TINY MUSIC LIFE

音楽を仕事にする方法やビジネス論、考察や小ネタなどをお届けする音楽情報ワンパーソンメディア。by TINY RECORDS八木橋一寛

時代は思うほど急に変わらないので、音楽業界もそうかもしれないというお話

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速度的な世の中・時代の変化を多くの知識人やビジネスパーソンが声高に唱えて久しいです。

 

今年42歳を迎える私ですが、これまでそういった方々の未来予測がその通りに進んだ事を記憶の限りではほとんど感じた事がありません。

 

”変わりそうな機運”のようなものは都度感じるものの、「これは無くなる!」とか「これをしておかないと終わる!」と言われていたものは、案外そのまま変わらずに残っていたりするのです。

 

現在で言うと、

「テレワークが進み、通勤が無くなり東京に住む意味が無くなる。」

とか

「テレワークにより勤務状況が可視化され、能力の無い社員は淘汰される」

とか

「小売店員や飲食店員など低賃金の作業労働はAIに代替される」

とか

「フリーランスや個人の時代になる」

とか

「コト消費として価値を持っていた多くのリアルはオンライン上に代替される」

とか

「多くの業種で定額サービスが行われることなどから、低所得でも幸福度を高められる時代になる」

などなど。

 

他にも沢山ありますが、これらの多くの主張は数年、10数年という近い将来の話として語られる事がほとんどです。

 

基本的には私個人としても「そうなってくれた方が有り難いかな。」と感じるような見立てが多いです。

しかし、理屈は負に落ちるのですが、それでも私にはどうも言っているようなスピードでそのような変化が起こる気がしません。

 

最初に書いた通り、これまで幾度も「そんな時代が来るかも!?」という期待や不安を持つ度に、「そういえば結局そんな風な時代の変化は無かったな。(もしくは数十年かかったな。)」と思わされ続けた為です。

 

ここは音楽関係のブログなので、そんな風に叫ばれている時代の急速な変化予測が、音楽業界やシーンにも本当に当てはまりそうなのかを私なりに考えてみたいと思います。

 

 

音楽ソフトや視聴環境の変遷

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私が生まれる以前の話はニュアンスが掴めないので、物心ついた以降の変遷を。

 

私が小学生の頃(1980年代中〜後期)は、アナログレコード主流の時代からカセットテープも普及し浸透していた頃だったと記憶しています。

小学校一年か二年生あたりの頃に、『デンジマン(特撮ヒーローですね)』とか『キン肉マン』のカセットテープを買ってもらった記憶があります。

 

CD自体は1982年に販売が開始されているそうですが、広く普及し始めたのは1980年代の後期〜1990年あたりだったと思います。

私でいうと小学校五〜六年生あたりにはクラスメイトもみんなCDを買ってもらうようになっていました。(私で言うとKANとかZARDを買ってもらった記憶があります。)

 

中学に上がると、パッケージソフトとしては完全にCD一択になり、カセットテープはそれをダビング(コピー)するソフトとしてのみ利用するようになります。

1992年にはMDがソニーから発売されますが、私に関しては正規音源購入はCD一択、ダビングはカセットテープのままという形を貫いていましたが、周囲はレンタルCD店などで借りた音源をMDにダビングするというスタイルが多かった印象です。

 

私の場合は高校一年生あたりからアナログレコード収集にシフトした為、やや特殊だったのですが、その後2000年を超える20代前半までカセットテープは自分がセレクトしたアナログレコードの音源をダビングして、友人やイベント来場者にプレゼントするという事を続けていました。

 

その頃まではまだ、自宅にカセットテープを再生できる環境は多くの人にありましたし、車のカーステにもカセットデッキは標準装備されていたはずです。

 

まだ若かった事もあり、当時は音源再生のハードが更新されていく未来をあまり考えた事もありませんでしたが、2002年のiPod発売以降、この点に意識的になっていきます。(私が通販のみで中古レコード屋を始めた年だったのですね。)

 

アナログレコード収集やレコードでのDJ、更にレコードの通販まで始めていた私は、この爆発的ヒットのiPodには目もくれず、とにかく音源はレコード(レコード化されていなければやむを得ずCD)を買い続けていました。

ただ、「レコードはもう一部のマニアかDJしか買わないな。。。」そんな機運はひしひしと感じていました。

 

この時点でも尚、CDに関してはMDやダウンロード販売がスタートしても、大きな売上減少は見られず、大型CDショップなども勢いがありましたし、ミリオンヒットもまだまだ健在で危ぶみの声は多少上がれど盤石感は保っていたと思います。

 

最大の転機が2008年iPhone 3Gの発売でしょう。

iPodもユーザーは拡大していましたが、私のようにそれでも尚、レコードやCDといったソフトを単品購入して消費するユーザーも、iPhoneや以降発売されるスマートフォンを持つ事になり、ある種強制的にiPodなどのダウンロード販売に触れるハードを持つ事になりました。

