TINY MUSIC LIFE

音楽を仕事にする方法やビジネス論、考察や小ネタなどをお届けする音楽情報ワンパーソンメディア。by TINY RECORDS八木橋一寛

【Artist File①】The Strokes(ザ・ストロークス)は何故ロックンロール・リバイバルの旗手足り得たのか

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ックンロールやロックと呼ばれる音楽が誕生してから60年以上の年月が経ちました。

 

その中には、何度もターニングポイントと呼べる瞬間が存在します。

 

そしてそれは極端に言えば、60年代に起こったイノベーションの再評価&再解釈(リバイバル)を繰り返しているとも考えられます。

 

例えば、ブリットポップは60年代のブリティッシュ・ロック回帰ですし、80年代後半から90年代初頭のセカンド・サマー・オブ・ラブは名前の通りサマーオブラブの再解釈と言えます。ネオモッズも当然オリジナル・モッズのリバイバルです。

 

2000年代前半に大きなムーブメントとなったロックンロール・リバイバル(ガレージロック・リバイバル)も勿論そのひとつです。

 

今回は、その発端となったThe Strokes(ザ・ストロークス)について、その何が衝撃的でイノベイティブだったのかを掘り下げていきたいと思います。

 

 

The Strokes(ザ・ストロークス)登場前の90年代

音楽に限らずカルチャー全てにおいて、新たなシーンやムーブメントは突然理由もなく発生する訳ではありません

 

それは既存の体制やシーンへのカウンターや反動であったり、何か流れや理由があります。

 

その流れの確認のため、まずはザ・ストロークスの登場前の90年代をざっと振り返っていきます。

 

ロック・シーンに限定して90年代を振り返るならば、

  • グランジ
  • マッドチェスター(インディーダンス)
  • ブリットポップ
  • ビッグビート
  • トリップホップ

あたりが大きなムーブメントとして挙げられると思います。

 

90年初頭に爆発したグランジは、80年代のMTVやスタジアムロックに代表される肥大化したロックのショービジネス化に対しるカウンターとして機能した側面があると言えます。

 

その後94年頃より大きなブームとなったブリットポップは、US発祥のグランジに対するイギリスからの英国原点回帰に開き直った最後っ屁のような文脈が感じ取れました。

 

ブリットポップが隆盛を極める中、1997年にBlur(ブラー)のセルフタイトル作『Blur』がリリースされます。

 

ところが、その作品に収録された楽曲は、USオルタナティブ・ロック志向を全面に打ち出した作品でした。

これに加え、インタビューでフロントマンのデーモン・アルバーンは「ブリットポップは死んだ。」と発言。

 

このブリットポップ・シーンを牽引し代表するバンドであるブラーの作品と発言を契機に、ブリットポップは終焉に向かいました。(『Blur』リリース以前から既に陰りがあったのもあり)

 

ブリットポップの一大ムーブメントを終えたその後の98年〜2000年にかけて、USではYO LA TENGOやPAVEMENT、SUPERCHUNKなどを始めとするいわゆるUSインディー/オルタナ的な良作が多数リリースされます。

 

個人的にはこの時期のUSインディーが非常に大好きではあるのですが、大きなムーブメントにはなりませんでした。

 

そのため、メディアなどでは1998〜2000年の時期は、”ロック低迷期”というような表現をされる事がしばしばあります。

 

時期を同じくして、FAT BOY SLIM(ファット・ボーイ・スリム)や Propellerheads(プロペラヘッズ)、Les Rythmes Digitales(レ・リズム・デジタルズ)、といったDJアクトが台頭。

 

これらのアーティストは、BIG BEAT(ビッグビート)やデジタルロックなどと呼ばれ、リズミカルなダンスビートとその分かりやすく底抜けにアッパーな楽曲は大きな話題とヒットを連発しました。

 

