音楽サブスクリプションサービスの台頭から、もう何年もの時間が経過しました。
リスナー目線だけで考えると、メリットはあってもデメリットはないように感じます。
何しろ、月額さえ支払えば、いちいち買いに行く必要もないですし、小額で多くの音源を聴くこともできます。
プレイリストを活用して聴けば、新しい音源とも出会いやすいかもしれません。
ですが、アーティスト目線で考えるとどうなのでしょう?
このブログでは以前既に、ある程度の音楽サブスクリプション・サービスへの言及や、「案外収益になると思う」といった趣旨の意見を以下の記事で書いています。
今回は、「では何故収益になると思うのか?」について改めて書き進めたいと思います。
【目次】
音楽サブスクリプションとは?
所有をしないリスナー体験
まず、サブスクリプションとは、
”商品単位で購入をするのではなく、期間に対して一定の料金をユーザーが支払う事で、プラットフォーマーから提供される製品やサービスが利用できる。”
というビジネスモデルになります。
ここで言う音楽サブスプリクションに関して言うと、この提供する製品やサービスがアーティストの楽曲という事になります。
CDやデータ販売に代わって、現在ユーザーが音源を楽しむ手段として、最も広く利用されているモデルとなっています。
これについても、音楽業界のおおまかな未来予測 の記事で触れたのでそちらも参照いただきたいのですが、”音源を所有しない”点が大きな特徴と言えると思います。
ユーザー側にかかるコストの大幅ダウンや、所有をしない事による居住スペース圧迫からの解放。
これにより、所有をしないサブスクリプションという形は急速に普及したと言えるでしょう。
新たなリスナーへの接触機会の創造
これまでのパッケージソフト販売では、”ソフトを購入し、手持ちの再生プレイヤーでそのソフトを再生して聴く”という過程で音楽を聴く必要がありました。
これに対し、音楽サブスクリプションは、希望の楽曲さえプラットフォームにあれば、即聴く事ができます。
”音源の購入”というプロセスが丸々カットされているので、ある種”聴きたいと思った瞬間に聴く”事ができます。
また、プラットフォーム側でキュレーションをした”プレイリスト”という存在も大きいです。
予期せぬ新しいお気に入りの音楽と出会うきっかけとしての機能性が高く、ラジオやテレビでも偶発的な楽曲との出会いはありますが、ある程度”自分の好み”に対応した出会いを得やすい利点があります。
この偶発的な出会いの増加は、特に認知度の低いアーティストにとっては、アーティストとリスナーを繋ぐ新しい機会として大きなチャンスが広がったと考えられます。
一方、これはデータ販売の時点から起こり始めていましたが、パッケージ販売のときのような”アルバム”というフォーマットから、単曲で音楽を聴く流れを強めた点は、アーティストによっては”弊害”と感じる場合もあるかもしれません。
主な音楽サブスクリプション・プラットフォーマー
現在、非常に多くのサブスクリプション・サービスが存在している戦国時代といった様相です。
それだけに、そのシェアは短期間に入れ替え代わりがあるようですが、主な物をリストアップします。
- Apple Music
- Spotify
- LINE MUSIC
- Google Play Music
- Amazon Music Unlimited
- YouTube Music
- AWA
コアな音楽ファンにはSpotifyが特に人気が高い印象がありますし、LINE MUSICはライト層や若年層に強いイメージもあります。
それぞれにカラーがあるので、色々試して選ぶと楽しいかもしれませんね。
(私は上の3つしか使っていないのですが。。。)
インターフェースの好みや、聴きたい音楽のゾーン、料金設定などからユーザーは利用サービスを選ぶ形になりますが、この乱立から3つ4つくらいまで淘汰が進んできた時に、更にアーティストにとってもリスナーにとっても、状況が大きく変わるような気がしています。
収益化の流れ
では、アーティストはどのようにしてサブスクリプションで収益化をしているのでしょうか。
簡単に言えば以下の3ステップになります。
- 楽曲制作
- サブスクリプション・サービスへ配信登録
- 再生回数に応じてアーティストへ分配
なにはなくとも、まずは楽曲です。
アーティストは、楽曲制作を行い、完成した音源を希望のプラットフォームで配信する為の登録手続きを行います。
手続きは、インディペンデントに活動をしているアーティストであれば、自身でその作業を行いますし、レーベルがついていればレーベル側で基本的には行います。
レーベルがついている場合は、この収益も一度レーベル側で受け取り、アーティストにはレーベルから入金する形が一般的になります。
その際、レーベル側でも事前に決めた取り分を受け取る事になりますが、代わりに登録作業や売上の管理、各プラットフォームへの営業など行ってくれます。
サブスクリプション・サービスでは、好みの”プレイリスト”を選んで聴くユーザーも多く、登録者の多いプレイリストに入れてもらえるか否かは、再生数に大きな影響を及ぼします。
