私が音楽関係の仕事を続けるにあたってのモチベーションになっている事がいくつかあります。
そのうちの一つに、
「自分が良いと感じている駆け出しのアーティストが目標に到達する事」
があります。
過去にも書いた通り、この目標はアーティストによりそれぞれなので、単に売れれば良いという物ではないと考えています。
中でも、「売れる」という事が目標に設定された際において、幾度も感じた引っかかる点があります。
アーティストの年齢が障壁となる場面です。
ビジネス的な話であるほどに、アーティストの年齢は上がるほど話の成立難度は高まる傾向にあります。
この事については忖度なしで言ってしまえば、
「それも分かる部分もあるけれど、素直に納得はしたくない。」
と感じ続けています。
今回はこの、”音楽アーティストの目標到達と年齢”がどのように捉えられているのかについて書いていきたいと思います。
若さが問われる場面
まず、どのような場面で私が”幾度も引っかかると感じた”のかについてを説明します。
前提として、"目標到達までの障壁として引っ掛かりを感じた"という話になるので、新人など駆け出しのアーティストに関しての話となります。
すでに大きなファンベースを持つ、いわゆるすでに”売れている”アーティストについては今回の対象にはなっていません。
非常にわかりやすい話でいうと、良く見る
「メジャーデビュー決定!」
のような場面。
これが40歳や50歳のアーティストという事ってあまりないと思います。
ほとんどが10代20代でしょう。
メディアなどで「ネクストブレイクアーティスト!」のような特集を見ていても、30代以上のアーティストが取り上げられている事も同じようにあまり見かけないはずです。
芸術や文化に、創作者や表現者の年齢は関係がないようにも思えます。
むしろ、年齢を重ねキャリアを積んだ方が作品や表現力も向上しそうなものです。
音源となれば尚更、完成して届けられた作品を聴く際に「40歳の人が作ったから聴きたくない」などと年齢を理由にジャッジする人はほとんどいないでしょう。
それでも、例えばレコード会社やフェスやイベントにアーティストをプレゼンする際には、かなりの確率で「年齢は?」と真っ先に聞かれます。
この事に、引っ掛かりを感じたわけです。
特に知識や経験の浅い若い頃には、
「年齢は関係ないだろ!」
と鼻息を荒くした事も正直言って何度もありました。
ただ、42歳にもなる今では、年齢を問う理由や意味も理解できますし、人によっては気にしたくて年齢を気にしている訳ではない事もしっかりと分かります。
若さが問われる理由とは
一定の活動期間の確保
レーベルでも事務所でも、新たにアーティストを抱えるのであれば、大前提として”辞めない”で活動をしてもらう必要があります。
音楽アーティストを生業として、それこそ老後や死ぬまで生計を立てられるのは本当に一握りです。
トントン拍子でスター街道まっしぐらとなれば良いですが、何年もの時間や何人もの人手、場合によっては多くの資金を投じてそれを目指します。
業界内でのセオリー的には、一定の形にできるまで少なくとも3年は必要とも言われています。
ここで年齢が問われる理由が発生してしまいます。
10代20代であれば、”夢”としてバイトをしながらでもモチベーションを持って、いわばこの下積みとも言えるこの時期に向き合いやすいです。
しかし、30代に差し掛かってくると、結婚や出産、周囲の同世代の生活レベルとの比較、将来への不安、家業がある人なら継ぐ継がない等、多くの現実的な課題と向き合う場面が増えていきます。
レーベルや事務所はパトロンでは勿論ない訳ですから、どこかのタイミングでそのアーティストの活動から利益を出さないといけません。
これから売り出そうとする為、契約から何年かは持ち出しやランニングコストのような形になります。
回収するラインを設定しなければ仕事として成立しませんので、この見込みが立つか否かが契約時の検討点になります。
例えば3年契約で3年目にリクープラインを設定していた場合、当然3年間は確実に活動をして欲しいですが、年齢が上がるほどに先に挙げたような理由から、活動を辞められてしまうリスクが高まります。
これはレーベルや事務所だけでなく、ラジオや雑誌、WEB媒体などのメディアでも、フェスなどのイベンターからしても同様で、新人アーティストの売り込みを受けて検討をする際、”将来”を期待して検討をします。
ビジネスである以上、最も避けたいのは投じた資金や時間、掲載や出演枠などが実益に繋がらない事ですから、リクープラインに達するまで活動を続けてくれる確率の高い若年アーティストが好まれるのは仕方のない事なのかもしれません。