また、ビッグビートにはロックバンド畑出身のアーティストや、往年のロックバンドの楽曲をサンプリングした楽曲も多く、ダンスミュージックのフォーマットでありながら、いわゆる”ロック・ファン”からも強い人気を集めた事も特筆すべき点と言えます。

 

その裏では、Massive Attack(マッシヴ・アタック)やTRICKY(トリッキー)を始めとしたブリストルのアーティストの人気も高まり、ヒップホップを下敷きにしたダークで音数を抑えたトリップホップと呼ばれるムーブメントも高い注目を集めていました。

 

The Strokes(ザ・ストロークス)デビューのインパクト

この時代だからこそ新鮮に響いたロックサウンド

ブリットポップの終焉以降、良質な作品のリリースは多数あったものの、”ロックバンドらしいムーブメント”は鳴りを潜めていました。

 

RADIOHEAD(レディオヘッド)やCOLDPLAY(コールドプレイ)などロック系の大ヒット作もありましたが、いずれもロック然とした作品ではなく、叙情的であったり陰鬱な作品が目立ちます。

 

一方、UNDERWORLD(アンダーワールド)やTHE CHEMICAL BROTHERS(ケミカルブラザーズ)は各国のフェスのヘッドライナーで飛び回るような人気の絶頂にありましたし、2000年にはDAFT PUNK(ダフトパンク)の「One More Time」の大ヒットなど、ダンスミュージック全盛の時期が続きます。

 

そんな中、The Strokes(ザ・ストロークス)の1stアルバム『Is This It』が2001年にリリースされます

※左:「Is This It」UK盤/右:US盤

 

60年代のロックンロールやガレージロックを、(一聴すると)ストレートに再現したような思い切りの良いロックバンド・サウンドは多くの人にとてつもなく新鮮に響きました。

 

ダンスミュージック全盛、ロックシーンも叙情派ロックがヒットの中心だった時代の中、”ド真ん中のストレート”のようなサウンドはカウンターとして機能したと言えるでしょう。

 

バイオフラフィー

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【メンバー】

  • ジュリアン・カサブランカス(ボーカル)
  • ニック・ヴァレンシ(ギター)
  • アルバート・ハモンドJr.(ギター)
  • ニコライ・フレイチュア(ベース)
  • ファブリツィオ・モレッティ(ドラムス)

1999年結成、2001年デビューのアメリカ・ニューヨーク発の5人組ロックバンド。

 

デビュー以降、多くの後発バンドを生み、ロックンロール・リバイバル(ガレージロック・リバイバル)を牽引しました。

 

2020年の現在まで6枚のオリジナル・アルバムをリリースし、2000年以降にデビューしたロックバンドの中では最も重要なバンドとして位置付けされていると言えます。

 

アメリカ、イギリス両国での成功

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ニューヨークのバンドであるストロークスですが、そのデビューはイギリスの老舗レーベル「ROUGH TRADE(ラフ・トレード) 」でした。

 

ラフ・トレードと言うと、往年のロック・ファンからすれば、それまでアズテック・カメラやザ・スミスといったいわゆるネオアコ・レーベルの印象が強く、当時は、

「なんでラフトレードからなんだろう?」

という印象がありました。

 

結果、このイギリスのレーベル発信であった意味は非常に大きく、デビューアルバム「Is This It」は英国内でたちまち大ヒットとなります。

 

この英国での大ヒットを受け、逆輸入的な形で本国アメリカでのブレイクを果たします。

 

この逆輸入であった意味が何故大きかったのかと言うと、アメリカは国土も大きく、州によりメディアも独自のシェアがあります。

そのため、1作目でヒットをするケースはイギリスや日本と比べ、非常に少なく難しいです。

 

イギリス先発でヒットをした事で、アメリカでのブレイクまでの時間を大幅に短縮する事ができたと考えられます。

 

加えて、NMEという圧倒的なメディアが存在するイギリスでブレイクした事で、イギリス国内で多くの後発バンド(ストロークス・フォロワー)を生み出せた意味も大きいです。

 