また、非常に多くのサブスクリプション・サービスがある現在、一つ一つ登録や口座を開いていくのは大変です。
その為、一括して楽曲を登録できるハブのようなサービスとして、TuneCore(チューンコア)というサービスを経由して、楽曲登録を行う場合も多くあります。
このチューンコアが、各プラットフォームへの営業的な動きを代行してくれるケースもあります。
配信が開始されると、プラットフォーマーはリスナーから徴収した月額の中から、アーティストへ収益の分配を行います。
この分配は、再生単価と再生回数を基に算出する形となるため、再生数が少なければ小額になってしまいますし、多ければ当然その分収益は増します。
良い面、悪い面
サブスクのメリット
CDやレコード、ダウンロード販売のような”売り切り型”ではないため、再生をされ続ければ、同一の楽曲を永続的にマネタイズする事が可能な点が最大の特徴になります。
売り切り型であれば、1000円や3000円で販売したら収益としてはそれきりですが、 サブスクの場合は、同一楽曲でも収益は青天井です。
もちろん、そのためには長い期間聴かれ続ける楽曲でなければなりませんし、容易に売り切り型の収益を上回るとは言えません。
また、”プレイリスト”を通して、リスナーに訴求が行える点は、アーティスト的には最大のメリットであると言えます。
まったくの無名のアーティストであっても、プレイリストをきっかけに大ブレイクを果たしたケースも過去にいくつかあります。
Spotify(スポティファイ)などは特に、このプレイリストをアーティストの知名度などではなく、楽曲のクオリティ優先で作成し、ネクストブレイク・アーティスト作りの一旦を担った感も強いです。
この点は非常に、インディーアーティストにとって、希望がもてると感じています。
他にも、シンプルに、”物”として在庫を抱えたり、ソフトをプレスする必要がないというのも大きなメリットではあります。
サブスクのデメリットや課題点
新規のリスナー獲得という面では、プレイリストで訴求ができるサブスクは非常にメリットがあります。
ただし、どのプラットフォームもその月額は1000円以下程度と、非常に低い価格設定となっているため、アーティスト目線で考えると、どうしても再生単価に不満や疑問が残ってしまいます。
この不満の最大の原因は、単にアーティスト側の取り分の金額の話ではなく、”アーティストの楽曲で、そのプラットフォームに集客をしているのに”という事だと感じています。
これは、以前書いたジャスラックの話にも近いかもしれません。
要は、
「こんなに聴かれてるのに、これしか収益が入ってこないのか。」
と感じているアーティストは少なくないという事です。
音楽サブスクリプション・サービスが出始めた頃と比べると、改善は見られていますし、一定の相場感は固まってきた感はありますが、ネックに感じてしまっても致しかたがないとは思います。
ですが、現状はまだCDやダウンロード販売も並行して行っており、そこでも収益は確保が可能です。
それに加えてサブスクでも収益化が可能だという現在は、多くの集金ポイントを設計できるので、個人的にはそこまで悪くはないとも感じています。
もちろん、これについては、それぞれのアーティスト目線でのポジショントークになってしまうので、”全然収益にならないアーティスト”と”案外良い収益になっていると感じるアーティスト”に分かれるでしょう。
より強い収益源になるには?
新規リスナーの獲得に繋がる面を持ち、十分とは言い切れないまでも収益にもなるという事は、ここまでで書いてきました。
であれば、あとは十分な収益になれば、理想的な音源提供の場になるとも考えられます。
再生単価などアーティスト側への分配が、満足のいくものではないとは書きました。
ですが、この点については、プラットフォーム側が不当に搾取をしているために、分配が少ない訳ではないと考えています。
先に書いた通り、ユーザーの支払う月額が非常に安価なため、必然的にそうならざるを得ないと感じています。
ではなぜ、月額が非常に安価なのかと言えば、プラットフォームが乱立している為、価格競争をせざるを得ないからです。
1社独占は当然賛成できるものではありませんし、競合する事で価格が下がる事は消費者としては良い事です。
ですが、ここまで多くのサブスクリプション・サービスがあると、シェアの獲得が激化してしまうのは必定です。
例えば、高いポイント還元率や手数料無料などの価格競争が激しい、PayPayなど電子マネーなども似た状況にあると思います。
競争の末に、3〜5社程度にまで淘汰が進んできた際に、価格競争は一旦落ち着き、ポイント還元率や手数料も適正な数値になるでしょう。
音楽サブスクリプション・サービスも同様で、3〜5社程度まで絞り込まれた際に、月額料金も現在の金額より引き上げが起こるはずです。
そうなった時に、アーティスト側にとっても、納得のいく強い収入源として考えることができるようになるかもしれません。
是非そうなって欲しいなという希望も込めて、今回はこれにて締めたいと思います。
それでは◎