依然として、出口も見えず苦しい状況の続くライブイベント業界。
そんな中、ようやく緊急事態宣言が解除となり、動員規模によっては段階的に観客を入れたライブイベントの再開のメドは立ってきました。
当然そこには一定の距離を保つことや、十分な換気や消毒などのコロナ対策が求められます。
難しい状況に代わりはありませんが、「観客を入れる」という次のタームに入ったとも言えるこのタイミングで、ライブイベント業界の収益回復について次のステップを考えていきたいと思います。
【目次】
現在の状況のおさらい
このブログでも、この難局の打開の難しさについては既にいくつかの記事を書いてきました。
STAY HOME/新型コロナウイルス関連 - TINY MUSIC LIFE
現在、多くの会場や主催者、アーティストによるライブ配信への注力が見られています。
ですが、他のカルチャーやエンタメに比べ、”ライブ”と呼ばれるだけにその現場で生で体験する事ができないという状況は、アーティストのモチベーション的にも、ファンに対しての求心力や満足度的にも、会場の収益にしても、コロナ以前の環境には届かない可能性が高いという考えも、過去の記事で書かせていただきました。
また、経営的にこの苦境を乗り越える事のみを考えるのであれば、業態のピボットを行うのが現実的ではないかという私個人的な見解も、同じく過去の記事で述べさせていただいています。
コロナ禍での観客を入れたライブイベントの再開
コロナ以前とは異なる開催条件
緊急事態宣言の解除により、観客を入れたライブイベントの開催が見えてきました。
イコール、”チケット販売”という従来通りのビジネスの再開も可能となります。
ただし、冒頭に書いた通り、そのためにはコロナ対策が必要です。
政府からも、”コンサートや展示会などのイベント開催にあたっての目安”が出されており、それについては以下の過去記事を参照いただければと思います。
野外であるか屋内であるかといった事や、入場者数によって段階的に開催の目安が示されています。
観客を入れたライブイベントを再開するためには、この目安やソーシャルディスタンスをクリアする事が必要という事になります。
キャパシティの大幅減
いずれにせよ確かなのは、
「コロナ以前と同じキャパシティではできない。」
という事。
政府からの目安には”収容人数の半分程度以内”と記されています。
加えて、”ライブハウスには別途感染防止を検討”ともありますので、この目安はホールやスタジアム、野外イベントに対しての物と思われます。
キャパシティが減るという事は、販売できるチケットが減るという事なので、当然これまでと同じ会場で同じイベントを行っても収益はキャパシティの減った分だけ下がります。
少し逸れますが、収容人数の半分程度以内という点で、少し気になっていることもあります。
ライブハウスのキャパシティ設定は、消防法により定められた1人あたりの平方メートルに当てはめて算出していますが、立ち見で計算をするとかなり濃密な距離感です。
会場によっても異なりますが、1平方メートルあたり2〜5名が相場です。
実際にキャパシティの半分をライブハウスに入れた状態は、ソーシャルディスタンスと言える距離感ではないと言えると思います。
仮に2mのソーシャルディスタンスをライブハウスのキャパに当て込むと、場合によってはキャパの10分の1程度しかお客さんを入れられない可能性すらあります。
政府が良いと言っても、ライブハウスにキャパの半分も入れて感染者が出てしまったとしたら、世論(自主警察的な)が許してくれるようには現状は思えない不安も少々あります。。。
これはまあ追って示される目安次第なので今はなんとも言えませんが、最低でもキャパシティの半分は削る事になる事は間違いがなさそうです。
そして、ライブハウスに関しては更に削る必要に迫られる可能性が高いでしょう。
削られたキャパシティの収益補填
ライブ配信チケットの併売
削られてしまうキャパシティを嘆いていても仕方がありませんので、どこで補填が可能であるかを考えていきます。
既にライブ配信を無料ではなく、チケット販売や投げ銭などで有料化している流れは強まっています。
観客を入れた場合でも引き続きそのライブを配信して有料化する事で、キャパシティが削られた分の補填に充てれる可能性は高いです。
今回は”ライブの現場でのマネタイズ”にフォーカスをする為、これについては言及せずに次に進みます。
VIPチケットの拡充
ここからは、来場する観客(=チケットセールス)に焦点を絞って考えていきます。
販売できるチケット数が減り、同じチケット売上を作るとすれば、単価を上げるほか手段はありません。
となれば、海外の音楽フェスなどでは、特にEDM系を中心に数年前から推進されていますが、VIPチケットのような高単価チケットの拡充が現実案として浮上するでしょう。
海外に比べると通常のチケットとの価格幅は狭いですが、日本でも複数のフェスなどで既にVIPチケットに相当するチケットは販売されています。
高額チケットである事の対価としては、特別なエリアでのライブ観覧や、グッズやドリンク&フードなどのサービス、スムーズなステージ間移動やグッズ購入のような物が考えれられます。
これに加え、コロナ禍では”ソーシャルディスタンスの十分な確保”も強い特典になると考えられます。
VIPチケット購入者には、隣の観客と2m以上離れたスペースや座席を保証することが大きな付加価値になり得ます。
これまでの、1万円のチケットを1万枚売る努力を 、10万円のチケットを1000枚売る努力に切り替える。という考え方です。
チケットの高単価化の推進
VIPチケットについては、基本的には大きな音楽フェスやドーム、ホールでのイベントに限った考え方になります。
そもそもキャパシティの小さいライブハウスでは、VIPチケットと通常のチケットを差別化することが難しいです。
実際、コロナ以前に何度かVIPチケットを導入した小規模ライブハウスでのイベント開催を検討しましたが、差をつけにくく断念しました。
となれば考えられるのは、
「チケット価格そのものを引き上げる。」
という事になるでしょう。
小規模なライブハウスのチケット単価は2000〜3000円がボリュームゾーンになります。
わかりやすく言うと、これまで100人のキャパシティで営業していた店舗が半分の50人のキャパにするのであれば、チケット単価を2倍の4000〜6000円に引き上げるという事です。
「それはちょっと高過ぎるのでは。。。?」
と思われるかもしれません。
私自身も一寸そう思いましたが、大好きでどうしても観たいライブであれば、許容範囲な価格帯とも言えるのではないでしょうか?