THE LIBERTINES(ザ・リバティーンズ)ARCTIC MONKEYS(アークティック・モンキーズ)、FRANZ FERDINAND(フランツ・フェルディナンド)といったその後のビッグアーティストを含めた大小様々なバンドが、凄まじい勢いで次々にデビューをしていきました。

 

当時、NMEがこのロックンロール・リバイバルを強く推していた事で、数えきれないくらいのネクストブレイク候補バンドが現れ、私も7インチ・シングルがリリースされる度に一喜一憂したのも良い思い出です。笑

 

後発バンドとは一線を画す芸術性

先に

「60年代のロックンロールやガレージロックを、(一聴すると)ストレートに再現したような〜」 

とわざわざ(一聴すると)と書きました。

 

後発の多くのバンドとは一線を画していると個人的には感じている為、そのように書きました。

 

多くのフォロワーを生んだ「Is This It」でのドラムサウンドに顕著ですが、その音色にはかなり加工が施されているのが分かります。

中には「ビニール袋を被せて叩いている曲もある。」とのちのインタビューで見ましたが、ただ60年代のサウンドを再現したような古臭さを「Is This It」からは感じませんでした。

 

これは彼らが経済的に豊かなNYの上流階級の出自であることにも理由があるようにも思えますが、アレンジやアートワーク、そのファッションからも、高いインテリジェンスを感じます。

 

イギリスのロックバンドと言うと、直後に大ブレイクを果たすザ・リバティーンズも、オアシスなども、「そこらへんの兄ちゃん」だからこその等身大なリアルさが生まれ、それを求心力とするバンドをイメージします。

 

しかし、ザ・ストロークスからはそれを全く感じません。

むしろ、非常にクレバーに音楽を作っているように感じました。

 

当時、ロックンロール・リバイバルを評する際に、”初期衝動”をキーワードにした雑誌などの記事を多く見ましたが、そんな記事を見る度に、

「ストロークスは違うだろ。。。」

と思っていたのは、そんな理由からでした。

 

事実、以降の作品は、多くの後発バンドとは異なり常に彼ら流のサウンドのアップデートや挑戦が見て取れます。

 

デビューアルバムから一貫して、ロックバンド然としたメンバーの映ったアートワークを排除している点からもそのアティテュードを感じます。

 

フォト、イラスト、グラフィック、タイポグラフィと毎作大きくコンセプトの異なるアートワークを打ち出し、今年2020年の最新作ではジャン=ミシェル・バスキアの絵を全面に使用しています。(最高すぎるのでレコードプレーヤーを持っていない人も絵画代わりにオススメしたいくらいです)

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※記事書いた時は受け取れてなかったのですが、アナログはポスターも入っていました◎ 

 

最後に

おそらく、後追いで聴くと音楽性の素晴らしさは理解できても、真新しさは感じない正統派なロックサウンドなだけに、そのインパクトがどこにあったのかは分かりにくいかと思います。

 

時系列を整理して伝える事で、そのインパクトが改めてしっかりと伝わればと思い、今回このような記事を書いてみました。

 

個人的な好みで言えば、ザ・ストロークスやブラー、フランツ・フェルディナンドのようなインテリなバンドより、ザ・リバティーンズやオアシスのような”自分と大差ないそこらへんの兄ちゃん”バンドの方が好みではあるのですが、ザ・ストロークスまで突き詰められていると愛さざるを得ません。

 

そんな訳で、2000年以降最も偉大で敬愛するザ・ストロークスを今回はチョイスしましたが(フジロックで観れなくなった悔しさもあり涙)、また別のバンドでも書いてみたいと思います。

※追記:第2回目はコチラ 【Artist File②】 比類なきポップソング・メイカー、FOUNTAINS OF WAYNE - TINY MUSIC LIFE

 

普段は音楽業界の考察やHow Toを中心に書いていますので、よかったら合わせてそちらもご一読ください。  

 

TINY RECORDS八木橋でした◎

ではまた◎

 


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