言われて久しいですが、「そうでも無いと思いますよ」という事です。

業界内で厳しくなっている業種もあるけれど、伸びている、もしくは新たに出てきている業種があるので、立場によっては"厳しい"業種があるだけだと思います。

 

ですがやはり、90年代〜2000年代前半のように、CDなど音源の販売で大きな収益を出すことが困難な時代であることは間違いありません。

フェスやコンサートは好調さを保てていますが、収益化には天井があります。

ここでは、音源販売に変わる青天井のモデル例にオンラインサロンを挙げましたが、何れにせよ、その青天井モデルを考えて実行することに、アーティストや音楽業界全体としての未来があるのでは?と思っています。

 

その青天井モデルとして、オンラインサロン、またはそれに類するアーティスト側管理の定額型の収益モデルが最適ではないかというわけです。

コアファンのみをターゲットにしているので、グッズなどもサロン限定にすれば在庫リスクの無い受注制作をやりやすいですしね。

 

アパレルでも飲食業などでも、我々みんなの所得でも、格差の拡がりが叫ばれていますが、こう考えてみると音楽アーティストだけは、その逆かもしれません。

 

ビッグアーティストは生まれにくく、インディペンデントなアーティストはチャンスが増えている訳ですから、格差は明らかに縮まっていますよね。

私のようなインディーアーティスト好きにとっては、ちょっと嬉しい、やりがいのある状況なのかもしれません。

 

これから音楽業界へ飛び込もうと考えている人や、音楽業界の方で転職を考えている人のちょっとした参考や考えるきっかけになれれば嬉しいです。

 

ではまた◎ 

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