実際にチケットの高額転売が問題になるくらいに、好きなアーティストのライブにはファンはお金の糸目はつけません。
キャパが削られれば今以上にチケットの価値は上がり、結局、高額転売されてしまうようにも思えます。
チケットの入手が困難になれば、アーティストはチケットの優先購入権を組み込んだファンクラブなどの有料サービスの会員を増やしてマネタイズができるでしょうし、会場やイベンターも同様のチケット優先購入サービスを作って収益化ができるかもしれません。
もちろん、これは既に多くのファンを抱えたアーティストに限った話にはなりますが、ライブハウスのチケット価格相場そのものが変われば、「ライブチケットの価格はそういうもの」と次第に認識が変わっていくようにも思えます。
とはいえ、学生さんなどの駆け出しのアーティストのライブが6000円となると流石に厳しいでしょうから、そこはまた考える必要はありますが。。。
リアル(生)の価値を強烈に高める
VIPチケットにしても、チケット単価そのものを引き上げるにしても、実現を目指す場合、これまで以上にリアル(生)の価値を高める事が必須になります。
しかし、その価値を高める策や努力は、特に必要がないかもしれません。
コロナにより、”外出をする”、”人と会う”、”人の集まる場所に行く”といった行動そのものの価値が見直され、音楽ライブやイベントは希少性にも似た価値の高まりが予想されます。
キャパシティが減り、チケットの入手の難しいイベントが増えれば尚更です。
そもそも音楽ライブには、好きな人にとっては強烈な魅力があります。
先に書いた通り、大好きなアーティストのライブや大好きなフェスに行く事に、金額は大きくは関係しないと思います。
もちろん、1ヶ月に何本もライブに行くような人にとっては、金銭負担が増えれば行ける回数は減るでしょうし、そうなれば幾らかの会場やイベントの淘汰は起きてしまうと思います。
これについては音楽を生業にしている私としても辛いところではありますが、消費者目線で言えば、この淘汰を避けるためにそれぞれの会場やイベントがより良いサービスの提供に勤めてくれれば悪いことではないと思います。
最後に
今回は、音楽業界全体ではなく、ライブ会場とライブイベンターにのみフォーカスした考察です。
別の記事でも書いていますが、個人的な意見としては、ライブ会場やイベンターは”観客を入れてチケットを販売する”というモデルでないと、十分な収益確保は難しいと考えています。
業種のピボットをすれば会社は存続できるかもしれませんが、それであればそこで働く意味が無くなってしまいます。
ライブ配信からも収益を上げることもできますが、音楽の場合は収益の柱になりにくい補助的な役割だと思っています。(アーティスト側はある程度可能だと思いますが、アーティストに出演料を支払う立場の会場やイベンターに関しては。)
スポーツや格闘技のように”細かな動きを見る”事の価値が高ければ柱にもなり得ます。
(そもそも既に大きな団体は放映権が収入の柱ですし。)
ですが、細かな動きを見ることの意味が薄い音楽ライブの場合、ライブ配信に強い価値を持たせることは難しいのではないかと思っているのです。
緊急事態宣言下では”打つ手なし”でしたが、今現在の状況で考えられる事としては、チケットの高単価化は唯一にして最良の手段のように思っています。
まあ、音楽業界全体で考えると、例えばAKB48や米津玄師のファンのほとんどは、楽曲は聴くしテレビに出ていれば見るけれど、ライブに行こうとは特に考えた事もないと思うので、こういった大きな層を主軸に考えれば、ライブ配信の方が伸び代はありそうな気もするので、この記事自体がライブ現場主観のポジショントークかもしれませんね。苦笑
ではまた◎