 

加えて、YouTubeもすでにPC上ではローンチしていましたが、スマホ普及により多くのミュージックビデオがスマホ上で観れるようになりました。

 

ダウンロードで購入すらせずとも、1曲フルで聴くことができるのですから、その頃すでに渋谷に店舗まで構えてしまっていた私には複雑な心境でした。。。

(おそらくお金払わないで音楽聴く人をボロクソ言ってた気がします。苦笑)

 

テレビを中心としたメディアへの露出量がセールスにある程度直結する構図はこの頃まだまだ健在だったので、ライト層は引き続きメディア露出される楽曲の中で好きな曲やアーティストに出会い音源購入をしていましたが、「自宅で好きな時に聴きたい!」という欲求はYouTubeで解消されていくようになります。

 

コア層は好きなアーティストやレーベル、プロデューサーなど自分の経験則に照らして試聴すらせずに音源購入をする層に支えられていた部分もあったように思っていますが(自分がまさにそういう買い方だったので)、YouTube上で無料試聴できるようになった事で、一度聴いた上で気に入った物のみを買う流れに向かったように思います。

 

一方で、YouTubeは都度聴きたい曲を検索して再生をする必要もあるので、移動中の試聴には不向きな面もあり、所有物としての音源の需要は大きくは失わずに着うたやiTunesでの音源データ販売は、CD販売減少を補う一定のセールスを確保していました。

 

パッケージソフト販売はAKB48を筆頭とする特典商法以外は散々たる状況になりつつも、ダウンロード販売に光明を見る流れに、2016年日本でもサービス開始となったSpotifyがトドメを刺します。

 

「所有からアクセスへ」

という時代に風向きが完全に変わった瞬間だったと思います。

 

レコード〜ダウンロード販売まで保ってきた"楽曲単体に対して購入をする"という消費に対しての、手間や支出の大きさが浮き彫りになりました。

 

2020年現在もSpotifyをはじめとする音源配信サブスクリプション隆盛は続いています。

まだこの流れは続きそうに私は感じていますが、付け加えるなら、映像をこの音源サブスクに更に紐付けたサービスが進むのではとは感じています。

 

都度叫ばれた危惧

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所有からアクセスへと変化する一方で、アナログレコードもカセットテープもCDもダウンロード販売も存在はし続けています。(MDだけは完全に消滅しましたがそもそもシェアは一瞬さえ取ってはいなかったので。。)

 

無論、大きな企業が経営を続けられるような収益規模にはなりませんが、新たなハードやサービスが登場する都度、前世代のものは「きっと無くなる」と言われていました。

 

私自身、2009年にレコード店を廃業し、

「"場"や"情報消費"は無くならないだろう。」

と、ライブコンサート業界やメディア業にシフトした訳で、それから10年以上経った現在でもレコードショップがこれだけの店舗数まだ残っているとは思いもしませんでした。

 

カセットテープが昨今のような脚光を浴びている事も思いがけぬ出来事でしたし、物として所有せずアクセスのみで音楽が聴ける今でも音源のダウンロード消費は一定数売上を作っています。

 

ここまでは音源消費についてばかりを取り上げていますが、多くの他の消費やサービスにも当てはまると思っています。

 

フジロックを皮切りに爆発した音楽フェス・バブルも、私だけでなく多くの音楽関係者は「流石にこの好調は長くは続かないだろう。」と見立てていましたが、コロナショック直前まで右肩上がりを続けていました。

 

アイドルブームにしても同様です。

その勢いこそ天井を叩いた感はありますが、一定の分母は確立して今や完全なカルチャーとして認知されていますし、今度消滅するほどの衰退が起こるとは私は思えません。

 

SNSやYouTube、D2Cの台頭・隆盛で、真っ先にその存在価値が揺らぐと思われたレコード会社は今もほぼその数を変えずに存在しています。

(大手レコード会社の場合、過去のヒットアーティストの権利を収益源としているのも大きいですが。)

 

LiveNation(ライブネーション)のように音楽業界は360度ビジネスが業界を席巻すると言われて久しいですが、日本においてその潮流はレコード会社がマネジメントにも着手し始めている程度の変化しかあまり感じることはありません。

 

特殊環境である日本を世界と等しく予測するべきか

年功序列による改革ブロック

私は社会学者や経済学者など大層な存在ではないので、難しいことは分かりませんが、地理的要素や言語の違いにより、ここまで書いた

「思うほどの速度では変わっていない。」

という現象が日本で続いているようには感じています。

 

また、「崩壊した。」と多くの知識人が言う"年功序列"は私が見てきた中では、全くと言って良いほどに崩壊していないとも思っています。(年齢による起業ハードルは無くなっているとは思いますが。)

 

ひとつこの変化の速度を遅らせている要因は、年功序列が続く為に多くの音楽業界の上層部はイコール高年齢となっています。

 

