アフターコロナやウィズコロナが、どの業界においてもキーワードになって久しい昨今。
新型コロナウイルスそのものが、この先どこまでの猛威をふるい、いつ終息するのかは神のみぞ知るところ。
だからこそ、withやafterについて今から各々が考えているわけです。
音楽業界はどうか?
いつかはまた、音楽ライブは行われるのは間違いないと思います。
思いますが、一気にコロナ以前のような状態には戻れないでしょう。
距離や接触についての配慮は必須になるでしょうし、そうなればコストもかかります。
ライブ会場のキャパシティも下げなければなりません。
同じライブ公演でも収益性はビフォアーコロナより下がるはずです。
それも当然、大きなダメージです。
ですが私が最も大きなダメージだと推察しているのは別の点にあります。
協賛や出資が集まらない。
という事です。
その理由や損失の大きさについて、書き進めていきます。
【目次】
協賛・出資の必要性
小規模な公演では、協賛や出資というのはそう多くはありませんが、音楽フェスティバルやホール、ドーム規模になると話は別になります。
例えば、音楽フェスの公式サイトなどを見てください。
ページ下部には多くの企業ロゴが掲出されていたり、時には協賛各社が並んだ専用のページがある場合もあります。
そもそも、
「チケット代を取っているのだから、コンサート・ビジネスに協賛や出資って必要なの?」
と思われるかもしれません。
もちろん、その通り、必須ではありません。
必須ではありませんが、必要ではあります。
開催が大きな規模になるほど、当然多くのチケットを販売する必要が出てきます。
そのためには、売るためのプロモーションも必要ですし、より動員に繋がるアーティストをブッキングする必要も出てきます。
来場者に満足してもらう為の設備費用も必要です。
コンサート・ビジネスは確かにチケット収益が主体ですし、その収益見込みを逆算して予算組みを行います。
ですが、チケットというものは、必ず売れるとは限りません。
見込みは立てれますが、確実に保証された収益ではないのです。
一方、協賛は、開催前の段階で協賛枠を販売することができます。
"見込み" ではない、確実な収益になります。
出資についても、リスクヘッジとしてとても重要です。
黒字が出た場合には出資率に応じた配当を分配し、赤字が出た場合には同じく出資率に応じて補填をしてもらいます。
確実にチケット売上のみで、採算を合わせることができるとしても、協賛などで資金を集めることができれば、より良い設備投資や、ファンサービス、プロモーションに予算を割くことができます。
このような理由により、"チケット"という物品販売ではない"コト消費"を扱うコンサート業界としては、"コンサートというインフラをお金にできる"協賛や出資は、リスクヘッジや発展のために重要な集金ポイントと言えるのです。
協賛・出資離れが起こり得る理由
同調圧力からの回避
それでは、何故私は、"協賛・出資が集まらない"事を懸念しているのでしょうか。
まず、この記事のタイトルでは"終息"ではなく"収束"としています。
ワクチン開発や医療整備が整い、完全に新型コロナの脅威を克服した"終息"の段階であれば、インフルエンザと同等の扱いになるはずです。
であれば、通常通りに戻れるはずですから、なんの問題もありません。
時代に応じたビジネスモデルの変化はあるでしょうが、これはいわゆるアフターコロナの段階です。
"収束"。
こちらが今回の懸念が生まれる段階です。
"一旦の収まりは見せている"といった状態。
いわゆるWithコロナの段階です。
この段階では、
- 飛沫を飛ばさない
- ソーシャルディスタンスを保つ
- 十分な換気・消毒を行う
といったコロナ対策が必要です。
これは、ライブエンタメにとって大きな障害になります。
それでも、対策の上で、徐々にライブは開催されていくでしょう。
ですが、想像をしてみてください。
既に、ライブハウスなどには「営業をするな!」といったクレームが相次いでおり、ニュースでも報じられています。
上述のコロナ対策を行なっていたとして、こういったクレームは収まるでしょうか?
私は収まらないと考えています。
いくら対策の上だとしても、ウイルス感染です。100%防ぐのは不可能に近いです。
いつかはコンサートの場で、感染者が出る可能性は高いでしょう。
そして、仮に1件でも感染者が発生した場合、またすぐに営業や開催が自粛ムードに向かわざるを得ません。
この"自粛ムード"を作り出すのは、同調圧力です。
最初はごくわずかな「ライブはダメだ!」という声が、雪だるま式に膨れ上がり、まるで世間全体の声のようになっていきます。
これは既に、3月の大阪のライブハウスでのクラスター感染発覚の時点で確認済みです。
企業が協賛や出資を行うのは、ボランティアではありません。
自社の利益(直接的な収益という意味だけではなく)になると考えてのことです。
世間の批判の矢面に立つリスクのある音楽コンサートに、企業がお金を出すでしょうか?
