TINY MUSIC LIFE

音楽を仕事にする方法やビジネス論、考察や小ネタなどをお届けする音楽情報ワンパーソンメディア。by TINY RECORDS八木橋一寛

luteにみるYouTube音楽動画チャンネルの厳しさ

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THE FIRST TAKE(ザ・ファースト・テイク)については昨日の記事を含め過去に2度ほど触れてきましたが、それ以前・以外にも同種のコンセプチュルな音楽アーティストのパフォーマンスや音源・映像を配信するYouTubeチャンネルは複数存在しています。

 

代表的なチャンネルとしては、ネクストブレイクアーティストのプレゼン先として一定の影響力を持っていたlute(ルーテ)が挙げられると思います。

 

現在はTHE FIRST TAKEの一強・一人勝ちとこのブログでは評していますが、「では、他の音楽チャンネルの状況はどうなの?」という事について触れてみたいと思います。

 

結論から言うと、再生数のみで判断をするのであればTHE FIRST TAKE以外はやはり非常に厳しいものでした。

 

 

破綻から復活後のluteの大失速

1万回以上の再生は現時点でゼロ

2016年にavexグループ社員によってスタートし、2017年にはavexの社内ベンチャーとして法人化。

以降多くの会社から出資を受け、先鋭的でハイクオリティな映像コンテンツで話題を集めたluteでしたが、そのコンテンツに対する高評価とは裏腹に、収益性の低さがネックとなり内部分裂が起こり、代表が消息不明になったと言われています。

2019年12月に破産手続開始決定を受け、負債総額は約3億1000万円とされています。

 

その後、2020年4月には破産管財人による競売に掛けられ、luteの各権利はSkyrocket株式会社が落札。

2020年9月より、luteの映像配信はおよそ10ヶ月ぶりに再開される事となりました。

 

再開から3ヶ月ほどが経過し、再開から今日現在までに24本の動画がアップされています。(再開のティザー映像1本含む)

※再開時のティザー

 

再生数を目をやると、1万回再生を超える動画は0本。5000回を超えるものも4本しかありません。

チャンネル自体は破産以前のまま引き継がれていますので、10.5万人のチャンネル登録者を持ちながら、ほとんどの動画が3000回前後の再生数というのは相当にシビれる状況と見受けられます。

 

基本的に音楽関連動画は、MV(ミュージックビデオ)に最も再生数が集まるので、MV制作を請け負う代わりに自チャンネルでそのMV配信をする事で、多くの認知(再生数)を稼いでいたチャンネル初期と比較するのは酷ではありますが、それにしてもこのエンゲージメントの低さは異常と言えるほどです。

 

ネクストブレイクアーティスト発掘の機能不全

理由はいくつか考えられますが、最も大きな理由としてはアーティスト選定に対する信頼度の低下のように感じています。

 

状況としてはライブイベント主催と非常に似ていると感じていて、ネクストブレイクが次々に生まれるイベントにはそれを求めるファンが集まります。

ネクストブレイク、つまりその時点ではブレイクしていないアーティストなので、アーティストに対する報酬(ギャラ)も巨額ではありません。

イベントそのものの信用度が高ければ、ローコストで集客が取れる状態が作り出せ、アーティスト側(マネジメント会社)も場合によってはノーギャラやお金を払ってでも出演したいとさえ考えるという好循環に入ります。

 

最盛期のluteはその歯車がうまく噛み合っていました。

チャンネル登録者数も音楽特化のチャンネルとしては多く、100万回再生を超える動画もいくつも生んでいました。

「アーティストのチャンネルで出すよりも、luteのチャンネル内で出す方が多くのファンにリーチできる。」

こう考え、良質なアーティストが多く集まり、ファンはまだ見ぬフェイバリットアーティストとの出会いの場として信頼を寄せていたと思います。

 

しかし、10ヶ月のブランクや内部分裂からの破綻、運営会社変更を経ての再開後となると、アーティスト側もファン側も、そのままかつてのluteとして信頼を置くことは難しいです。

lute単体として法人化されていたとはいえ、業界内で信用度の高いavexグループ内だった事は黎明期のluteにとって非常に大きな要素だったはずです。

 