ターゲット層とアーティストの世代のマッチング
家庭を持ったり職場でのキャリアアップが主な理由にはなると思いますが、音楽マーケットの顧客は、年齢を重ねる毎に音楽の消費に充てる金銭や時間が減少していく傾向にあります。
また、ポップ・ミュージックに関して言えば、世代感が強く問われます。
10代であれば同年代のメッセージにリアルを感じますし、20代、30代でも同じです。
年齢が上がるにつれ、顧客は新しいアーティストとの出会いへの積極性が減少し、音楽を楽しむとしても若い頃に好きだったアーティストを聴き続けるか、新たに知るとすれば国民的ヒット程度になっていきます。
例えば、40代のアーティストを新人として売り出すと考えた場合、出会いに消極的な同世代に訴求する事は難しく、積極的な10代にはリーチまでは出来ても世代感がフィットせずに共感を得ることが難しくなります。
対して10代20代のアーティストであれば、同世代の積極性のある顧客からの共感を得やすく、ヒットすることができれば自ずと高年齢層にも訴求する事が出来ます。
具体的に言えば、あいみょんや米津玄師、King Gnuは今では高年齢の一般層にも好んで聴かれていますが、その多くは"売れている"、"話題らしい"という二次的な波及効果によるものです。
強く支持し共感する同世代の顧客(ファン)の熱気が、おじさん・おばさんにも届いた結果と言えるはずです。
積極的に音楽を求めている年齢層が10代20代である以上、ビジネス視点であるほどにターゲット設定はそれに沿わせる必要に迫られてしまうというわけです。
高年齢アーティストの存続方法は無いのか
ここまでに書いた理由や、他にも例えば考え方の柔軟性や演奏力・作曲能力の伸びしろなど、若さが問われてしまう事は理解はできます。
しかし、実際に小規模なライブハウスなどで様々なライブを観ていると、年齢に関わらず素晴らしいアーティストは本当に沢山います。
この素晴らしいアーティストを知るほどに、年齢で可能性が減ることに悔しさや腑に落ちない気持ちが去来します。
これが冒頭に書いた”引っかかる点”や”素直に納得はしたくない”と感じる理由になりますし、私がいまでも音楽の仕事を続ける原動力になっているとも言えます。
今日現時点では、大きなレーベルや事務所、イベンターに売り込んだり目に留まる上では、一定の年齢を越えてしまうと確度が下がる事は間違い無いです。
一昔前であれば、メジャーレーベルとの契約が=プロのような感覚は強かったと思いますが、次第に状況が変わっては来ています。
音源配信サブスクリプションやSNSを利用すれば、誰でも楽曲や活動内容を他者に訴求することができ、クラウドディングや投げ銭、オンラインサロンやメルマガ、ECサイトやスマホ決済の普及など、ファンから直接収益を得る方法も増えています。
かつてはメジャーデビューほぼ一択だった成功ルートから、可能性や選択肢は確実に増えています。
音楽消費に積極的な世代が10代20代であることに代わりはありませんが、アーティストが自主的に同世代のファンを掘り起こす事が可能となってきている事や、収益確保の選択肢が増えた事で、以前なら”趣味”や”解散”と割り切るしかなかった状況も、今では可能性が残されています。
やり方次第では、例えば40代のファンベースを確保して、そこで生んだ熱気を逆に10代20代に波及させる事も不可能では無いかもしれません。
(MAN WITH A MISSIONのようにビジュアルや年齢に匿名性を持たせるのも一つの手だと言えるでしょう)
まとめ
今回のテーマは、どちらかと言えばアーティストの目線に立った不満や悔しさから書いていますが、企業の目線に立てば仕方がないと理解もしています。
個人的な今の気持ちとしては、どちらが健全とか正しいという事でもなく、ましてやこの不満や悔しさをそのまま相手にぶつけるような事でもないと思っています。
不満や行き詰まりを解消する為には、それぞれの立場でそれぞれの事情がある事を理解する事が必須でしょうし、その理解のきっかけになればと、アーティストの年齢についてという視点でまとめました。
願わくば、大ヒットとかではなくても良いので、40代とか50代のアーティストが解散する事なく、満員のライブハウスで普通にガンガンライブしているような状況になる事が、私の夢や目標の一つです。
ではまた◎
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