お金を出して尚、バッシングを受けるリスクがあるのですから、当面は避けられてしまうのは必定です。
中止リスクの回避
次の懸念点として、中止リスクがあります。
企業からすると、批判やバッシング以前に、まずこちらを気にするでしょう。
協賛や出資に入っても、中止になっては全く意味がありません。
ワクチンもない状態で終息を見ていない段階ですから、いつまたコンサート会場で感染者が出たり、感染が拡大するか分かりません。
少なくとも、この中止リスクがある間は、協賛・出資控えは避けられないと想像ができます。
協賛・出資損失のもたらすダメージ
コンサート興行のハイリスク化
"協賛・出資の必要性"の方で既に少し触れていますが、大きく2つのダメージが考えられます。
1つめがこのハイリスク化です。
先に書いた通り、チケット売上というのは事前には分からない不確かな売上です。
その不確かさの補填やリスクヘッジの為に、協賛や出資が必要だということも既に書きました。
この状態は、コンサート興行のリスクが高まっていると言えるでしょう。
ハイリスクになれば、開催を控える主催者が増えることが予想されます。
開催をしたとしても、withコロナにおいては、チケットセールスの確保が以前より難しくなる可能性も高いです。
そうなった場合、これまでコンサートでの収益を主としてきた(あるいは見込んでいた)会社にとっては、少なくともこれまで同様のビジネスモデルでは収益は下がらざるを得ないでしょう。
プロモーション力・顧客満足度の減退
2つめが、このプロモーション力・顧客満足度の減退です。
これも既に書いた通り、資金的な体力があるほどにプロモーションや設備に予算が避きやすいです。
必ずしも宣伝費と宣伝効果は比例はしませんが、宣伝費が下がる事自体はプロモーション力も下がったと言って差し支えないと思います。
例えば、これまでと遜色がないラインナップのフェスやイベントの開催があったとしても、消費者にその情報が届かなければ意味がありません。
届いたとしても、露出量が落ちれば「なんか今年話題になってないな」とか「あまり情報見かけないけど大丈夫なのかな?」などネガティブな心配を産むかもしれません。
これはまた別記事で改めて書きたいと思いますが、現在のフェスやイベントの集客において、"人が集まりそう"、"話題になっている"という空気感作りは、最も強い来場動機付けになっていると思います。
あちこちで目にし耳にする、友達がみんな行っている、SNSに投稿すると反応が良い、そんな連鎖を作れているイベントやフェスに人が集まっています。
また、協賛や出資が減った場合には、宣伝費だけでなく、会場内の設備や装飾などに割かれる予算も削らざるを得ない事も予想されます。
音楽コンサートである以上、もちろんライブで満足感を与え切ることができれば問題はない話ですが、我々は既に、鮮やかな場内装飾や、快適な会場環境に慣れてしまっています。
過去にはあった装飾やオブジェが削減される事もあるかもしれませんし、100人いた会場整理スタッフが50人になるかもしれません。
これらはいきなり表面化する問題ではないかもしれませんが、withコロナというタームが仮に数年続いてしまった場合には、少しずつ起こりうる問題ではあるかもしれません。
まとめ
繰り返しになりますが、今回の考察の時期設定は、ワクチンのない状態でコンサートが再開した場合のいわゆるwithコロナの段階となります。
アフターコロナとなれば、これまで同様のコンサートやフェスは行われるでしょうし、海外と比べて大幅に遅れていた、フェスなどの同時配信なども加速するはずなので、今よりも楽しみやすい状況にすらなるかもしれません。
音楽が好きな人は、どんな状況でも音楽を求めるとは思います。
ですが、音楽業界や音楽ビジネスの視点で考えた場合、消費者の多くの割合を占めるのは、「音楽が好きな人」ではありますが、「とても好きな人」ではありません。
選挙で言う浮動票に近いかもしれません。
音楽コンサート以外にも、人々が楽しめる娯楽は山のようにある時代です。
ちょっとした変化で、その浮動票が別の娯楽に移ってしまう事はあるでしょう。
我々のような音楽を仕事にする側は、胡座をかかずに、その事を意識しておくべきかと言う自戒の念を込めて、今回は書いてみました。
では、また◎