50歳の方であれば定年までのあと10年15年、「余計な変革はせずに今まで行ってきたビジネスモデルが延命できれば御の字。」という心理はどうしても起こってしまうでしょう。(私だってそう思う事は無くはないので仕方がない事として。)

 

例えば、YouTubeにアップをするMVをショートVer.にする意味は、現在のプロモーション上、プラス要素があるようには思えないとメインユーザーであるそれ以下の年齢の人であれば感じるでしょう。

大きなレコード会社所属のアーティストが、サブスク配信を控えたり遅れたりも大半のアーティストにとってはプラスではないと感じますし、それにストップをかける高年齢者もその自覚はきっとあるのではないかと思います。

過去にも触れたジャスラックなどはその顕著な例かもしれません。

あまりに大きな変革となれば、その技術やスキームについていけずに、存在感や威厳を落としてしまうという恐れもあるかもしれません。

また、単純に理解はしたいけれど、世代ギャップにより分からないという事もあるかもしれません。

 

これはきっと、音楽業界に限らず、他業界でも政治家にもある心理だと思いますが、一言で言えば、

「変わると困る人がいるから。そしてその困る人が上層部に多い傾向によるもの。」

そんな所かと思います。

 

「年功序列は崩壊し、能力主義の時代になる」

とは言いますが、そこに守られてきた人にとってはたまったものではないでしょうし、組織内であれば、その能力を評価する人が年功序列に守られた人では本末転倒なので、現実にそんな風な時代になるのには、語られている以上の年数が必要になるのではないかと私としては感じてしまいます。

 

加えて、これも社会学者や民族研究家とかではないので、印象や肌感覚でしかありませんが、変化をあまり求めない保守的な思考だったり、"所有"に関してはマニアックと言いますか、コレクター気質になり得る人が多いなどといった国民性による部分もあるのかもしれません。

 

国内マーケットの高い収益性

そして最も大きいのは、国内アーティストによる国内マーケットのみでの収益化が長年高い水準でキープし続けてこられた事だと思っています。

 

先進国の中で人口が1億人を越えているのは日本とアメリカのみとは良く耳にしますし、GDPも中国に抜かれたものの、まだ世界3位となっています。

シンプルに国内マーケットの巨大さゆえに、ある種クローズして国内アーティストが市場を占めた方が利益率もそのコントロールも都合が良いでしょうし、邦ロック(ポップ)全盛はこの10余年維持され続けています。

 

個人的には「もう少しバラエティに富んだヒットチャートや大ブレイクを見たいな。」程度には思ったりはしますが、その良し悪しは人それぞれ感じるところがあるでしょうし、何が正解という話でもないので言及しませんが、事実として、マーケットを彩るアーティストはドメスティックがそのほとんどを占めている状況ではあります。

 

これらの理由などにより、市場は巨大ながら、変化の速度は緩やかだった日本の音楽市場の未来を語る上で、

「今アメリカではこうだから日本でもすぐにこうなる!」

「中国の時代が来るから日本もこうなる!」

という言説は、音楽業界に限って言えばすんなりと同意しかねてしまう所もあります。

 

そんな中でも、サブスクプラットフォームを戦場に、音源を武器に海外での認知・人気拡大を目指すアーティストや、海外でのライブを積極的に行ったりそれを視野にしたアーティストは確実に増加傾向にあります。

 

国内の少子化や音源からの収益の低下、隆盛の音楽フェス市場も流石に天井叩いたのでは等々、海外をマーケット視野とする理由は様々かと思いますが、ここで大きな成功事例が出来上がってくると、音楽業界においてもグローバル化の加速が起こるのかもしれません。

 

最後に

毎日、

「今日は何を書こうかしら。」

とPCを開いて思うまま一筆書きをしているのですが、書き始めた時には「今日はライトな置きに行った内容になるかも。」と思っていたはずが、おそらく過去最長の6,000字も書いてしまっていました。。。

 

そして本文では書き忘れてしまいましたが、音楽業界でいうと最も現在言われている"ライブ配信の時代"についても、ここでの文脈的に照らすと、言うほどの高水準なスタンダード化はしないのかもしれません。

 

コロナが終息し、再開さえできてしまえば"場"の価値は一層高まるでしょうし、そこへの誘引やコミュニティ形成手段としてオンライン上でのライブ配信は価値を高めるとでも言いますか。

 

長々と書きましたが、これだけ年月を経てどれだけ時代の移り変わりが叫ばれていても、完全に存在しなくなった業種を私はまだほとんど見た事がないので、強い思いや主張があるというよりも単純に、「時代、全然変わらないよなぁ。」と思ったというお話でした。

 

あと、こちらのブログ含めたTINY RECORDS(私の)LINE@、自動応答から私の方でトークの応答をできるように設定を変更してみましたので、「これを書いて」や「質問なんだけど」などがありましたら、ご遠慮なくお送りくださいませ。(書くネタも欲しいので。苦笑)

 

ではまた明日◎ 

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