現運営会社のことは詳しく知らないのではっきりとした事は言えませんが、avexから完全に離れた状態でluteのステータスを維持するのは至難の業のように思えます。

破綻前の時点でも既に、luteの影響力は大きく下降気味だと感じていたので尚更です。

 

イベントも同様で、ひとたび人が集まらなくなってしまうと、同じイベント名を冠していてもアーティストへの出演交渉は困難になっていきます。

困難になりファンの期待する”ネクストブレイク”を提供できなくなってしまえば、集客も急降下するという真逆のループに陥ってしまうのです。

 

ワンアイデア・ワンコンセプトという強み

その間にチャンネルスタートし、一強状態にまで伸び続けたTHE FIRST TAKEに顕著ですが、YouTubeというプラットフォームの性質上、そのチャンネル単体の内容はバラエティに富んだ多岐に渡る物よりも、ワンアイデア・ワンコンセプトのチャンネルに視聴者が集まっている印象を受けます。

 

これは音楽に限らず、例えば料理チャンネルだったりバイクカスタムだったり、教育系だったりと題材が例えニッチであってもコンセプトが明確で統一されたチャンネルが近年は伸びているとも言われてもいます。

 

近年スタートしている音楽系チャンネルに目をやると、アーティスト同士の対談にコンセプトを絞った「MUSIC FUN !」や、御宅訪問や愛用品紹介などアーティストのプライベートな側面を切り取る事に特化した「McGuffin」あたりが代表的なものとして挙げられそうです。

 

 

 

海外で言うと、オフィス内で音響設備もない中で行う「Tiny Desk Concert」が代表的と言えるでしょう。

 

この流れを最も分かりやすく、かつ高い製品性、そして需要に沿ったアーティストセレクトでブレクスルーしたのがTHE FIRST TAKEに他ならないと考えています。

 

しかしTHE FIRST TAKEの"一発撮りの配信"というアイデア自体が画期的だったかといえば全くそうではありません。

上に挙げた以外にも、シチュエーションを限定したライブパフォーマンスを配信するチャンネルは複数存在していましたし、むしろ出遅れているくらいでしょう。

 

以前の記事でも書きましたが、THE FIRST TAKEはブランディング、映像クオリティ、アーティスト選定、プロモーションに渡って、チャンネルを消費者に訴求する際の製品にする力が圧倒的だったと考えています。

 

luteに話を戻すと、黎明期以降はインスタグラムのストーリーズ番組の開始や、YouTubeチャンネル内で映像はテンプレートを使い音源のみを流すTune Coreと組んだ「lute music」と題した配信を連発したあたりから需要との乖離が生まれたように思えます。

 

特に後者は、映像を目当てに伸びていた登録者に対し、テンプレ映像に乗せ音源を単に流すだけの動画ばかりを配信する格好になるわけですから、登録の離脱要因にさえなりかねません。

YouTubeのアルゴリズム上も、チャンネル内で再生数の低い動画の比率が高まるのはマイナスだったかもしれません。

 

最後に(まとめ)

再開後、軌道に乗り切れてはいないluteを軸に話を進めたため、luteに対してネガティブな言葉が多く感じてしまったかもしれませんが、もともと非常に好きなチャンネルでしたし(知り合いも複数いましたし...)、セレクトするアーティストもTHE FIRST TAKEの何倍も好みです。

 

内容も良質なだけに、あれだけ一時は勢いのあったluteがここまで再生数が取れていないという状況をみて、シンプルに「YouTubeムズぅ...。」と恐怖したもので、今回はこんな話題を書いてみました。

 

現時点ではTHE FIRST TAKE一強状態ですが、音楽関連の映像コンテンツは今後グイグイ伸びていくと考えていますので、次にどこがブレイクスルーするのか楽しみにウォッチを続けたいと思います。

 

ではまた明日◎ 

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